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樹上の村

街角保管室

街角の更新ログ

何となく残しておくと面白いかも知れないと思ったので記録しておくことにする。

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2019/10/11(2/4)

「よう」
「……よう?」
 ファルカウは旅人さんの話で持ちきりだった。
 彼は酷く社交的で外の世界の事を殆ど知らない幻想種(わたしたち)にとっては格好の興味の対象だった。
 療養の為の短期の滞在と聞いていたけれど、「あの子達が離さないから」と姉は苦笑いしていた。
 だから――彼の滞在は思ったよりずっと長いものになった。何時帰るのかを私は知らない。
「挨拶だよ。アンタに。『よう』」
「……よう、です」
『それでも私にはあまり関係が無い人だったのだけれど』。
 或る時、木陰で本を読んでいたら――突然に彼に話しかけられた。
 一度も口を利いた事も、目を合わせた事も無かったのに、物凄く親しげに。
 ……当たり前のように、この妹巫女(わたし)に。
「……今日は一人なのですか? 旅人さん」
「珍しいだろ。逃げてきたのよ」
「……隣」と。その抗議を口にはしなかったけれど私の眉はハの字になっていた筈だ。
 彼は当然のように私の隣に腰掛け、木にもたれながら大きく伸びをしていた。
「……それで、どうしてこの場所に?」
「仕事柄、捨て目が利く方でね。アンタの居場所が一番の安全地帯だと思ったのさ。
 ……アンタ、ファルカウの中央に住んでるが俺と口を利いた事も無かっただろう?」
「それはそうですね。正真正銘今日が初めてです。だから酷く困惑しています。
 まさか、幻想種の全てが貴方とお話をしたいと――自惚れていらっしゃるのでしょうか」
 私は彼の発言意図を測りかねて――同時に馴れ馴れしさに少しの棘を込めて言った。
「まさか」
「……では、どうして」
「簡単さ。アンタは周囲に一目置かれてる。それで静かなのが好きで、俺に興味がない。
 必然的にアンタが避難する場所は他の連中から見つかり難い――或いは寄せ付けにくい場所になるのさ。
 探した訳じゃないから今日見つけたのは直感に過ぎねぇけど、見つけたからには活用しねぇとな。
 アンタは不本意かも知れないが――理に叶っちゃいるだろう?」
「……………」

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