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文化保存ギルド

【偽シナ】彼女に最後に残るもの

●邂逅
「おや、予定より随分と遅かったね」
 すらりとした、どこか達観した雰囲気を持つ少女は、花畑に置かれた白いテーブルの側で貴方達に気づくと言った。
「観測する場所の問題か、はたまた単純に遅刻したのか。まぁ立ち話も何だ、どうぞ座ってくれ給え」
 テーブルに人数分の紅茶を置くと、ボブカットの髪をさらりと鳴らし、紫苑の妖精といった雰囲気の少女の面影は、どこかイーリンに似ていた。
 少女は貴方達の顔を見ると、嬉しそうに顔をほころばせた。
「あの子のために来てくれてありがとう。まずは感謝を述べさせてもらうよ。私は誰でもない、君たちの協力者にして語り手とだけ思ってくれればいい」
 誰かが聞いた、その言葉をどうやって信じればいいのか。
「君たちだけではこの領域に来られなかった。あの子を害するのが目的なら、そのまま放置してヒトでなくなるのを待てばいい。そして解決策を、ついぞあの子は君たちに伝えなかった。違うかい」
 返事を待ち、少女は自分の茶を最後に注ぐ。花畑に、どこか嗅ぎ慣れた香りが漂う。
「続けよう、まずはあの子をヒトとして生かす方法から」
 あの子の長話に慣れていれば大丈夫さ、と少女は言った。

●読み合わせ
「端的に言えば、あの子が自らをヒトという領域から外れ、願望器となることを拒まない理由は2つある」
 元の世界に居る仲間が抱える、死の運命に共にありたいという心。
 神々が作り上げた、彼女という願望器のシステム上の構造そのもの。
「だがこの後者の部分はほぼ無効化されているんだ。何故か分かるかい。そう、上位世界である混沌世界で完成された願望器は、この世界の神々よりも強いからだ。世界の構造には、神でさえ従うしかない」
 少女は鼻で笑った。
「だから君たちには、実質的に唯一の楔となっている死の運命を覆してほしい」
 指を立てる少女。指先を回せば、テーブルの上に茶菓子が出てくる。気が急いていたよと詫びを加えた。
「死の運命を覆すために必要なことは2つ。『彼女の仲間3人の救出』と『宝剣の奪還』だ。知っているかもしれないが、彼女が元の世界でやらかした事さ」
 やらかしたというには随分と可哀想だがね、と少女は肩をすくめた。
「名前は重要じゃない。一人は勇者候補『ブレイブ』もう一人は彼女の恋人の吸血鬼『ネームレス』そして彼女のチームリーダー、エルフの『キキモラ』さ。彼らは今、敵国の深部でキャンプをとっている。このままでは敵の精鋭に始末されるだろう。それを助け、本国へと帰還させるのが一つ」
 今恋人と言ったか。という質問に、少女はカップに視線を移しながら一口。それには答えない。
「もう一つは敵国に奪われた宝剣。これが彼女たちが敵国に単独で突入しなくてはいけなくなった原因だ。文化的価値しか無い物だが、象徴としては十分な物だ。前述の仲間たちも、これが無ければ帰還を認めないだろう。2つで1つの仕事と思ってほしい」
 それが成し遂げられれば、と少女は貴方達を見る。
「本国は宝剣さえ戻ればいい。さっき言った通り勇者候補を始めとした優秀な若者たちだ。『国を動かさずに内々で済ませようとした』というのは彼らを惜しんでの事さ」
 食べないのかい、と言って少女はスコーンを千切って一口。その遠慮のなさはどこか彼女ににている。
「君たちは下位世界において、上位世界の存在の補正を受けている。情報は随時、私が小間使いとしてサポートしよう。準備が終わり次第行き給え。ただなるべく急いでおくれ、君たちが召喚されたということは、彼女はとうの昔に限界を迎えていた、ということなのだから――そう、レベル100が限界だったはずなんだ、本当はね。じゃあ」
 どうかあの子をよろしく頼むね、と少女は言った。

●余談(ああ、ここは読み飛ばしても仕事には差し支えないよ、と少女は言った)
 この世界の始まりは全てを内包する無の世界だった。
 全てを内包する故に、有るが、無い。完璧な世界だった。
 その世界に、ある日外から剣が突き立てられた。
 剣は全てを分断した。
 有と無を、光と闇を、天と地を、空と星を、陸と海を、生と死を。あらゆる物を分断した。
 そうして剣はついに、己自身を分断し、神々が生まれた。
 これが世界の始まりである。故にこの世界は『剣の世界』と呼ばれる。

 神々は各々の分け身として、生物を生んだ。戦の神は猛き竜や大いなるな鯨を、豊穣の神は稲穂とそれを食む穏やかな動物たちを、そして義の神は調停者としての人を、知識の神は賢者を、と。
 そして人は増え、互いを分断し、あるいは分け合い。増えていった。

 分かたれた神々が光と闇に大別されるように。人の国もそれに倣った。光と闇の国である。
 しかし、この国は長年大きな争いをすることはなかった。
 それは神がそうであったように「相反すれば争うことは道理なれど、相反する存在が居ることは否定されることではない」という許容が創世神話に存在したからだ。なぜなら、善も悪も、光も闇も全ては同じ根から生まれたのだから。

 さて、悠久の月日が流れた後、光の国の王都に一人の少女が産まれた。
 彼女は両親の愛情と冒険心をたっぷりと受け、教会に預けられて英才教育を受け、無限の好奇心と冒険心で14になると同時に旅に出た。
 そうして仲間を得て、冒険を繰り返し。数年後には若くして司祭候補に挙がる。
 国としてもそういった若く希望に溢れる者を担ぎ上げるのはやぶさかではなかった。
 なぜなら、その国は長らく英雄など出ていなかったのだから。

 そうしてある年、例年の宝剣のお目見えパレードに、彼女たちのお披露目も加わった。新たな英雄たちの卵を、世間は歓迎していた。
 その折『英雄のいない時代に、闇の国は今までに無い攻撃を行った』宝剣の奪取である。国家の象徴である宝剣を奪われたとあれば、それを返さねば戦わねばならない。しかしそれは最後の手段。
 故に新たな英雄候補であった彼女たちに命が下った「その時居合わせておきながら、宝剣を守れなかった責任を負い、奪還せよ」と。
 それが彼女たちの、死出の旅路であった。

 同時期、神託が下った。上位世界の崩壊。そしてそれに伴う全ての下位世界の消滅。
 神々は困った。上位世界に送られるのは一人。しかし、それに相応しい英雄は世におらず。我々の加護も与えることができぬ。それらは全て「混沌肯定」なるもので無に帰すのだと。
――然らば。
 ある神が知恵を授けた「足して英雄にできぬならば、英雄になれぬ要素を分断してしまえばよい」と。
――燃え尽きる心を断ち切れ。
――仲間に恵まれないという縁を断ち切れ。
――神以外を信奉する心を断ち切れ。
――誰かに夢を託すという心を断ち切れ。
――欠けずに居られるという幸運を断ち切れ。
――生き方を縛られるという恋心を断ち切れ。
――武運を失うという不運を断ち切れ。
――自由に愛する豊かな心を断ち切れ。
 それらを分断し、上位世界にばら撒いてしまえ。そうすれば神々でも元に戻せぬ、完成された英雄を一人、上位世界に降ろす事ができる。
 では誰が良い。と地に目をやると一人。
 闇の国にあり、死の運命に陥りながらも、まだ燃え盛る流星のような少女が一人。

 故に神々は『それ』を八つ裂きにし、合計9つを上位世界に送った。もしこの世界に戻ってきても、死の運命をそのままに、魔力として世界に還る機能をつけて。
 その少女の名を「イーリン」といった。

●プレリュード【救出】
「イーリンが、消えた」
 ボロボロになった白い鎧にマントを羽織っていた青年、ブレイブが驚愕の声を上げた。
「どういうこと。イーリンちゃんに魔法がかけられていたの」
 人の良さそうなエルフのキキモラは口を抑えて慌てて魔法で走査を行うが、何も見当たらない。当然だ、ここはベテランの戦士でもある「四人」が「暗殺者」達から逃れて選んだ森の中、そのような気配があれば既に気づいている。
「慌てるな、マジックアイテムの類かもしれん。助け出すとき、拷問で埋め込まれていたのかあるいは」
 中性的な吸血鬼、ネームレスは淡々と述べるが内心一番危機感を覚えているのは彼だろう。彼は、この冒険中にイーリンを助けるためだけに、外法を用いて二度と光の国に戻れぬ吸血鬼にまで身をやつしたのだから。
「呑気に分析してる場合かよ。あいつを助けるために宝剣の追跡も切れちまったんだぞこれじゃあ」
「ブレイブくん」
 ネームレスに食ってかかろうとしたブレイブに、キキモラは目を潤ませた。
 夜の森、空気がざわめく。
 四人でも厚かった絶望の雲が、重く、重く。

●プレリュード【奪還】
 その宝剣は、光の国の王都にある聖剣の模造品である。故に宝剣と呼ばれる。
 闇の国がそれを奪ったのは、宣戦布告のためではなかった。
 これを秘密裏に帰すことで、光の国との交易交渉を有利に進めるという算段があった。
 光の国が聖戦のために犠牲を厭わない国なら、闇の国は実利が勝るなら戦争をしようという国だった。
 故に宝剣を奪った。関税交渉もこれで楽になるだけでなく、いつでも奪えるぞという脅迫の実績は今後様々な面において有利になるだろう。
 例の勇者候補達が奪還に即座に追跡した時は肝を冷やしたが、奴らは光の国らしく仲間を優先した。
 闇の国の首都近くまで来たこの状況、アサシン達だけでなく正規兵が十重二十重に敷いた防衛陣は、もはや個人で突破は不可能だ。
 リーダーの女はやれやれとため息をつく。あの勇者候補達において最強は間違いなくあのブレイブだが、最も自分たちを的確に追跡して来たのはあの紫の髪の女。処女だったようだが……持ち物検査のついでに奪ってしまったのは少し悪いことをした。
 夜の闇は深い、後は首都からの回収チームを待つだけでいい。女はセーフハウスのチェアに腰を下ろし。腰に提げた宝剣を改めて革袋に包み直した。
 光は、目立ちすぎる。

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【少女に質問】
さて、『マーリン』。キミの所感を聞きたいのだが。
こすっからい保険をかけてまで送り出したイーリン・ジョーンズがこの地へ無事に帰還したとして、神々はそれを放っておけるかい。

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