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文化保存ギルド
まぁでないものは仕方ないです、とエマはにまにまと嬉しそうにイーリンの顔を覗き込む。
「しかしですねぇ、馬の骨さんもすみにおけませんねぇ」
「何よ、今度は」
「だってねぇ、ネームレスさんなんて恋人がいるなんて。いやぁなおさらよかった」
「それってどういう意味かしらぁ」
「言葉通りの意味ですよ」
エマがへりくだることなく、けらけらと笑う。イーリンはわざとらしくため息を付く。
「だって、恋人を置いて死ぬなんて私達の戦いじゃあザラだったじゃないですか。馬の骨さん、それにですね。あの時」
いつか、エマにイーリンが自分の限界を打ち明けた夜を思い出す。
「あの時、私は平気そうにするように頑張りましたし。希望を持ってもらえるように頑張ったんですよ。でもほんと、私じゃなんにも思いつかないし。馬の骨さんが私のこともわからなくなってしまったらどうすればいいんだろうとか、色々。それにこうして貴方の世界に喚ばれた時でさえ、余計なお世話だったんじゃないとか」
つらつらと、エマが胸のつかえを取るように話す。マーリンに召喚された時はそれこそ、空中神殿に呼び出されたときに匹敵する驚きがあったが、今度は世界ではなく友達を助けろと漠然と言われたのだから、余計にプレッシャーもあった。
「だからですね。さっきキキモラさんが話してくれた、最初の冒険でしたか。王都のドブさらい。あの時も馬の骨さんがこのままあの人を放置しちゃあひどい目にあう、なんとかしなきゃってなし崩し的にパーティを組んだって話を聞いた時は。全然変わってないんだって笑っちゃいましたよ」
本当に、とエマが一息つく。
イーリンはそれを聞いて、不満そうに視線をやるが、口元の笑みは隠せない。
「それでですね、なんとなくわかりましたよ。今回助けなきゃあとがなくなったとかそういうのじゃなくて。ずっとずっと、助けたり助けられたりして、最後の最後に踏みとどまるかどうか。その決断をしたから、私達が喚ばれたんだなぁって」
「そうかもしれないわね。死ぬのだけは死んでもごめんって」
「いっつも、言ってましたもんね」
紫の髪の二人はくすくす笑う。思い返せば二人が仲良くなった発端だって、イーリンがエマを見つけて、紫の髪だ、面白い、じゃあ友だちになろうなんて。当時19だったとは思えないほど幼稚な理由だったから。
そうして肩を寄せ合って喋る中、イーリンの小さな手が、相変わらず随分と温かい子供みたいな手がエマの手に重ねられる。
「んぇ、どうしました」
「エマ、茶化さないで聞いてね」
「人目がありますよ」
「茶化さないでってば」
「はいはい、なんですか」
「ありがとう、親友」
耳元によせられた唇が、そう告げる。
エマが、えひ、と笑った。ありがとうと返して。それからお返しというように、耳元に唇を寄せる。名前を呼ぶ時は二人っきりと決めているから。
「イーリン、私ももう盗賊は廃業です。特異運命座標もお役御免でしょう。これからは冒険者として、生きていこうと思います」
口を離し、組合とか入らないとですねぇと肩を竦めるエマ。
「もとより食うや食わずで始めた盗賊で、義賊なんてやれるほど信条だのなんだのあるわけでもなし。こうして一緒に馬車に揺られて、前後気にせずどこかに冒険しにいって、行く先々の困り事を解決して日銭を稼ぐ。十分じゃあないですか、路地裏で銅貨一枚の恨みで刺される生活より、よっぽどいいです」
あと何日かの旅で、焚き火やそのへんの川で魚を取ったり、保存食を湯で戻したり。
「そうね、そっちのほうがよっぽど正しい。ああ、でもエマ」
「なんですか、馬の骨さん」
重ねていた手を離し。そのぬくもりを残すように片膝を抱えて、エマが首を傾げる。
「怖がるのも、隠れるのもやめちゃ駄目よ」
「あはは、それはそうです。きっと今みたいに馬の骨さんがいない冒険じゃ、財布をスられる心配もありますし、変なのに絡まれるかもしれませんし」
『こればっかりはやめられませんよ』とエマは笑った。
イーリンも笑った。
「あ、そうだ。もし困ったら私のところに来なさいよ。飯と路銀くらいはどうにかするから」
「お、それで対価として愛妾にでもするつもりですか。勇者様でお貴族様の馬の骨さん。私は何号になるんでしょう」
「こいつ、私の振った旗の後ろでずっといたくせに」
「それだっていつも手伝えって言ったのは馬の骨さんですよ」
「じゃあ最終的に私に意見を任せるってよく言ってたし。愛妾にしてやりましょうか」
「あはは」
そうして二人は、カンソンに到着するまで笑いが絶えなかった。
ついでにカンソンは、なんかすごい事になってた。
『成否:成功』
「しかしですねぇ、馬の骨さんもすみにおけませんねぇ」
「何よ、今度は」
「だってねぇ、ネームレスさんなんて恋人がいるなんて。いやぁなおさらよかった」
「それってどういう意味かしらぁ」
「言葉通りの意味ですよ」
エマがへりくだることなく、けらけらと笑う。イーリンはわざとらしくため息を付く。
「だって、恋人を置いて死ぬなんて私達の戦いじゃあザラだったじゃないですか。馬の骨さん、それにですね。あの時」
いつか、エマにイーリンが自分の限界を打ち明けた夜を思い出す。
「あの時、私は平気そうにするように頑張りましたし。希望を持ってもらえるように頑張ったんですよ。でもほんと、私じゃなんにも思いつかないし。馬の骨さんが私のこともわからなくなってしまったらどうすればいいんだろうとか、色々。それにこうして貴方の世界に喚ばれた時でさえ、余計なお世話だったんじゃないとか」
つらつらと、エマが胸のつかえを取るように話す。マーリンに召喚された時はそれこそ、空中神殿に呼び出されたときに匹敵する驚きがあったが、今度は世界ではなく友達を助けろと漠然と言われたのだから、余計にプレッシャーもあった。
「だからですね。さっきキキモラさんが話してくれた、最初の冒険でしたか。王都のドブさらい。あの時も馬の骨さんがこのままあの人を放置しちゃあひどい目にあう、なんとかしなきゃってなし崩し的にパーティを組んだって話を聞いた時は。全然変わってないんだって笑っちゃいましたよ」
本当に、とエマが一息つく。
イーリンはそれを聞いて、不満そうに視線をやるが、口元の笑みは隠せない。
「それでですね、なんとなくわかりましたよ。今回助けなきゃあとがなくなったとかそういうのじゃなくて。ずっとずっと、助けたり助けられたりして、最後の最後に踏みとどまるかどうか。その決断をしたから、私達が喚ばれたんだなぁって」
「そうかもしれないわね。死ぬのだけは死んでもごめんって」
「いっつも、言ってましたもんね」
紫の髪の二人はくすくす笑う。思い返せば二人が仲良くなった発端だって、イーリンがエマを見つけて、紫の髪だ、面白い、じゃあ友だちになろうなんて。当時19だったとは思えないほど幼稚な理由だったから。
そうして肩を寄せ合って喋る中、イーリンの小さな手が、相変わらず随分と温かい子供みたいな手がエマの手に重ねられる。
「んぇ、どうしました」
「エマ、茶化さないで聞いてね」
「人目がありますよ」
「茶化さないでってば」
「はいはい、なんですか」
「ありがとう、親友」
耳元によせられた唇が、そう告げる。
エマが、えひ、と笑った。ありがとうと返して。それからお返しというように、耳元に唇を寄せる。名前を呼ぶ時は二人っきりと決めているから。
「イーリン、私ももう盗賊は廃業です。特異運命座標もお役御免でしょう。これからは冒険者として、生きていこうと思います」
口を離し、組合とか入らないとですねぇと肩を竦めるエマ。
「もとより食うや食わずで始めた盗賊で、義賊なんてやれるほど信条だのなんだのあるわけでもなし。こうして一緒に馬車に揺られて、前後気にせずどこかに冒険しにいって、行く先々の困り事を解決して日銭を稼ぐ。十分じゃあないですか、路地裏で銅貨一枚の恨みで刺される生活より、よっぽどいいです」
あと何日かの旅で、焚き火やそのへんの川で魚を取ったり、保存食を湯で戻したり。
「そうね、そっちのほうがよっぽど正しい。ああ、でもエマ」
「なんですか、馬の骨さん」
重ねていた手を離し。そのぬくもりを残すように片膝を抱えて、エマが首を傾げる。
「怖がるのも、隠れるのもやめちゃ駄目よ」
「あはは、それはそうです。きっと今みたいに馬の骨さんがいない冒険じゃ、財布をスられる心配もありますし、変なのに絡まれるかもしれませんし」
『こればっかりはやめられませんよ』とエマは笑った。
イーリンも笑った。
「あ、そうだ。もし困ったら私のところに来なさいよ。飯と路銀くらいはどうにかするから」
「お、それで対価として愛妾にでもするつもりですか。勇者様でお貴族様の馬の骨さん。私は何号になるんでしょう」
「こいつ、私の振った旗の後ろでずっといたくせに」
「それだっていつも手伝えって言ったのは馬の骨さんですよ」
「じゃあ最終的に私に意見を任せるってよく言ってたし。愛妾にしてやりましょうか」
「あはは」
そうして二人は、カンソンに到着するまで笑いが絶えなかった。
ついでにカンソンは、なんかすごい事になってた。
『成否:成功』
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【偽シナ】彼女に最後に残るもの
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