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文化保存ギルド
【第三章 第五節】
『参加者:レイリー=シュタイン(p3p007270)』
酔いも冷めた朝、ある小さな教会でレイリーは静かに目を閉じていた。
思い返すのは遠く、メフ・メフィートで出会った何気ない一幕。もしもイーリンがあそこで私に声をかけていなければ。もしもイーリンが騎兵隊に私を誘わなければ。もしもイーリンが勇者にならなければ。
私は司書の貴方に、私は騎兵隊長の貴方に、私は勇者の貴方に、心血を注ぎ側に居たいと願わなかっただろうか。
答えは否だ、どんな出会いであったとしても、きっと流れ星のように輝く貴方を私は求めていただろう。それは家を失い、家族を失い、自分を使ってほしいと願っていた自分の哀れな欲望でもあったかもしれない。
けれどそれからレイリーはずっと、イーリンが人でなくなっていくほどに強く、友として幸せを願うようになっていた。
世界のために心血を燃やし、悪態をついて見せながらも決して逃げなかった。そして長く長く、今まで生きた半分以上の人生を運命に捧げてきた彼女があの夜、酒を酌み交わす中で、手に入れた自由や夢を追えるという笑顔があまりに眩しくて。
愛してる、を酒で流されたくなかった。
醜いだろうか、純白のパンツドレス姿のレイリーは胸に手を当てる。
酷いのではないか、誰もを魅了したのに誰も選ばないのは。
しかし幾度も幾度も寄せては返す波のように敵を、彼女の苦悩を、時に弾き、守り、寄り添った自分がイーリンと共に幸せになりたいと願うのは間違いだろうか。
そうは思わない。
願うだけでは足りない。
願いだけならきっとこの想いは、砂浜に押し寄せる波に消されてしまうから。
「レイリー」
イーリンが教会に来ると、その姿に驚いた様子だったがすぐに表情が緩んだ。レイリーが純白に包む時は、覚悟を意味することをよく知っていたから。
「イーリン、来てくれてありがとう」
扉が閉まる。今、二人きり。
イーリンはレイリーの側に歩く。
「どうしたのって、聞いたら駄目かしら」
「駄目よ、イーリン。だって貴方、ずっと私の事を見ていたのに無視したんだから」
「その言い方はひどくないかしら」
「それで結論が変わるほど、私達の関係は浅くないでしょ」
「そうね」
朝日が差し込む中、教会は二人の鼓動が感じられるほどに静かだ。
少しの沈黙。
「イーリン」
「なぁに」
「もう少し真面目に」
「はい」
「逃げないで聞いて」
「逃げたことなんか」
「あるわ、いっぱいいっぱい。今まで何回も伝えてきたのに」
「だって貴方にはミーナや幸潮が居るでしょう」
「それはイーリンと幸せになりたいって考える事の障害になるの」
「なるでしょう、普通」
「でもイーリンはずっとそんな事気にしなくていいって振る舞って来たじゃない。それに、他人を言い訳に使うな、自分の心に従えって言ったのは貴方よ」
「それはそうだけど」
「だから聞いて」
本当に、好きなのに。どこまでも優しくて残酷なこの生き物は、とレイリーは目を細める。
「私に幸せはたくさんある。けど、私は貴方の横で、貴方と同じ夢を追いたい。そのために、結婚を前提としてお付き合いがしたい」
イーリンが、手の甲で口元を隠す、視線をそらす。返事はない。
「愛してるわ」
イーリンは目をきゅっと閉じた。返事はない。
「貴方を恋する乙女にしたい、そして私に恋してほしい」
握っている手が震える。
哀れんで肯定されるくらいなら、心に傷をつけられる方が良い。そんなことは、イーリンもよくわかっていた。
「私は」
長い沈黙の後に、イーリンは手をおろした。
「レイリー、私はね。貴方の飾らないところのほうが好きなの」
ぽつぽつと、言葉を紡ぎ始める。
「白亜の城塞でも、アイドルでもない。貴方は、貴方が思ってるよりずっと、粗野で、破滅的なところがあるのを上手に隠せているのよ。今だって、そうでしょ」
じっと、瞳を見つめる。
「私、貴方のそこが嫌いよ。貴方の言葉がずっと私の中で滑っちゃうのは、そのせい。でもわかるわ、そうしないと自分に自信が持てないの。私も同じだから」
だから、とレイリーの手を取る。
「結婚は約束できない、恋人になるなら混沌に戻ってからにして。船の上で、ロマンチックに誘って欲しい。私は我儘なの」
「じゃあ、今返事だけでもして」
「形に残らなきゃイヤかしら」
「イーリンの言葉は、いつも泡みたいに心をくすぐって消えるからよ」
「そう、じゃあ」
ぐっと、イーリンがレイリーの手を引いて。頬に口づけをする。
少女の唇は、熱く、そして切ない。
最初から結ばれていた縁は、ほどけるその間際に、ようやく小さな歯止めがかかった。
ああ、多分。とレイリーは思う。
きっと、キツい言葉をいっぱいかけられるだろうなあ。遠慮がなくなった乙女ほど、きっと恐ろしいものはない。
『成否:成功』
『参加者:レイリー=シュタイン(p3p007270)』
酔いも冷めた朝、ある小さな教会でレイリーは静かに目を閉じていた。
思い返すのは遠く、メフ・メフィートで出会った何気ない一幕。もしもイーリンがあそこで私に声をかけていなければ。もしもイーリンが騎兵隊に私を誘わなければ。もしもイーリンが勇者にならなければ。
私は司書の貴方に、私は騎兵隊長の貴方に、私は勇者の貴方に、心血を注ぎ側に居たいと願わなかっただろうか。
答えは否だ、どんな出会いであったとしても、きっと流れ星のように輝く貴方を私は求めていただろう。それは家を失い、家族を失い、自分を使ってほしいと願っていた自分の哀れな欲望でもあったかもしれない。
けれどそれからレイリーはずっと、イーリンが人でなくなっていくほどに強く、友として幸せを願うようになっていた。
世界のために心血を燃やし、悪態をついて見せながらも決して逃げなかった。そして長く長く、今まで生きた半分以上の人生を運命に捧げてきた彼女があの夜、酒を酌み交わす中で、手に入れた自由や夢を追えるという笑顔があまりに眩しくて。
愛してる、を酒で流されたくなかった。
醜いだろうか、純白のパンツドレス姿のレイリーは胸に手を当てる。
酷いのではないか、誰もを魅了したのに誰も選ばないのは。
しかし幾度も幾度も寄せては返す波のように敵を、彼女の苦悩を、時に弾き、守り、寄り添った自分がイーリンと共に幸せになりたいと願うのは間違いだろうか。
そうは思わない。
願うだけでは足りない。
願いだけならきっとこの想いは、砂浜に押し寄せる波に消されてしまうから。
「レイリー」
イーリンが教会に来ると、その姿に驚いた様子だったがすぐに表情が緩んだ。レイリーが純白に包む時は、覚悟を意味することをよく知っていたから。
「イーリン、来てくれてありがとう」
扉が閉まる。今、二人きり。
イーリンはレイリーの側に歩く。
「どうしたのって、聞いたら駄目かしら」
「駄目よ、イーリン。だって貴方、ずっと私の事を見ていたのに無視したんだから」
「その言い方はひどくないかしら」
「それで結論が変わるほど、私達の関係は浅くないでしょ」
「そうね」
朝日が差し込む中、教会は二人の鼓動が感じられるほどに静かだ。
少しの沈黙。
「イーリン」
「なぁに」
「もう少し真面目に」
「はい」
「逃げないで聞いて」
「逃げたことなんか」
「あるわ、いっぱいいっぱい。今まで何回も伝えてきたのに」
「だって貴方にはミーナや幸潮が居るでしょう」
「それはイーリンと幸せになりたいって考える事の障害になるの」
「なるでしょう、普通」
「でもイーリンはずっとそんな事気にしなくていいって振る舞って来たじゃない。それに、他人を言い訳に使うな、自分の心に従えって言ったのは貴方よ」
「それはそうだけど」
「だから聞いて」
本当に、好きなのに。どこまでも優しくて残酷なこの生き物は、とレイリーは目を細める。
「私に幸せはたくさんある。けど、私は貴方の横で、貴方と同じ夢を追いたい。そのために、結婚を前提としてお付き合いがしたい」
イーリンが、手の甲で口元を隠す、視線をそらす。返事はない。
「愛してるわ」
イーリンは目をきゅっと閉じた。返事はない。
「貴方を恋する乙女にしたい、そして私に恋してほしい」
握っている手が震える。
哀れんで肯定されるくらいなら、心に傷をつけられる方が良い。そんなことは、イーリンもよくわかっていた。
「私は」
長い沈黙の後に、イーリンは手をおろした。
「レイリー、私はね。貴方の飾らないところのほうが好きなの」
ぽつぽつと、言葉を紡ぎ始める。
「白亜の城塞でも、アイドルでもない。貴方は、貴方が思ってるよりずっと、粗野で、破滅的なところがあるのを上手に隠せているのよ。今だって、そうでしょ」
じっと、瞳を見つめる。
「私、貴方のそこが嫌いよ。貴方の言葉がずっと私の中で滑っちゃうのは、そのせい。でもわかるわ、そうしないと自分に自信が持てないの。私も同じだから」
だから、とレイリーの手を取る。
「結婚は約束できない、恋人になるなら混沌に戻ってからにして。船の上で、ロマンチックに誘って欲しい。私は我儘なの」
「じゃあ、今返事だけでもして」
「形に残らなきゃイヤかしら」
「イーリンの言葉は、いつも泡みたいに心をくすぐって消えるからよ」
「そう、じゃあ」
ぐっと、イーリンがレイリーの手を引いて。頬に口づけをする。
少女の唇は、熱く、そして切ない。
最初から結ばれていた縁は、ほどけるその間際に、ようやく小さな歯止めがかかった。
ああ、多分。とレイリーは思う。
きっと、キツい言葉をいっぱいかけられるだろうなあ。遠慮がなくなった乙女ほど、きっと恐ろしいものはない。
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【偽シナ】彼女に最後に残るもの
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