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【偽シナ】彼女に最後に残るもの【リプレイ】

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【偽シナ】彼女に最後に残るもの
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【第二章 第二節】

 主賓は座して待つものではある。
 想像より幸せな道を、作って見せることもできるだろうに。
 それこそ主神として祀り上げてしまえば、誰も彼女に触れられまい。
 自由を求めるなら、それ相応の力を得てしまえば良い。
 どうあれ彼女は笑って受け入れるだろう、信じるとはそういう事だ。

 少し時は遡る。
 花畑の中で、マーリンは外界を眺めながら茶を飲んだ。
 そこに現れたのはノルンだった。
「おや、忘れ物かい」
「いえ、一人で考えてもしょうがないと思いましたので。素直に聞くことにしたんです」
「それはご丁寧に。なんだい、私に答えられる事なら何でも答えよう」
「ありがとうございます。貴方は、イーリンさんを何故助けたいと思ったのですか」
 その質問に、マーリンは少し目を見開き。それから嬉しそうに細めた。
 たっぷりともったいぶって、花畑の香りを肺に吸い込む。
「親は、いくつになっても子供の幸せを願うものだろう」
 そうして唇に人差し指を当ててウィンクする姿は、イーリンにそっくりだった。
「それは、血を分けたという意味ですか」
「いかにも。腹を痛めて産んだ、愛しい娘。それがイーリン。そして今はこの花畑で余生を過ごす隠居ということさ」
 ノルンが口を抑え、思案する。
「ああ、この事はオフレコで頼むよ。それと私への配慮も無用だ。別に犠牲になろうとかそういう企みも一切ない。むしろ、私は好んでこの花畑にいるわけだから」
 楽しげに笑みを浮かべる姿に、ノルンはついイーリンの影を重ねてしまう。
「本当に、犠牲になったりしないんですか」
「はは、あの子はよっぽど自己犠牲の精神が強かったようだね。ああ、私自身まだ余生を楽しみたいからね。どうせなら、孫の顔も見てみたい」
 マーリンの言葉に、嘘はなかった。
「わかりました。それは――」
 ノルンの手に、力が入る。
「人として、生きてほしいという事なのですね」
「親としては、ね。ああ、あの子に私のことは秘密で頼むよ。バレると大目玉だ」
 どんなに道に舗装されていても、そこから逸れることがあるのが人生だしあの子の選択だ。
 マーリンはそう笑った。

●覚醒
 目を覚ました彼女が最初に違和感を覚えた。
 心臓に針が近づいてくるような焦燥感も、意識が溶けていくような眠りも、常に鼻腔に漂う全能感の甘い香りも、全てがない。
 あるのは、もうずっと記憶の遠くに行ってしまった、生身の血肉が通う人間の身体の感触。
 馬車の後ろに座った状態で、彼女は自分の頬にふれる。柔らかく、温かい。呼吸をする度に、懐かしい土と風の匂いがする。
 そして横にいつの間にか座っていたエマが目をまん丸にしてから、困ったように彼女の顔を覗き込んだ。
 彼女、イーリンはそれを見て、自分の頬が熱くなっているのを感じた。
「え、え。馬の骨さん。どうしたんですか、どこか痛いところでもあるんですか」
 さっきまでいなかったはずの人間が現れたことに困惑するエマよりも早く、馬車の奥からキキモラが飛び出してきた。
「イーリンちゃん。イーリンちゃんだよね。よかった、イーリンちゃん」
「キキ、モラ。貴方なの」
 いつもの表情のまま、涙だけがぽろぽろと溢れていることに気づかないイーリンと、その場でわんわん泣き始めるキキモラに、寝ていたブレイブも起き上がり、馬車も止まる。
「先輩」
「盟友」
「イーリン」
「イーリンさん」
「司書さん」
 集まってくるイレギュラーズの面々に、イーリンは涙を流しながらなんで、とやっと声が出る。なぜ自分が故郷にいるのか、なぜ自分の仲間たちがこうして無事にいるのか、なぜ皆がここにいるのか。わからないことだらけであるが。
 長く、長く。とっくに枯れていたと思っていた涙が止まらない。頭の中でずっと押さえ込んでいた感情が溢れてきて止まらない。
 視界が涙で溶ける中、彼女の視界に入ったのはネームレスの姿。
「イーリン、無事でよかった」
「ネーム、レス」
 二人の視線が合う。それは、数年の時を埋めるには十分だった。
 イーリンが目元を二度、三度と拭う。紅い瞳はいつものように活気を取り戻し、嬉しそうに苦笑いを浮かべた。
「もう、あんたら何をしたのよ」
 その声は、ひどく嬉しそうだった。

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