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【偽シナ】彼女に最後に残るもの【リプレイ】

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【偽シナ】彼女に最後に残るもの
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【第一章 第六節】
『参加者:メリッカ・ヘクセス(p3p006565)、志屍 志(p3p000416)』

「愛用の懐刀を用いてまで敵国から宝剣をなんて、随分と大きな博打に出たものだねぇ」
 ぬるりと家屋の壁から出てきたメリッカはひとりごちた。この世界でも物質透過に近い魔法はあるようだが、使い手は限られるらしく。石の家の中では割と簡単に話を聞くことはできた。
 交易交渉、関税関連を有利に進めるために宝剣を盗み出す。これはいわば喉元に刃を突きつけて「自分たちはいつでもこれくらいできるんだぞ」という脅しであり。波風を致命的に立てないから交渉の余地があるとアピールもしている。闇の国というだけあってこの辺の動きはすごく上手い。と海洋国家出身の彼女は頷いた。
 そして十重二十重に敷かれた包囲網というのもあながち嘘ではなかった。闇の国の町の間全てにアサシンは存在し、カットアウトも多い。同時に一本一本の情報は紐として構築されており、情報の交差点は多いが必要なものは少ない。
「これ、アサシンリーダーって情報を掴むだけでとんでもない労苦が必要なやつだよね」
 しかし現場でそれらを統括指揮する人間が居なければ、自分たちの作った網の把握さえ困難になる。少女――マーリンがリーダーだけをピックアップしたのも頷ける。
 さて、裏付けは終わった。となれば要注意情報はこの網が動き出すことなのだが。
「そっちはどうだい」
 
「宝剣の奪取はつつがなく終わりそうです。情報収集の方も、この世界では死者の冒涜というのは闇の国でも相当に嫌われるようで。ちらつかせるだけでつらつらと」
 合流点に現れた二人目、志は口元を隠しながらメリッカに伝えた。
 二人の用いた王道の戦術、ファミリアと物質透過の併用。少なくとも要衝になるだろう場所への偵察はどちらも成果は十分だった。
「勇者パーティへの殺意は低いようですね。どのルートも基本的に宝剣の保護運搬が最優先になっているようでした」
「勇者たちが逃げ帰っても光の国の性質上黙殺が妥当。宝剣に対して一番コストをかけているってことか。となると宝剣と勇者パーティが一緒になってたりしても」
「積極的に殺しにかかる理由はありませんね。勇者の命より関税のほうが高いのも道理です」
「商人は世知辛いねぇ」
 伝書鳩に書を日本語でしたためて志が飛ばす。
 ため息を付いたメリッカがどうしたものかなと空を見上げる。
 やることは決まっている、この網が本格的に動く前にさっさと光の国に逃げれば良い。
「吸いますか」
「いやいいよ、というかくすねてきたんだね」
 情報収集に便利なので、と志が出してきた葉巻をメリッカは固辞した。
「そういえば、イーリンがいつぞや喚いていたんだけど。助けるためにパンドラをものすごい量使ったんだって」
「藪から棒ですね。ええ、事実ですよ。あそこでイーリンさんを失うわけにはいきませんでしたので」
「その結果愛人の立場を賜ったっていうのは」
「んん」
 志がむせるように口元を隠す。
「ビジネス上ではございますが。ええ、騎戦の愛人とちらつかせれば諜報に役立ちました。あの人、幻想国の立場上責任を持たないのに力があるという立場でしたので。どうにも周りが忙しなく」
「はは、だろうね」
 メリッカが笑うと。志は少し沈黙して。
「そういうそちらも、練達国ではイーリンさんと学生ごっこを満喫していたと聞きますが」
「んん」
 今度はメリッカが口元を隠す事になった。
「あれはちょっと学校に潜入するために何ヶ月か必要だっただけで。しかもノリノリだったのはイーリンの方だよ。せんぱーい、なんて言って」
「それはそれは、あの方の気まぐれに苦労なさいましたね」
 志が口元に笑みを浮かべているのは。透視するまでもなく見え透いていた。
「本当にね。その影で、ずっと死の運命を抱えて。自分が人間でなくなっていくのを日々感じていたんだから。大した胆力だよ」
「大丈夫でない時こそ、大丈夫だと振る舞う。それは組織の大将に必要な器量ですから」
「それも、本当なら望まない代物だったんだろうね。だけどそれを選んだ」
「自分がそれを望んだから、ですか」
 神がそれを望まれるなんて諦めていたけれど。結局何回も何回も、彼女は選んだ。最後まで足掻こうとしていた。お互い諦めが悪い「お館様/後輩」には苦労させられるものだ。
 そうしてメリッカと志は、一緒に笑った。
 にわかに、表通りが騒がしくなる。
 それじゃあ行きましょうか、とどちらが言うでもなく。二人は路地裏を出た。


『成否:成功』

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