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樹上の村

街角保管室

街角の更新ログ

何となく残しておくと面白いかも知れないと思ったので記録しておくことにする。

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2019/7/4(1/2)

Lasting child
 ――かつて愚かな老修道女が居た。

 朝日が昇るずっとずっと前に、彼女は目を覚ます。
 祈りと共に過ごし、朝日が昇った後に皆の朝食を作る。祈り、それから食す。片付ける。
 すぐ昼前には使うというのに、いちいち乾かしてから棚へ戻す仕草を他の修道女達は笑いものにしていたが、老婆は気にも留めていなかった。
 時折片付けたはずの食器が洗い場で濡れている事もあったが、それも丁寧に洗い直した。
 みんな決まってくすくすと笑ったが、彼女は微笑んだ。

 来る日も来る日も。ただ食事を作り、修道院の掃除を続けて聖典を読み祈る。
 農作業、修繕、機織り。自身は一滴とて飲むこともない葡萄酒造り。
 愚直で善良なだけが取り柄の老婆だった。

 幾星霜と繰り返す日常。
 巡る季節の中、しかし運命の歯車が動き出す。

 院長の部屋を掃除している時の事だった。
 書類になにやら計算違いがあるではないか。
 彼女は純然たる善意から、それを丁寧に指摘してやった。
 審問官が現れたのは、次の日のことだ。
 嫌疑は『修道院の帳簿を書き換え、修道院長と司教を陥れようとした罪』だ。
 愚かな彼女は、そこで初めて気がついた。
 己が見つけたものは、裏帳簿だったと。
 彼女は愚直に弁明したが、それが更に事態を悪化させた。

 そうして遂に。
 嘆きの谷、その断崖絶壁を背にして、彼女は審問官の足下へとすがるに至る。
「妾は……どこで間違えたのであろ」
 老婆の問いに審問官は慈悲をかけた。
 彼女の弁明が正しいのであれば、これは殉教となる。
 そうでなければ贖罪となる。
 少なくとも確かにそれを『慈悲』だと言った。

 老婆は――本当は知っていたのだ。
 この国が、その正義が、白一色ではないことを。

 衝撃と共に、身体が宙へ浮く。

 力があれば良かったのか。
 金があれば良かったのか。
 権力か。
 それとも。

 やりなおしたい。

 ――やりなおしたい。

 ――――やりなおしたい!

 ただそれだけを願い、老婆は谷底へと消えてゆく。
 そこで聞いた『あの声』は果たして救いだったのか――

 ――――

 ――

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