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文化保存ギルド

【偽シナ】彼女に最後に残るもの【リプレイ】

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【偽シナ】彼女に最後に残るもの
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 その石畳を、少ししてから別の影が歩く。
 その懐には、ラピスラズリがお守りとして入っていた。
「なにか今悪い予感がしたような」
 と独りごちるが、こたえるものは居ない。まぁ、そう予感を覚えるのも致し方ない。不義理ではないとはいえ、いささかの寂しさを覚えているのだから。
 イーリンは宣言通り、混沌世界に戻ってくるなり自分の身辺整理を進め、自分が不在でも回るように貴族たちにその権力を還元していた。
 隠居というにはあまりに元気だが、太陽の下を大手を振って歩いて、旅をする。
 そんな彼女の周りは当然のように賑やかで、いい人が多すぎる。志のように日陰が落ち着く人間にとっては、少々疲れてしまう。
 故に、志は暇を貰うことにした。平和な世界に斥候としての役割はもうあまりなく、この仕事のために授かった名誉愛人だなんていう称号はやはり返上したく。
(この路地裏も、もう歩き慣れたものですね)
 文化保存ギルドは王都メフ・メフィートの少し外れにある。
 全盛期には何十人もここを駆けるように出入りして、表通りには馬車や御者が絶え間なく行き来していた。
 それももう遠い昔のように感じてしまうのは、自分も年を取ったからかと苦笑いしてしまう。あいにく、そういうには梅泉の趣味にも付き合ってみたいし、この暇を貰った後は諸国を回ってみたいという欲求があったりと、諦めるには自分はまだ若すぎる。
(あれから)
 話によると、勇者パーティはそれぞれうまくやっているらしい。
 キキモラは閉鎖的な森で外の魅力を訴え。
 ブレイブは騎士として正式に国に召し抱えられ。
 ネームレスは辺鄙な村外れで薬草師として居を構えているそうだ。
 彼女専用のポータルは正常に稼働しているそうで、土産話を度々してくれている。
 本当に良くしてくださった。短い間だったがこうして仕えた事も良ければ友人として過ごした時間も悪くなかった。だからこそ、影の中でしか生きられない自分に申し訳無さを感じているが、それも理解してくださる。
 志はそのまま慣れた足取りでギルドに裏口から入り、イーリンの私室をノックする。
 反応がない。
 はて、出かける予定は聞いていないがとノブを握る。鍵は、かかっていない。
 瞬時、志は周囲を確認する。気配なし、外の状況もなにか人が出入りした様子もない。イーリンは少なくとも、完全にここを空ける時に鍵をあけっぱなしにするほど不用心ではない。
 聞き耳を立てる、鍵穴に爪の先――志の指の爪の一つは、研いでおりごく小さな鏡のようになっている――をかざし様子をうかがう。
(これは)
 どういうことだ、と思うより早く。扉を開けて中に踏み込む。
 侵入者の気配はない。
 慎重に移動した志の視線の先、執務室の机の上には紙が一枚。

 『海洋国で人身売買の噂あり。幻想北方戦線は安定しているため、そちらに向かう。後よろしく Irin Jones』

 志のメガネにヒビが入る。
(え、あの人自分がおしもおされぬ大英雄ということを存じてらっしゃらない。それともなにかの悪いジョークですか)
 志は、騎兵隊もといイーリン・ジョーンズと関わった人間の中で新参である。
 普段の依頼での危険を取る言動や、あまりに前のめりな姿勢というのは、今回の件でわかった運命やそれに由来する覚悟のせいだと思っていた。
 それは半分間違いではない。
 そして半分は間違いである。

 イーリン・ジョーンズという女は。

 そんな運命を背負う前から、ずっと冒険心に満ちあふれていた女だと。

「だとしても、そんな」
 志は慌てて駆け出す。
 人身売買を探りにくのは、冒険じゃないでしょうと。
 多分本人的には道理が通っているんだろうなぁと。
 ああ当分、自分はこの人に振り回されるんだなぁと。

 この時、彼女は心の底から実感した。


『成否:成功』

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