ギルドスレッド
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文化保存ギルド
――Tボーンステーキのグリルです
エスカルゴの途中でイーリンが頼んだものが来た。やっぱり肉、だが今回は鉄板焼などではなく、皿の上に見たこと無いソースと一緒に出てきた。やはり食べやすいようにサイコロ状に切れ目が入れられている。こうした空間でガツガツと音が立たないように工夫されているのだ、と感心した。
ここまでくるともう、当然旨い。さっきからゆっくりと飲んでいるキティ、赤ワインとお肉なんてよく聞いたことがあるけれど。嘘ではないと確信できた。
知らないことだらけだ、お酒も、こういう場所で出される料理も。
「もっと呑みたいかしら」
「あ、はい。えっと、じゃあ次は、ううん」
「最初のは辛口、次は甘め、キティは中口って感じね。どれが美味しかった」
「どれも美味しいのですけど。こう、料理とすすむようなものだと嬉しいと思います」
大真面目に考えたのに、イーリンはくすくすと笑い出した。
すぐに気づく、だってどうやっても美味しいものしか選ばないのはわかっているから。
「オーケー、じゃあデザートにびっくりするくらい甘いカクテルを出してもらうとして。もうちょっとお腹入るかしら。私パスタとかもいきたいんだけど」
「は、はい。よろしくお願いします」
頬が熱いのは、きっとお酒が回ってきたからと思いながら、ココロはぎゅっと一度目を閉じて。自分の意識をはっきりさせた。
――本日の冷製パスタとアペロールスプリッツです
美味しい。
お師匠様も笑っている、よく食べる人だ。
――オリーブのフライとジントニックです
小さなオリーブ一粒の中からオイルと酸味が口の中で弾ける、一杯目と同じさっぱりした感じがよく合う。
魚介のパエリア頼んで良いかとお師匠様が聞いたのでわざと睨んでみた。可愛い。
――ローストビーフとレッドアイです
またお肉、けど量はちょっとだからちょうどいい。赤いけどワインじゃなくてビールにトマト。これはちょっと苦いかも。
――デザートのショコラテリーヌとコーヒーリキュールです。ミルクで割らせて頂きました。
生チョコみたいな食感に、コーヒーミルクみたいな甘みがドンときて。口の中が甘いで一杯になる。けどコーヒー同士なのに飽きること無く、味わいが違っていて。美味しい。
――――――
――――
―――
――
「ココロ」
「はい、おししょう様」
「大分酔ってる」
「よっ、ふわふわしてるだけです」
「貴方、途中で水飲まなかったでしょ」
「だっ、ておししょう様がのめって言いませんでした」
「チェイサーとか勉強してこなかったの」
「ちぇい」
「あと、貴方途中からすごく美味しそうに色々感想をくれたわよ」
「え」
「さあ、ちゃんと水を飲んで。転んじゃイヤよ」
「大丈夫ですよ、おししょう様じゃないんですから」
「この子ったら」
「それよりもっとおしゃべりしたいです、妹弟子たちばっかりかまって。その次は穴掘り屋さんに冬の王様ですよもっとわたしを見てください」
「はいはい」
「はいは一回でいいんです」
「うふふ」
エスカルゴの途中でイーリンが頼んだものが来た。やっぱり肉、だが今回は鉄板焼などではなく、皿の上に見たこと無いソースと一緒に出てきた。やはり食べやすいようにサイコロ状に切れ目が入れられている。こうした空間でガツガツと音が立たないように工夫されているのだ、と感心した。
ここまでくるともう、当然旨い。さっきからゆっくりと飲んでいるキティ、赤ワインとお肉なんてよく聞いたことがあるけれど。嘘ではないと確信できた。
知らないことだらけだ、お酒も、こういう場所で出される料理も。
「もっと呑みたいかしら」
「あ、はい。えっと、じゃあ次は、ううん」
「最初のは辛口、次は甘め、キティは中口って感じね。どれが美味しかった」
「どれも美味しいのですけど。こう、料理とすすむようなものだと嬉しいと思います」
大真面目に考えたのに、イーリンはくすくすと笑い出した。
すぐに気づく、だってどうやっても美味しいものしか選ばないのはわかっているから。
「オーケー、じゃあデザートにびっくりするくらい甘いカクテルを出してもらうとして。もうちょっとお腹入るかしら。私パスタとかもいきたいんだけど」
「は、はい。よろしくお願いします」
頬が熱いのは、きっとお酒が回ってきたからと思いながら、ココロはぎゅっと一度目を閉じて。自分の意識をはっきりさせた。
――本日の冷製パスタとアペロールスプリッツです
美味しい。
お師匠様も笑っている、よく食べる人だ。
――オリーブのフライとジントニックです
小さなオリーブ一粒の中からオイルと酸味が口の中で弾ける、一杯目と同じさっぱりした感じがよく合う。
魚介のパエリア頼んで良いかとお師匠様が聞いたのでわざと睨んでみた。可愛い。
――ローストビーフとレッドアイです
またお肉、けど量はちょっとだからちょうどいい。赤いけどワインじゃなくてビールにトマト。これはちょっと苦いかも。
――デザートのショコラテリーヌとコーヒーリキュールです。ミルクで割らせて頂きました。
生チョコみたいな食感に、コーヒーミルクみたいな甘みがドンときて。口の中が甘いで一杯になる。けどコーヒー同士なのに飽きること無く、味わいが違っていて。美味しい。
――――――
――――
―――
――
「ココロ」
「はい、おししょう様」
「大分酔ってる」
「よっ、ふわふわしてるだけです」
「貴方、途中で水飲まなかったでしょ」
「だっ、ておししょう様がのめって言いませんでした」
「チェイサーとか勉強してこなかったの」
「ちぇい」
「あと、貴方途中からすごく美味しそうに色々感想をくれたわよ」
「え」
「さあ、ちゃんと水を飲んで。転んじゃイヤよ」
「大丈夫ですよ、おししょう様じゃないんですから」
「この子ったら」
「それよりもっとおしゃべりしたいです、妹弟子たちばっかりかまって。その次は穴掘り屋さんに冬の王様ですよもっとわたしを見てください」
「はいはい」
「はいは一回でいいんです」
「うふふ」
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シレンツィオリゾート、夜の海が見えるバーに一人の少女。だった女が座っていた。
ぼう、と夜景を眺める憂いを帯びた表情に、時折男が声をかけようとするが向かいの席に置かれたナプキンに気が付き、去っていく。
ちら、とココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)はそれを目で追う。興味ではない、安堵だ。
今話しかけられたら、理性的な対応をできる自信がなかったから。
あの人は身内に甘い。
ため息交じりにそうひとりごちる。
先の大戦争(深緑決戦)で、世界の命運を握る相手(冠位魔種)より、自分のことを友達だと言った相手を救うことを優先した。普段見られない嘆き、慟哭、なりふり構わない立ち回り。
弟子に教えてくれ、助けてくれと言ってきた情動。
わたしにとって、それは嬉しくもあった。きっとそれは「ココロ」というものがいっぱいあの人の中にあったのだろうから。
それはいいのだけれど。
懇意にしている穴掘り隊長に、これみよがしに自分の趣味と小物を押し付けた水着を着せるのもいいけれど。
貴方の初めてのお酒の相手になりたいと言ってくれたのはいいけれど。
その当日、朝から友達の世話に奔走するのもいいけれど。
「わたしとの約束の時間、もう過ぎてますよ」
ちょっと背伸びした、ううん。大人になったのだから、とあの人がすすめてくれた黒のカクテルドレスの裾を少し握って、つぶやく。
こういう時、大人の女はどう対応すればいいのだろう。例えばメニューの紙に、口紅で大嫌いとか書いて帰ればいいのだろうか。それとも、ここでたらふく飲み食いして、後から来るひとにツケておいてと言うだろうか。
それとも
「ごめん、遅くなっちゃった」
紫の髪を振り乱し、周囲の目も気にせず、息も整えず小走りで来た。自分よりも背のちっちゃい、わたしにあわせてくれたデザインのドレスの似合うこの人に。
「いいえ、お忙しいのは存じていますから。お気になさらず」
ちょっとだけ意地悪を込めた言い方をしながら許すのが、大人の対応なのだろうか。
●医師とその師匠
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)の慌てっぷりたるや、知る人が知れば良い見世物になっただろう。
「それで、私は彼にやめろって言ったんだけど」
「はい」
席に座るなり整いきっていない髪を整え直しながら、目をそらして語り始め。
「お昼ごはんも食べられてなくて、なんとか一息ついたらあの子が居て」
「はい」
出されたおしぼりで丁寧に手を拭くのは、おそらく化粧をした後の手が綺麗な自信がなかったからで。
「あ、ドレス似合ってるわ。去年の水着もそうだったけど。貴方に黒は真珠みたい、綺麗だわ」
「ありがとうございます」
思いついたように褒めて来るのは、この人の手癖のようなもので。
「怒ってる」
「いいえ」
身内には甘いし、甘えてくる。大人なのに案外適当だし、ポンコツなこの人を許すのも、わたしの特権。
「よかった、それじゃあ呑みましょう。何か希望はあるかしら」
「何も、お師匠様のお望みのままに」
それじゃあ困るわ、とイーリンが言うとココロは夜景に目をやる。
「そう言われましても、お師匠様がいらっしゃるまでずっとカクテルのメニューとにらめっこしていた身としては、結局ピンときませんでした。それならわたしは、お師匠様が選んでくれる物がいい。『そのために』今日は時間を作ったんですから」
ちょっとチクチク。眉をハの字にするイーリン。後ろで結んだ髪が揺れる。ココロの結い上げた髪は揺れない。
「んもう、じゃあそうね。お祝いと私の反省を込めて。デス・インジアフタヌーンでどうかしら」
「んっ」
物騒すぎる名前に、ココロが思わず喉をつまらせる。どんな酒でも飲んでやろうと思ったが、あんまりだ。
「イヤかしら」
「いえ、おまかせします」
ここで退いたら女がすたるとココロは促した。イーリンは笑うと、息を整えてからボーイを呼んだ。
「おつまみは」
「ご随意に」
「じゃあアラカルト、一杯に一品でお願い。二人で分けるから一人前でいいわ」
さっと注文を終えて、ふたりの女は一緒に窓の外を見る。まだ少し、視線は合わせられなかった。
「綺麗ね」
「はい」
「貴方も本当に綺麗になった」
「褒めても何も出ませんよ、お師匠様」
「貴方から言葉が出てくるだけで嬉しい」
「赤ちゃん扱いですか」
「まさか、大人になった貴方とこうして、夜景を見ながら出てくる言葉全部よ」
「よくわかりません」
妙な言い回しを、とイーリンの方に向いたココロは、彼女が穏やかに笑っているのを見た。
「夜景を見ながら、一緒に初めてのお酒を飲む貴方は、一生に一度しか無いでしょう」
子供みたいに歯を見せて笑う彼女に、ココロは諦めたようにため息を付いた。
「それ、遅刻してなければもっと嬉しかったですね」
そうして、ちょっとだけ困ったような笑顔を、頑張って浮かべてみせた。
●二つの心臓と大きな川
「『午後の死』です。こちらは鴨の肝ペーストのセビーチェ。海種の方とお伺いしていましたので、夏野菜を使っております」
フルートグラスに泡立つ黄金色の液体が注がれている。二人の間よく冷えたガラスの皿には花のように並べられたバゲットの上に、パプリカを使った色鮮やかなペースト。
「名前は威圧的だけど、見た目は綺麗でしょ。ユーモアあって好きなの、このカクテル」
「そう、ですか」
グラスを持ったイーリンにならって、ココロも持つ。グラスには自分と、イーリンが映っている。
「ええ、それじゃああらためて。我が弟子の成人と、未来に。乾杯」
「乾杯」
一緒に掲げ、一緒に一口煽る。華やかな香りが口の中いっぱいに広がるけれど、当然ジュースのように甘くない。ただ確実に旨味のような何かがあって、炭酸の爽やかさに促されて飲み込むと。喉に熱く、鼻に抜けてくるハーブの香り。お酒だ、としっかりわかるのに飲みやすい。喧嘩の現場で消毒に吹っかけた安酒とは全然違う。当然だとしても、驚く。
「ふわ、お師匠様、これ」
「気に入ったかしら。度数が高いからゆっくり飲んで。セビーチェにもあうわ」
促されてグラスを置いて、バゲットを摘んで食べる。オリーブオイルを塗っているのだろう、サクッとした歯ごただがパンくずが飛び散らず、綺麗に食べられる。お酒の熱が残っている口の中に、冷たいペーストの舌触りが良い。料理にこんなに食感を意識しただろうか、と不思議に思うほどに。
当然、オリーブオイルの香りの後にペーストの強い旨味が噛むと溢れ、その合間に夏野菜、おそらく軽くガーリック系の、何かで下味をつけているのだろう。鴨肝の甘みと違った存在感と、しゃっきりとした歯ごたえも面白い。噛む度に違う味を見つける。
なら試しに、とココロはカクテルをもう一口。今度は炭酸と一緒に、食材の旨味と香りが渾然一体となってのぼってくる。それは酒なんてまだ回っていないのに、酩酊感が脳に登ってくるほどで。
「美味しいでしょ」
「美味しいです。多分、これと同じくらいの味なら貴族のパーティで食べたこともあると思うのですけど」
口元を指先で隠しながら、どうしてこんなに違うのだろう、とグラスを睨むココロに、イーリンが笑う。
「お酒のために味が調整されてるからね。飲んで、食べて、そしたら呑みたくなる。酒飲みがよく濃い味を欲しがる理由、ちょっとわかった」
「はい、あの。しかし、これだけでグラスを開けてもいいものでしょうか」
「ふふ、大丈夫よ。お酒もいろんなのを試していきましょ。足りなければ注文するし、ね」
ココロがうなずくと、一つ気づいた。言ってしまえばきっとこの人は多用するから言わないけれど。お酒が、さっきまで自分の中にあったしこりを溶かしてしまった気がしたから。
「んま、次は何が良いかしら。お酒、もっと甘いのとかいってみるかしら」
なのにこの人は、もう気にせずに三枚目のセビーチェをカクテルで流し込んでいる。自分にとっては大事な最初の一杯なのに。
「お、おまかせします」
でも、これから一緒に思い出を作るのだから。最初の一杯にこだわり続ける理由だってない。今日の午後は、あと何時間あるか。でもその全部が死んだっていいや、とココロも負けじと飲み干した。
――鶏肉のマリネと、梅酒とりんごジュースのカクテルです
柔らかい鶏肉が花の蕾のように巻かれて、その上に花びらとか、空気感のように豆苗や人参、ズッキーニが踊っている。
カクテルはさっきよりも甘く、食事とのバランスが。そう、さっきはさっぱりした酒に味の強いつまみだったが、今回はさっぱりした料理に甘みと旨味の強いお酒。バランスだ、バランスを取っているんだ。
「興味深いですね」
思わずそんな事を呟いてしまう。飲む順番、食べる順番を前後させても旨いし、少し品は無いが口の中で混ぜるように食べても旨い。梅にはもともと酸味があるのだ、それを足し直すような食べ方で不味いわけがない。
「でしょう、贅沢な食べ方もお酒の醍醐味よ。普段街角で飲むのも悪くないけど」
楽しげに彼女は笑っている。
――エスカルゴのアヒージョとキティです
冷たいものの次はオリーブオイルの中で踊る夏野菜とエスカルゴ。その横では赤ワインのカクテルが炭酸で同じように踊っている。
「あ、これちゃんと生姜をすりおろしてるみたい」
「そうなのですか」
飲めばわかった。練達でよく出されたジンジャーエールとは違って、たしかに生姜の香りが強い。オイルのついた舌をさっと洗い流してくれるような。ベリー系の香りとは違うと存在感があっても、喧嘩をしていない。
「全然、違いますね」
「私もコレ好きね。あっつ」
「ふふ」
この人は猫舌なのについがっつく。ドレスが汚れたらどうするんですかと言ってあげようかと思ったけれど。ココロは可愛いからと許してしまった。