扉を開けたら、そこは植物園だった。

訂正。植物のプランターだらけの部屋に、辛うじて机とベッドが見えた。
どのプランターにも植物名と採取場所、採取した年月日を書いた紙がマメに貼られている。
活き活きとした植物を見るからに、部屋の主による手入れが行き届いているのがわかる。

(乳鉢に入ったままの白粉。冷めてしまった紅茶。そして、くぐもった泣き声)

（「出かけてます」の看板が出ている）

えーとお花の手入れと剪定と……まずは紅茶のポット片付けるとこからっすね。

(がちゃがちゃじょきじょきと作業を終え、乳鉢に残った白粉もどきを見つめる)

(白粉を空いた缶に詰め、持ち歩けるようにした)

えーと、次に使う精油は……うーん、どれにするか悩むっす。こういう知識疎いっす。

(いろんな精油の効果一覧を見ている。)うーん、リラックス系だと目覚めにいいか微妙っす。

(とある項に目が行き)ふむふむ……教会で焚く香りっすか。ブレンドってのもあるんすね！

これは精油買ってくるよりも、原料買ってきた方が安くつくっすね（実験道具組み立てつつ）

(茶色い木片が入った瓶と、黄色みがかった樹脂の塊が入った瓶を取り出す)

ここで蒸留させて、こっちで冷やす……と。（組み立てた実験器具を確認）

(蒸留用の水と冷却用の水をセット。最後に茶色い木片を装置に入れ、装置を火に掛ける)

(蒸留された水が溜り、水の上に精油が浮かんでいる)精製量少ないっす！そりゃ高いわけっす。

(精油をスポイトで遮光瓶に移し、残りは別の瓶に入れる)これ、ベッドにシュっと拭いても良さそうッス。

(実験器具を丹念に洗い終わり、ベッドで腕ぷらぷらさせながら休憩中）

(実験器具の水気を綺麗に拭き取り、再び組み立て始める)

(今度は、黄色みがかった樹脂の塊を実験装置にセット。再び、精油の抽出を始める)

(先程と同じように、抽出した精油と水をそれぞれ瓶に入れる)

(それぞれ抽出した水を試験管に割合を変えながらブレンドし香りを比べる)調香技術がないと大変っす。

(色々香りを嗅ぎすぎたのか、白湯をのんで鼻を休める)

(大体このブレンドならいいだろ、というのを見つけて調香中)

(調香した精油を、オイルにブレンド。よく混ぜる)

(入れる瓶を引っ張り出そうとしたら色々ごちゃごちゃになってしまったので、整理し直した)

(オイルを瓶に注ぎ、しっかり蓋を閉めて)よし、次のも完成っす。

(ついでに、抽出した水も霧吹きに入れてベッドにかけてみる)ん、良い香りっす。

(収支計算中)……安定の赤字っす。

(材料やら種を仕入れて来たらしい)……粉にできそうな真珠は高くて買えなかったっす。

(ピンク色の花弁を収穫し、さっと水で洗う)

(ピンク色の花弁を丁寧に天日で軽く干し、その間に乾燥した薬草を用意する)

(用意した蜂蜜に、乾燥させた薬草と花弁を見栄えが綺麗になるように漬けていく)

(ほんのりと緑色と桃色が蜂蜜に移り、２層になって美しくなる)

最近お薬らしいお薬作ってないっすけど……店のバリエーション増やすの大事っすよね？

ふむふむ、花粉を防ぐマスクっすか……僕は森に慣れてるからいいっすけど、そうでは
ない方だとちょっときつそうっすね（情報誌を手にしながら）

(買ってきた手触りの良い木綿布を中くらいの壺に入るくらいの大きさに切る)

(顔ほどある何かの卵殻を砕き、粉末状の銀と一緒に溶剤に溶かす)

(溶剤がネバネバしてきて、混ぜるのに一苦労している)

(溶剤に木綿の布を漬け、数日かけて乾かした後)……縫製はお任せした方がいいっすか？

(縫製の依頼に出したものが帰って来たようで、一つ一つチェックしている)

(試しに付けてみたら、見事に眼の近く迄被われた)サイズ間違えたっす。

（でかすぎたマスクを外し）これを市場に卸したら大丈夫っすね。

(本棚から見つけた料理のレシピ本見ている。)

(慣れた手つきで薬剤を混ぜ、そこに植物の繊維を入れる)……作り方、完全に覚えちゃってるっすね。

(薬剤で煮て染めた植物の繊維を乾かしている)

（乾かした植物の繊維を組紐状に編んでいく）サイズ感この位っすかね？

(完成した暗色の組紐を腕に巻き付け)……これでよし、っすね。

(何時も書き綴っていたノートに分かりやすいように補足を足していく)

（再度ノートをチェック）これなら、きっと大丈夫っすね。

……あと一言、伝えておかなきゃいけないっす。（白い便箋を取り出して）

（白い便箋に一行だけ何かを書き込んで、ノートの上に置く。そして、腕に付けた暗色の組紐を軽く撫でる）

「僕は、本当に幸せ者っすよ！」


(そう書いただけの白い便箋が少し揺れる。
部屋の主は何処かへ発ったようだ。)