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樹上の村

街角保管室

街角の更新ログ

何となく残しておくと面白いかも知れないと思ったので記録しておくことにする。

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2019/7/23(2/2)

 ……そんな切返しに酷く焦った事を覚えている。
 酷く胡乱に、朧気に。朽ちてノイズ掛かった映写機のように、そんなシーンを覚えている。
「俺は特別だからな。そういう事もあるんだよ!」
「……何だかそっちばっかりずるい気がするでごぜーます」
 特異運命座標はこの世界に必要とされ、愛された存在だ。やがて滅びに向かうという混沌の結末を唯一変え得る――空中神殿はそんな選ばれし者に行く末を与える特別な場所だ。
 唯一つの手違い、即ち女の言ったこの俺を除いては。
 ……そう、俺は特異運命座標足り得ない。
 俺は特別じゃない。俺は親を亡くした唯のクソガキでしかなかった。
「俺は頼んでねーし。オマエ達の手違い(バグ)だろ、つまり俺は悪くない」
 この時の俺はそれを何とも思わなかったけれど――俺は確かにバグだった。バグだからこの場所に到れても、バグだから――何十年経ったって絶対に俺に運命(パンドラ)は微笑まないのだ。
 どれだけ願っても間違い(バグ)。どれだけ呪っても――それは手違い(バグ)。
「だから、オマエは大人しくいじめられてろ!」
「……………」
「不満そうじゃん」
「……何だかすっごく理不尽でごぜーますよ?」
「へへへ、そうやって別の顔もしろよな、少しはさ!」
 能面のように動かない少女の美貌が、少女の眉が僅かに顰められたのが何より嬉しかった。
 そんなささやかが見たくて。良く見なければ見落としてしまいそうな変化が見たくて――
 ――我ながら馬鹿だ。繰り返した詮無いやり取りは一回二回の話じゃなかった筈だ。
「――は、本当に変な『子』でごぜーますね」
 俺は「オマエほどじゃねーよ」と憎まれ口を叩いて、陽だまりの中で伸びをした。
 遠い夏の日、俺は確かにあの女に出会った。
 何者でもなかった俺は――そんな些細な出来事で余りに鮮やかな特別を知った。
「そろそろ散歩も飽きてきたからな。今日はどうするか。
 なあ、どうしたい――今日は何しよっか、ざんげ!」


 ……今日は? 馬鹿言え。何も出来ないまま――二十六年も経っちまったよ。
 あの日、手を伸ばせば届きそうだった空と同じように、世界は確かに何処までも広がっていた筈だ。
 なのに、あの時オマエが何て答えたかも――俺は、もう明瞭に思い出す事も出来ないんだ。

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