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【偽シナ】彼女に最後に残るもの【リプレイ】

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【偽シナ】彼女に最後に残るもの
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【第三章 第三節】
『参加者:結城 ねいな(p3p011471)』

 時は少し遡り、最後の日の深夜。東の空を見ようとイーリンが何気なく早起きした時。
 『黄色い雄牛亭』を出て、静謐な空気を吸う。少し肌寒いかと思いつつもイーリンが気にせず歩を進めた時。待ちな、と声をかけたのはねいなだった。
「仕事の時間だ。ちょっと付き合え」
「なぁに、戦争屋さん」
「ぬかせ、まだ何もやっちゃいねぇよ」
 そう言ってねいなは歪に欠けた宝石を投げてよこした。それは欠けた姿に照らし合わせたように、歪んだ赤色に輝いていた。
「これは」
「お前があの女に埋め込んでいた人間性、その残りみたいなもんらしい。知らんが」
 あの女、ねいなの言うそれは美咲を指す。
 イーリンはその宝石を握って。少し俯いた。
 最後の戦いの時、心持ちはどうするつもりかとイーリンに問われて、それをはぐらかした。その時美咲が考えていたことは既に決戦の内容ではなかった。その先すなわち、イーリンはきっと奇跡のように戦い抜いて、その後に残った願望器としての自身をどう扱うのかという点だ。
 その時、もし人間性が燃え尽きてしまっていたら。灰の騎士からの残り火が足りなかったら。あるいは美咲が望んだ、自分が戦えない時に、強引にでも戦えるようにしてほしいと願いを叶えたあの夜に、宿ってしまったイーリンの人間性。
 もしも自分が死んだら、それを還してほしい。
 もしも自分が死んだら、せめてイーリンだけでも帰ってきてほしい。
 もしも、もしも、もしも。いくつものエゴをいつもの調子で隠してしまって。気づいて欲しくて、でも嫌で。
「アタシはな、これを異世界の、正確にはあんたにこれを届けるためのエミュレーターとして使われたってわけ。この宝石を持ち出せる人間は、何の因果か血縁者にしか不可能で、腹立たしいことにそれが私を美咲って女との血縁を証明した」
 すなわち、イーリンの縁者だけが集められたこの因果の物語に、自分が来られたのは美咲の一部を握り込んでいたからだと。
 朝の風が、ひどく冷たく感じる。頬をそうして撫でるものだから。イーリンは眉をひそめた。
「美咲、ああ私の知ってる時は誓って名前だった。十九の時の誓はゴミみたいな女でなぁ。正直あたしにとって空気以下って感じだった。空気は吸ってもいいけどゴミは吸いたくないだろ」
 わざとらしく悪態をついてみるが、どうにもしまらない。ねいなは頭をぼりぼりとかいて、続ける。
「だから、あんたも言ったみたいにアタシも空気から死体になってゴミ以下になった奴なんて興味は微塵もなかった。ただそう、あの女が死ぬ気で這いずり回って、どうにかしようとのたうち回って、自分が生きている間にどうしようもなくなった時、死してなお変えたいと願ったのなら。それは闘争だ、戦争だ。それに手を貸すのなら、悪くないと思えた」
「ありがとう」
 イーリンの口をついて出た言葉に、鼻を鳴らす。
「そう思うんなら混沌世界に戻った時に戦争の一つでも起こすか、起きたら呼んでくれ。退屈でデブになったらかなわねぇ」
 行きな、一人になりたい時間もあんだろと顎で促して、イーリンもそれ以上何も言わずに歩き出した。
 本当に小さな背中だ。あれが、大英雄なのかと哀れに思うほどに。
 ただ、ねいなはその姿が見えなくなるまで見送った。
 煙草に火をつける。異世界の一服はなんとも微妙な苦さが口に広がる。
「次があるなら」
 更に一口吸う。
 メンヘラなんてブレーキの壊れたトラックみたいなものだ。死ぬまで壊れるまで動き続ける。
 それがどうにかなれと自分で制御しようとすれば、壁にぶつかり、擦れ、どれほど惨めな姿になっていくかは想像に難くない。
 あの女は、必死にそれを試みていたのだ。
「次があるなら、メンヘラなんぞなしで、会いてぇもんだなぁ」
 一息ついて、乾いた咳混じりの笑いが出る。
 さようなら、私の知らないチカ姉。
 私達は最後までお互い空気だったけど、今ならエゴを獲られたんだってはっきりわかるよ。


『成否:成功 にへへ』

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