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噴水前の歌広場

PPP一周年記念SS


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「じゃあ、きちんと一から歌いなおすね?」
「やめてくださいよぉ!」
「……いや、お願いするわ」
「えっ?!」
 僕の横ですごく厭そうな声が聴こえました。
「……いいの?」
 もちろん、歌を聞いてもらえるのは嬉しいのですが。
 ならなぜ改めて問うたのかというと、今イーちゃんの興味は手の中の小瓶に集まっているように見えたからです。片膝を胸に抱え込んで、椅子の上で小瓶を明かりに掲げて透かす姿はとっても綺麗ですが、僕は集中の邪魔はしたくありません。
「いいのよ。でも、お願いしたいのは、お化けの歌じゃなくて、いつものあれね」
「いつもの?」
「ほら、何といったかしら……るるぅ、何とか」
「いいの!?」
 自分の顔がぱぁっと明るくなるのがわかります。
 なぜなら僕にとってこの歌はとくべつだからです。
 嬉しさのあまりぴょんぴょんと飛び跳ねてから、楽器をいそいそと隅に置くと、床に膝を付いて、胸の前で手を組み、頭を垂れます。
 正しい姿勢で唄う歌にこそ意味があるのですふんぐるい。
 エっちゃんは自分を抱きしめるように腕を回して、イーちゃんの傍で小さくこちらとイーちゃんを交互に見ていますむぐるうなふ。
 僕の歌は微かに朗々と綺麗に歪んで部屋を満たしますくつるぅ。
 歌が部屋を満たすに連れてイーちゃんがいつも手放さず持ち歩いている本のページが独りでめくれまするるいぇ。
 本棚がカタカタゆれてみしみし床がきしみひそひそ声がしますうがふなぐる。
 ふたぐん、と最後の一節を歌い終えた瞬間、バン!! と大きな音を立てて先程入ってきた扉が何かに叩かれ、内側に思い切り開かれました。
 だれも喋りません。
 しん、と静寂が耳を叩いて、ほこりのつもる音が聞こえます。誰も動かない、まるで海の底のような静かな時間が続きました。
「わかったわ」
「ぴぇい!?」
 ぎしっと音を立てて、イーちゃんが立ち上がりました。その音をおっかながって涙目のエっちゃんが飛び跳ねます。どきどきどきどきと心臓の音がここまで聞こえてきます。

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