ギルドスレッド スレッドの一部のみを抽出して表示しています。 文化保存ギルド 【偽シナ】憧憬は君の瞳に 【流星の少女】 イーリン・ジョーンズ (p3p000854) [2024-02-05 11:11:42] 【偽シナ/異聞録】憧憬は君の瞳に●第二章 その娘は、生まれてより孤独であった。 ワタリの一族は、渡りをつけることを生業とする。 岩と、山と、強大な生物が潜む覇竜という国という体さえ持てない「領域」では、集落の行き来だけでも命がけであった。 それゆえに、集落間に物や人の渡りをつける仕事というのは、極めて危険であり、常に誰かが死ぬ可能性を孕んでいた。 それ故に、ワタリは家族を持たない。 生まれてから死ぬまで、一族はワタリとして生きる。 覇竜以外で生きることができないのではない。覇竜以外に目を向けて、生きていられるほど甘くないからだ。 故に、その娘は生まれてより孤独であった。 その貪欲さと才覚を兼ね揃えた強者は、覇竜だけに留まる器ではなかったからだ。 ●ありえたかもしれない、もう一つの歴史(20XX年X月X日、覇竜)「お"お"うっ❤ 我が愛! 宝石の君! 千里に轟く美貌と名声!」 平手打ちの音。 転がる少女。「愛が重い"っ❤」「今度人前でそれやったらブン殴るから」 ギルドローレット、覇竜支部の一つ。椅子に座っていたイーリンを見るや真正面から両手両足で飛びついて抱きつき。大型犬よろしく顔をべろんべろん舐めていた自称「獰猛なる竜の眷属の狐にして狼の牙を持つ者」にして、イーリンにそっくりの顔立ちにほぼ下着のような衣装で求愛する彼女は、ヘイリンと言った。「はぁはぁ❤ あはぁ❤」 床にふっとばされて太い竜の尾を床の上でびたんびたんとしばらくのたうち回った彼女はゆっくりと立ち上がり。皆の方を向いた。「折り行って、君達に頼みがあるワン」 品よく、椅子に座る。「キャットは、ワタリである。そして、ワタリである以上覇竜から外には出られないワン。それはワタリの掟であり。キャットはワタリであることに誇りと敬意を持っている。けれど、キャットは外の世界を知りたい」 穏やかに、けれど言い切る。イーリンはその話を横で聞きながら、ハンカチで顔を拭っている。「ワタリ自身に渡りをつける手段はある。それは一族の中でも限られたものが知る『試練の墓所』に眠る宝剣を手に入れ、族長に渡すことだワン。その宝剣の譲渡をもってして、ワタリであることをやめ、個として生きることを許されるニャン」 小さな手をヘイリンを見ながら、少し力を込めて握る。「キャットは、ヒトとして生きたい。ワタリではなく。たとえどんな形であってもヒトとして生きてみたい。キャットの思うまま、野山を駆け、人とふれあい、学び、育みたいとおもうワン」 混沌とした装いや行動、エキセントリックな言葉遣いは。あまりに断片的に手に入れた外の世界のため。 イレギュラーズにあまねく好意を抱くのは、自分の知らない風を渡ってきたため。「試練の墓所は、その名の通り挑んだ時点で試練を成功してワタリとして死ぬか。突破できなければ死ぬ。故に、試練の墓所の掟はひとつ。一度入ったもの、宝剣を得るまで出ることなかれ……だワン」 言い淀んだキャットに続けるように、イーリンが今度はイレギュラーズをまっすぐ見つめる。「渡りをつけるのがワタリの一族の使命とはいえ、つけられるかもわからない渡りを敢行することになる。このルールそのものが、ワタリの一族のプライドを傷つける。そして、過去失敗した者たちは尽く一人で死んでいったというわ。けど、ルールがそれ一つだとすれば『何人で赴いても問題はない』ということよ」「それさえも、渡りをつけられない場所に連れて行くという、ワタリの生き方への反逆だワン」 古くからこの言い伝えを聞いていて、その内容が如何に困難なものか、そして自分が突破するには「知識が足りない」事をヘイリンはよくわかっていた。 諦めていた。 正確には諦めたフリをしていた。 けど、運命が渡りをつけようとしていた。 覇竜に至ったイレギュラーズが 自分にそっくりなイーリンが 断片的でも見えてしまった希望。 それが宝石のように、目をくらませてしまっているのかもしれない。 深い諦観の中に居たヘイリンは、普段なら自分はキャットと呼べと言う。その仮面を外して、一人の人間として、イレギュラーズに頭を下げた。「それでも、キャットの、私の願いに渡りをつけてほしい」 ●試練の墓所 そこは、山の中をくり抜かれた場所である。 そこは、重い石扉で封をされた場所である。 そこは、自らの運命を試す場所である。 ――ドアノブを素手で触れるのか?――匂いで全て見破られるのか?――魔眼や透視が万能とでも?――疑え、疑え、渡りをつけろ。――宝剣はその先にある。 →詳細検索 キーワード キャラクターID 検索する 【最果てに至る邪眼】 刻見 雲雀 (p3p010272) [2024-02-14 22:14:55] レイリーさん確認ありがとう。そういや武器の記載忘れてたと思って武器の説明だけ追加して、その後何もなければプレイングこのまま送るね。 キャラクターを選択してください。 « first ‹ prev 1 next › last » 戻る
●第二章
その娘は、生まれてより孤独であった。
ワタリの一族は、渡りをつけることを生業とする。
岩と、山と、強大な生物が潜む覇竜という国という体さえ持てない「領域」では、集落の行き来だけでも命がけであった。
それゆえに、集落間に物や人の渡りをつける仕事というのは、極めて危険であり、常に誰かが死ぬ可能性を孕んでいた。
それ故に、ワタリは家族を持たない。
生まれてから死ぬまで、一族はワタリとして生きる。
覇竜以外で生きることができないのではない。覇竜以外に目を向けて、生きていられるほど甘くないからだ。
故に、その娘は生まれてより孤独であった。
その貪欲さと才覚を兼ね揃えた強者は、覇竜だけに留まる器ではなかったからだ。
●ありえたかもしれない、もう一つの歴史(20XX年X月X日、覇竜)
「お"お"うっ❤ 我が愛! 宝石の君! 千里に轟く美貌と名声!」
平手打ちの音。
転がる少女。
「愛が重い"っ❤」
「今度人前でそれやったらブン殴るから」
ギルドローレット、覇竜支部の一つ。椅子に座っていたイーリンを見るや真正面から両手両足で飛びついて抱きつき。大型犬よろしく顔をべろんべろん舐めていた自称「獰猛なる竜の眷属の狐にして狼の牙を持つ者」にして、イーリンにそっくりの顔立ちにほぼ下着のような衣装で求愛する彼女は、ヘイリンと言った。
「はぁはぁ❤ あはぁ❤」
床にふっとばされて太い竜の尾を床の上でびたんびたんとしばらくのたうち回った彼女はゆっくりと立ち上がり。皆の方を向いた。
「折り行って、君達に頼みがあるワン」
品よく、椅子に座る。
「キャットは、ワタリである。そして、ワタリである以上覇竜から外には出られないワン。それはワタリの掟であり。キャットはワタリであることに誇りと敬意を持っている。けれど、キャットは外の世界を知りたい」
穏やかに、けれど言い切る。イーリンはその話を横で聞きながら、ハンカチで顔を拭っている。
「ワタリ自身に渡りをつける手段はある。それは一族の中でも限られたものが知る『試練の墓所』に眠る宝剣を手に入れ、族長に渡すことだワン。その宝剣の譲渡をもってして、ワタリであることをやめ、個として生きることを許されるニャン」
小さな手をヘイリンを見ながら、少し力を込めて握る。
「キャットは、ヒトとして生きたい。ワタリではなく。たとえどんな形であってもヒトとして生きてみたい。キャットの思うまま、野山を駆け、人とふれあい、学び、育みたいとおもうワン」
混沌とした装いや行動、エキセントリックな言葉遣いは。あまりに断片的に手に入れた外の世界のため。
イレギュラーズにあまねく好意を抱くのは、自分の知らない風を渡ってきたため。
「試練の墓所は、その名の通り挑んだ時点で試練を成功してワタリとして死ぬか。突破できなければ死ぬ。故に、試練の墓所の掟はひとつ。一度入ったもの、宝剣を得るまで出ることなかれ……だワン」
言い淀んだキャットに続けるように、イーリンが今度はイレギュラーズをまっすぐ見つめる。
「渡りをつけるのがワタリの一族の使命とはいえ、つけられるかもわからない渡りを敢行することになる。このルールそのものが、ワタリの一族のプライドを傷つける。そして、過去失敗した者たちは尽く一人で死んでいったというわ。けど、ルールがそれ一つだとすれば『何人で赴いても問題はない』ということよ」
「それさえも、渡りをつけられない場所に連れて行くという、ワタリの生き方への反逆だワン」
古くからこの言い伝えを聞いていて、その内容が如何に困難なものか、そして自分が突破するには「知識が足りない」事をヘイリンはよくわかっていた。
諦めていた。
正確には諦めたフリをしていた。
けど、運命が渡りをつけようとしていた。
覇竜に至ったイレギュラーズが
自分にそっくりなイーリンが
断片的でも見えてしまった希望。
それが宝石のように、目をくらませてしまっているのかもしれない。
深い諦観の中に居たヘイリンは、普段なら自分はキャットと呼べと言う。その仮面を外して、一人の人間として、イレギュラーズに頭を下げた。
「それでも、キャットの、私の願いに渡りをつけてほしい」
●試練の墓所
そこは、山の中をくり抜かれた場所である。
そこは、重い石扉で封をされた場所である。
そこは、自らの運命を試す場所である。
――ドアノブを素手で触れるのか?
――匂いで全て見破られるのか?
――魔眼や透視が万能とでも?
――疑え、疑え、渡りをつけろ。
――宝剣はその先にある。