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樹上の村
2019/6/18(1/2)
リゴール・モルトン
ゴロゴロと雷の音が遠くに聞こえた。
天の怒りとも、地の慟哭とも取れる低く重苦しい轟音は世界を包む澱である。
人々の不安を、運命の暗転を表すかのような鈍色の空は滂沱の涙を聖都へと降らせるばかり。
曇天の零した雫が地面に無数に跳ね返る。
その合間に絶え間なく聞こえてくるのは甲高い銃声とくぐもった破砕音だ。
「この国はどうなってしまうのか……」
厳めしい顔をしたリゴール・モルトンは窓の外に見える聖都の町並みを見つめる。
リゴールの瞳に映るのは白と灰色の風景だ。しかしそこに見慣れた整然たる表情は無い。
彼の顔色を悪からしめる材料と等しく、街は平素のものならぬ鬱屈と騒乱に満ちていた。
月光人形の出現から始まった天義の騒乱は、この期に及び聖職者勢力を二分するまでに至っていた。
天義という国家の運営を酷く難しくする教会勢力は元々絶大な力を持っていたが、現在はそれをしても非常である事は否めない。国王にして法王たるシェアキム・ロッド・フォン・フェネスト六世の統制力は高いが、民心の乱れと王宮執政派の助力を受けたアストリア枢機卿の動きは厄介極まりないものになっていた。結果的に生じた派閥めいた状況は、対立軸のままに聖都の均衡を崩していた。そこに天義の歴史もその名を覗かせる――高位聖職者であるリゴール等、一部の人間は旧き文献にその影を見ている――魔種の存在が絡んでいるとあらばこれは最悪と言わざるを得まい。
「青天の霹靂か。まさか、こんな事になろうとは」
些か融通は利かないが、フェネスト六世はカリスマと公明正大、度量を併せ持つ立派な天義王である。
中枢に多少の問題を飼っていたとはいえ、清流の天義とて人の世の営みなれば。多少の濁も併せ呑むべきは必然。
篤実たる聖騎士団長の存在もあり、その治世にこんな事件が起きようとはリゴールは思っていなかった。
「……青天の霹靂、か」
目を閉じ、額を押さえたリゴールの瞼の裏に在りし日の妹と親友の姿が浮かんでは消えた。
運命は残酷だ。誰しも、誰をも、何をも。国も命も愛も全て波のようにさらってしまう――
リゴール・モルトン
ゴロゴロと雷の音が遠くに聞こえた。
天の怒りとも、地の慟哭とも取れる低く重苦しい轟音は世界を包む澱である。
人々の不安を、運命の暗転を表すかのような鈍色の空は滂沱の涙を聖都へと降らせるばかり。
曇天の零した雫が地面に無数に跳ね返る。
その合間に絶え間なく聞こえてくるのは甲高い銃声とくぐもった破砕音だ。
「この国はどうなってしまうのか……」
厳めしい顔をしたリゴール・モルトンは窓の外に見える聖都の町並みを見つめる。
リゴールの瞳に映るのは白と灰色の風景だ。しかしそこに見慣れた整然たる表情は無い。
彼の顔色を悪からしめる材料と等しく、街は平素のものならぬ鬱屈と騒乱に満ちていた。
月光人形の出現から始まった天義の騒乱は、この期に及び聖職者勢力を二分するまでに至っていた。
天義という国家の運営を酷く難しくする教会勢力は元々絶大な力を持っていたが、現在はそれをしても非常である事は否めない。国王にして法王たるシェアキム・ロッド・フォン・フェネスト六世の統制力は高いが、民心の乱れと王宮執政派の助力を受けたアストリア枢機卿の動きは厄介極まりないものになっていた。結果的に生じた派閥めいた状況は、対立軸のままに聖都の均衡を崩していた。そこに天義の歴史もその名を覗かせる――高位聖職者であるリゴール等、一部の人間は旧き文献にその影を見ている――魔種の存在が絡んでいるとあらばこれは最悪と言わざるを得まい。
「青天の霹靂か。まさか、こんな事になろうとは」
些か融通は利かないが、フェネスト六世はカリスマと公明正大、度量を併せ持つ立派な天義王である。
中枢に多少の問題を飼っていたとはいえ、清流の天義とて人の世の営みなれば。多少の濁も併せ呑むべきは必然。
篤実たる聖騎士団長の存在もあり、その治世にこんな事件が起きようとはリゴールは思っていなかった。
「……青天の霹靂、か」
目を閉じ、額を押さえたリゴールの瞼の裏に在りし日の妹と親友の姿が浮かんでは消えた。
運命は残酷だ。誰しも、誰をも、何をも。国も命も愛も全て波のようにさらってしまう――
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何となく残しておくと面白いかも知れないと思ったので記録しておくことにする。