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文化保存ギルド
「なんだ、これは。ふざけているのか」
勇者パーティの包囲を指揮していたアサシンの隊長が悪態をついた。
弱りきった勇者御一行様をそのまま包囲殲滅する。という話だった。だが現実はどうだ。突如として現れたバリスタもかくやという大弓を持った女が暴れまわり。急遽殲滅のために包囲を早め、投入した戦力の横腹を、非常識にも森の中を突進してきた馬車と、騎士が、ぐちゃぐちゃに掻き回している。目標を違えたりしないはずのアサシンが、まるで動物が弱った餌に食いつこうとするように「最も堅牢な城塞のような相手に噛みついている」
「おい、町に連絡を入れろ。要増援、宝剣の移動を繰り上げろと」
望遠鏡を覗いたまま、部下に声を掛ける。返事がない。
「いやあ、やっぱりそうですよねぇ『常に次善策を構えるのは失敗回避に重要』ですものねぇ」
抜剣、よりも。ずっと、速く。未来を見ているかのように迷わず、紫の髪が翻るところさえ見られず。嵐のような一撃が隊長を襲った。
「ご、が」
「はい失礼。あーなるほど、ここからならよく見えますねぇ。はい、はい。四方に4人、欠けたら即対応。いやあよく考えてらっしゃる」
えひひ、と揉み手しながら三下のように媚びるのが似合いそうな声がいやに耳に入る。
「あーなるほど、シグナルランタンですか。あ、さすがにこりゃわかりませんね。しょうがないです。この距離なら『大急ぎでやれば』間に合いますね」
「なに、もの」
「そちらさんと同じですよ」
紫髪の女は眉毛をハの字にして笑った。
「なんとかなると思った事を、なんとかして見せに来た、仕事じゃあありませんけどね」
ありえない。
そう言う前に、隊長は事切れた。
ふう、とエマは一息つく。イヤに頭が冴える。初めて来た森なのに1キロ先に居る敵を狩るまでのルートを足先が勝手に選ぼうとする。それに僅かな恐怖を覚えるが、躊躇する暇はない。
そうして一歩、踏み出した。
キキモラというのは心優しいエルフだ。閉鎖的なエルフに産まれながら、博愛精神に溢れた彼女は森より街に出たほうがきっと多くの人の役に立てると思ってのことだった。
だからパーティの中では、自然と顔役になっていった。彼女の優しさはいつだって真であったから。この宝剣奪還の旅に出る時、本当に申し訳ないと頭を下げたイーリンに、こうなる前に助けられなくてごめんなさい、たくさんのことを押し付けてごめんなさいと、涙したのは彼女だった。
だからノルンが治療を申し出た時、こんなところに来てもらってごめんなさいと謝って、面食らったのはノルンの方だった。
戦闘の方は圧勝と言うのもおこがましい、蹂躙というに相応しいものだった。要塞の中から岩混じりの暴風が絶え間なく吹き荒れるような状況に、どうして人間が勝てるのか。
連絡員はエマが全て刈り取り、少なくとも今夜中は町に連絡が行くことはあるまい。
移動の前に体力回復を、と煮炊きをする余裕まであった。
ネームレスだけは気にするなと言って離れたのは、治癒の魔法を受け付けられる体ではないから。
「ねぇ、イーリンちゃんは皆さんとはどんな風に付き合っていたの」
「そうですね、しんどいとかつらいって言いながら、仕事を片っ端から手を付けて」
「そっか、私達の知ってるイーリンちゃんと一緒だね」
消耗した体にも優しくしみる、滋味に溢れた一杯を作る。安全をアピールするためにノルンが先に口をつける。
「いっぱいお世話になったから、こうしてここまで来たんです」
「そっかぁ」
朗らかに笑うキキモラより先に、待てよと言ってブレイブがスープに口をつけた。ありがとうね、とキキモラは付け加える。
「ねぇ、私達はこれから光の国に戻るの」
「はい、見ての通り頼もしい皆さんが助けに来てくれていますから。宝剣奪還の連絡もすぐ来ると思います」
「そっかぁ、最後まで。イーリンちゃんに助けられてばっかりなんだね、私」
「最後」
その言葉にノルンが顔を上げる
「うん、気づいてると思うけど。ネームレスくんは吸血鬼になっちゃったし。もう4人で冒険はできないんだ。それで最後の冒険もこんなになっちゃったし、残念だなぁ」
「それは」
それは、とノルンは考える。マーリンが言っていた。吸血鬼になるというのは、自分たちにとって反転が発生したに等しい。それを覆すことはできず、世界に仇なす者として扱われる。
それを否定する権利は、自分たちにあるのだろうか。
「帰ってから、考えましょう。考えれば、何か抜け道が見つかったりするかもしれませんから」
精一杯の励ましに。キキモラはうんと頷いた。
なお、その後レイリーが自分たちの仲間と言って見せた写真に、彼らは大いに驚いた。
『成否:成功』
勇者パーティの包囲を指揮していたアサシンの隊長が悪態をついた。
弱りきった勇者御一行様をそのまま包囲殲滅する。という話だった。だが現実はどうだ。突如として現れたバリスタもかくやという大弓を持った女が暴れまわり。急遽殲滅のために包囲を早め、投入した戦力の横腹を、非常識にも森の中を突進してきた馬車と、騎士が、ぐちゃぐちゃに掻き回している。目標を違えたりしないはずのアサシンが、まるで動物が弱った餌に食いつこうとするように「最も堅牢な城塞のような相手に噛みついている」
「おい、町に連絡を入れろ。要増援、宝剣の移動を繰り上げろと」
望遠鏡を覗いたまま、部下に声を掛ける。返事がない。
「いやあ、やっぱりそうですよねぇ『常に次善策を構えるのは失敗回避に重要』ですものねぇ」
抜剣、よりも。ずっと、速く。未来を見ているかのように迷わず、紫の髪が翻るところさえ見られず。嵐のような一撃が隊長を襲った。
「ご、が」
「はい失礼。あーなるほど、ここからならよく見えますねぇ。はい、はい。四方に4人、欠けたら即対応。いやあよく考えてらっしゃる」
えひひ、と揉み手しながら三下のように媚びるのが似合いそうな声がいやに耳に入る。
「あーなるほど、シグナルランタンですか。あ、さすがにこりゃわかりませんね。しょうがないです。この距離なら『大急ぎでやれば』間に合いますね」
「なに、もの」
「そちらさんと同じですよ」
紫髪の女は眉毛をハの字にして笑った。
「なんとかなると思った事を、なんとかして見せに来た、仕事じゃあありませんけどね」
ありえない。
そう言う前に、隊長は事切れた。
ふう、とエマは一息つく。イヤに頭が冴える。初めて来た森なのに1キロ先に居る敵を狩るまでのルートを足先が勝手に選ぼうとする。それに僅かな恐怖を覚えるが、躊躇する暇はない。
そうして一歩、踏み出した。
キキモラというのは心優しいエルフだ。閉鎖的なエルフに産まれながら、博愛精神に溢れた彼女は森より街に出たほうがきっと多くの人の役に立てると思ってのことだった。
だからパーティの中では、自然と顔役になっていった。彼女の優しさはいつだって真であったから。この宝剣奪還の旅に出る時、本当に申し訳ないと頭を下げたイーリンに、こうなる前に助けられなくてごめんなさい、たくさんのことを押し付けてごめんなさいと、涙したのは彼女だった。
だからノルンが治療を申し出た時、こんなところに来てもらってごめんなさいと謝って、面食らったのはノルンの方だった。
戦闘の方は圧勝と言うのもおこがましい、蹂躙というに相応しいものだった。要塞の中から岩混じりの暴風が絶え間なく吹き荒れるような状況に、どうして人間が勝てるのか。
連絡員はエマが全て刈り取り、少なくとも今夜中は町に連絡が行くことはあるまい。
移動の前に体力回復を、と煮炊きをする余裕まであった。
ネームレスだけは気にするなと言って離れたのは、治癒の魔法を受け付けられる体ではないから。
「ねぇ、イーリンちゃんは皆さんとはどんな風に付き合っていたの」
「そうですね、しんどいとかつらいって言いながら、仕事を片っ端から手を付けて」
「そっか、私達の知ってるイーリンちゃんと一緒だね」
消耗した体にも優しくしみる、滋味に溢れた一杯を作る。安全をアピールするためにノルンが先に口をつける。
「いっぱいお世話になったから、こうしてここまで来たんです」
「そっかぁ」
朗らかに笑うキキモラより先に、待てよと言ってブレイブがスープに口をつけた。ありがとうね、とキキモラは付け加える。
「ねぇ、私達はこれから光の国に戻るの」
「はい、見ての通り頼もしい皆さんが助けに来てくれていますから。宝剣奪還の連絡もすぐ来ると思います」
「そっかぁ、最後まで。イーリンちゃんに助けられてばっかりなんだね、私」
「最後」
その言葉にノルンが顔を上げる
「うん、気づいてると思うけど。ネームレスくんは吸血鬼になっちゃったし。もう4人で冒険はできないんだ。それで最後の冒険もこんなになっちゃったし、残念だなぁ」
「それは」
それは、とノルンは考える。マーリンが言っていた。吸血鬼になるというのは、自分たちにとって反転が発生したに等しい。それを覆すことはできず、世界に仇なす者として扱われる。
それを否定する権利は、自分たちにあるのだろうか。
「帰ってから、考えましょう。考えれば、何か抜け道が見つかったりするかもしれませんから」
精一杯の励ましに。キキモラはうんと頷いた。
なお、その後レイリーが自分たちの仲間と言って見せた写真に、彼らは大いに驚いた。
『成否:成功』
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【偽シナ】彼女に最後に残るもの
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