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樹上の村

街角保管室

街角の更新ログ

何となく残しておくと面白いかも知れないと思ったので記録しておくことにする。

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2018/9/11(1/2)

愉悦とゲイム
 商都サリュー。混乱の多い幻想で最も安定していると呼ばれたこの街は、今や最も安定しながらも、最も混乱を望む場所に成り下がっている。
「して、首尾はどうなんだい。きっと良い報せを聞かせて貰えるのだろうね?」
 飄々と言うクリスチアン・バダンデールこそ、サリューの『王』。圧倒的な財力と確かな政治的基盤、人望と才覚を有しながら『まるで人が変わってしまった』彼は、まさにこの街の抱く病巣そのものである。性急さを知らず、稚拙さを嫌い、優雅に華麗に――そして実直に困った事には勤勉に。『魔種』と呼ばれる存在の多くが抱く欲望(げんざい)に身を灼きながら、派手な事件を起こすのとは対照的に彼の遊戯(ゲイム)は『熱のない熱情』を現すかのように静かであった。
「戯けが。わしに言葉遊びを弄するでないわ」
 前髪を軽く弄るクリスチアンを一蹴したのは彼の視線の先に居る梅泉である。
 クリスチアンの『使い走り』で梅泉がかの盗賊王の元を訪れたのは暫く前の出来事である。
「結論から言えば主次第といった所か」
「ほう?」
「しかし、存外に慎重な男よ。彼奴め、微塵も隙も無い」
 顎で結果を問うクリスチアンにこそ『問答は無意味』と考えたのか梅泉は不親切で一方的な報告を始めた。
「首でも刎ねてやろうかと思ったが、なかなかどうして――愉快な輩よ」
「……君ねぇ」
 雇い主が雇い主ならばメッセンジャーも不良に違いなかった。梅泉の眼鏡に叶ったキング・スコルピオは問題なく健在で、クリスチアンの伝言が一応は果たされたのは――果たして、幸か不幸か。
「まぁ、諸手を上げて飛びついてくるような男じゃないのは知っている。
 だが、どの道彼も手詰まりだ。やがて、此方の話に乗るさ」
「自信家め。傲岸不遜にして身勝手――主も随分と変わったな?」
「出会った頃よりはね。目的が違えば手段も思考も変わるものだ。
『君と出会った時、私はこのサリューを維持し、発展する事を望んでいた』。
 一方で、今の私は」
「理由も何もなく、唯試してみたいのじゃろう?
 その手で、その力で、どれだけの混乱をばら撒けるか――世界をどれだけ破壊出来るか。
 酔狂よな。黙っていても面白おかしく生きられように」

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