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樹上の村

街角保管室

街角の更新ログ

何となく残しておくと面白いかも知れないと思ったので記録しておくことにする。

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2019/9/3(1/2)

路端の石、高貴なる者

「閣下、我々が各地に派遣した兵士達や種火でございますが、蒔けば蒔くほど、奴らの手で鎮定されております」
 兵士の言葉は石の壁面を反響して耳障りにも届いてくる。
「――朗報もないのに、我の前に再び姿を現わしたか?」
「そ、それは……」
「馬鹿が!! マシな情報を持ってからこい、この愚図めが!!」
 叫んだ言葉が質量を伴って兵士に放たれ、その身がすっ飛んで壁にたたきつけられた。
 冷たい視線でイオニアスが兵士を睨み据える。
「……ふん。であれば次の準備といこう」
 イオニアスは燕尾服の襟元を正して立ち上がると、シルクハットを目深にかぶって歩き出した。


 ――男は町の中を歩いていた。
 燕尾服にシルクハットで身を包んだ壮年紳士は、足早に歩き続けていた。
 煉瓦製らしき通路を歩く男は、どこか焦ったような様子を感じ取られ、カッ、カッ、ッ、と鳴らす足の音はその様子を裏付ける。
 向かいからきた男女二人組のうち、男の方と肩と肩がぶつかった瞬間、男は忌々しそうに、目を見開いた。
「あっ、すいませ――ひぃっ」
 ぶつかった方の男は、そう言ってぶつかった相手の方を向いて、思わず悲鳴を上げた。
 シルクハットの下、落ち窪んだ橙色の瞳が、ぶつかった男の方を見る。
「――ありえぬ、ありえぬ、ありえぬ、ありえてなるものか」
 ピタッと立ち止まった男――イオニアスは、視線をその建物に投げかけた。
 そこにあるのは、古ぼけた建築物。
 町全体の古風な雰囲気の中に溶け込む二階建ての建物を見上げ、ぎりりと奥歯を食いしばる。
 この町は今、混乱の坩堝にある。
 それ自体は、己が手で臨み、目指して築き上げた。

 ――――だが、ありえてはならないのだ。

 そうだ、我が“そこら辺にいる凡愚どもの”風情をして、なぜ我を見ることが出来るのだ。

 ――――なぜ、我に触れることが出来るのだ。

 ――――ありえてはならないのだ。それは、我があの方へ願いを捧げたあの日に手に入れた屈辱の証だ。

 これは、我の力だ。我の証明だ。
 ――――であるというのに、どうして我がそこら辺にいる雑草に我の姿が見えるのだ。

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