ギルドスレッド スレッドの一部のみを抽出して表示しています。 文化保存ギルド 【SS依頼】エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)より 【流星の少女】 イーリン・ジョーンズ (p3p000854) [2022-08-02 21:43:28] ●ビンズイ 覚悟というのは、均等な質量を持っているわけではない。 とりわけ、自分にとって大切な物でも、相手にとっては大したものではないというのはよくあることだ。 子供の頃に、河原できれいな石を見つけて好きな人にそれを渡しても、大して喜ばれずがっかりすることがあるように。エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)の手足のように動かすことのできる髪を切ってくれてやったというのに、そっけない態度の男が居た。 覚悟は己のものであり、他人がそれを察して何かを「してくれる」というのは傲慢だ。後悔はないが、手痛い教訓も得た。エクスマリアは嘆息をわずかに、いつもの黒衣の下で漏らしながら盟友が居を構える文化保存ギルドの門を開けようとした。 やや高い位置にあるドアノブは、そういえば普段は髪で回していたのだったか。 やれやれと思いながら手を伸ばし、門の先、小さな庭の先の扉を開く。 盟友は、今の自分を見るとなんと言うだろうか。「は」 丁度、開けた先で出くわし。エクスマリアを見るなり抱えていた大量の書類を落としながら、イーリン・ジョーンズ(p3p000854)が阿呆のような顔で目をまんまるにしていた。 エクスマリアは失念していた。自分にとって大切な物を、自分よりも大切にしてくれる人がいることを。例えばそれは、小さな頃に描いた似顔絵を後生大事にアルバムにしまう親のように。「ど、ど、どうしたのその、髪」 盟友は、共に普段から呼び合うことを憚らぬ輩は、思わずエクスマリアも目を丸くするほど、取り乱してくれた。●オオハシウミガラス しかし、心配も過ぎればこそばゆい。「ねぇ、切った髪の再生とかできないの。これじゃあいつもの手足みたいに動かすのも」「ああ、できない」 髪の毛の断面を虫眼鏡で確認し、ちょっと魔力を通すわねと言って随意筋のようにエクスマリアの髪が操作できないかを試しながら、イーリンは言った。エクスマリアは膝の上に手を置き、ちょこんと椅子の上に座っている。「できないとなると不便ね、代替手段としてはやっぱり使い魔を使ったり。ああ、不便よね。私にできることがあれば何でも言って頂戴」「ああ、困ったら、必ず言おう」 通された魔力でエクスマリアの髪がぴょこんと動く。少しは動くが、それでもショートカットになってしまった今では、その利点はもはや。「あ、ボブカットみたいにするとこれはこれで可愛いわね」「そう、か」 髪の毛が内側に、ぺっとりと丸まったのはエクスマリアの羞恥心のせいか。「こっちは大丈夫なの」「ああ、そこはどうしようもないところ、だからな」 そう言って二人の視線は同じ物を見上げる。二人っきりの時には見せる、彼女の『巻角』は健在だった。元々は、不自由の象徴であったそれも、今となっては他の髪も同じ、であればそう隠す理由もない。 だが、だからといって。「盟友」「なぁに、盟友」 白い指先が、黄金の角を撫でる。 冬だ、毎年イーリンの誕生日になればエクスマリアはプレゼントの代わりに自分の角を触らせてあげていたのは。もっと別の物をと思っても、この盟友はこれで良いと言って観察を繰り返していたのは。「もう、珍しいもの、では無くなってしまった、な」 それは、盟友にはすぐに伝わると信じて出した言葉。自分は前に進む、たとえ長年、それこそイーリンの十倍の年月は旅を続けていたエクスマリアのあり方は変わらないと、彼女を安心させる意味も込めて。「そうね、でも珍しくなくなっても」 後ろから、彼女が抱きしめた。普段肌のふれあいを嫌う彼女にしては珍しい行動に、小さくエクスマリアは唸った。黒衣の上の白い指。青い瞳と赤い瞳、どちらも前を向いたまま、耳元でささやく。「大事なものよ」 白い手に、赤銅の手が重なる。どちらも幼子のような小さな手だが、長い旅を重ねた手だ。 少し、心音が重なった気がした。「間違いない」 そう言うと、重ねた手に力を込めた。 ぜんまい仕掛けの時計の音が聞こえる。「盟友」「なぁに」「何か、他にあるか」 青い瞳は、安心した色を見せた。それは贈り物(ギフト)が変わったからなのか。長く付き合っているからなのか。「そうね」 否、盟友との出会いこそが月次だが贈り物だったのだろう。だから委ねよう。切り捨てた髪の重みを、忘れさせてくれるだろうから。●オオアジサシ「しかし、だ盟友」「なぁに、盟友」 風呂桶の置く音が響く。二人は練達の「すうぱあせんとう」に来ていた。 真っ昼間、それも女湯ということもありほぼ誰も居なかった。 せっかくなら、切った思い出を良い思い出にしましょう。それがイーリンの回答だった。 黒く細い体を、お湯で流される。何度か一緒に湯船を共にしたことはあったが、今日ほど無遠慮な流され方をすることはなかった。「もう少し、優しく、頼む」 曰く、この後一緒に焼肉を食べ、その後もうひとっ風呂浴びて夜景を見て、散歩をして帰ろう。なんとも乱暴な日程だ。「わかった」 断髪の義が終わったのなら、私たちはその前途を祝おう。だから「んっ、待て、くすぐったい」 白い指が赤銅の肌によく映える。幼さの残る肋を丁寧に泡でその溝まで洗うように踊り。「ま、て」 その未熟ながらも女性を感じさせる腰とお腹のラインをなぞったとき。 ぽかんと、小さなげんこつでエクスマリアはイーリンを叩いた。「前は、自分で洗える」 考え事を許さない、ということさえ気配りなのだろう。だから毛先が振れるのは止められなかったが。それでも恥ずかしいものは恥ずかしい。 盟友は、ごめんなさいと言いながら至極楽しそうだ。白い肌に薄いタオルが一枚。「だから、マリアも洗うぞ。いいな、イーリン」「え、それはちょっと」「だめだ」 ぎゅっとイーリンのタオルの裾を摘めば、もう逃さない。 頬を赤らめるのは自分ばかりでは不公平だろう。エクスマリアはイーリンに流してもらった後に、たっぷりとその柔らかさを堪能する、という素振りを見せて洗ってやった。 いい顔をしていた。●タカヘ「それで、だ盟友」「なぁに、盟友」 ぎっちりと網の上に敷かれた牛タンは、エクスマリアの頼んだカルビを置く隙間がなかった。「いや、なんでもない。やはり焼肉に行くなら、風呂はあとの方がよかった、のではないか」「そうでもないわ、さっぱりしてから食べる焼肉は美味。この後のお風呂は夜景が見えるプールみたいな温泉があるから、昼と夜両方温泉、贅沢でしょう」「そう、か」 眼の前で次々めくられる牛タン。肉の色が変わるかどうかの際で返し、焼き色が付く前にさっとエクスマリアの皿に二割、自分の皿に八割乗せていく。 エクスマリアはその間にカルビを敷き詰め、イーリンが乗せ終わる頃には半分ほど網の上を制圧した。「そうよ、だから気にせず食べましょう。飲み物どうする。私は烏龍茶」「ではマリアはこの強酸党レモンサワーを、ジョッキで頼む」「相変わらず飲むわねぇ。っていうか何その政治主張の強いサワー」 丼に入った白米をスプーンに乗せて、その上に牛タンをトングで乗せて。大きく口を開けて幸せそうに食べるイーリン。それを肴にサワーをひっくり返す勢いで飲むエクスマリア。牛タンは摘む程度でいい。肴にされてるとは思うまいが。「待て、返すのがまだ早い」「え、そうなの」「肉に脂が浮いた頃が返し時、だ。その後に、火が通れば、十分だ」 好きな肉にはそれぞれうるさい、だから好きに食べさせあう。 だからエクスマリアもカルビをイーリンに二割ほど渡した。 ――この黒胡椒漬けっていうのは。辛そうだ、他の肉の味がわからなくなるぞ。じゃあこのニンニク漬けは。明日大丈夫、なのか。ダメならその時よ、頼みましょう。ではマリアはこの壺漬け一本焼きと盛り合わせを。いいわね、私もこのチーズ石焼きビビンバと、ユッケ風ってやつを。 テーブルが手狭だ、早く食べて次が入るスペースを作らなきゃ。ああ、ちょっとモツを全部入れないで。どれかわからなくなっちゃう。 焼肉の陣取り合戦は、二人を食べる事に夢中にさせた。 →詳細検索 キーワード キャラクターID 検索する キャラクターを選択してください。 « first ‹ prev 1 next › last » 戻る
覚悟というのは、均等な質量を持っているわけではない。
とりわけ、自分にとって大切な物でも、相手にとっては大したものではないというのはよくあることだ。
子供の頃に、河原できれいな石を見つけて好きな人にそれを渡しても、大して喜ばれずがっかりすることがあるように。エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)の手足のように動かすことのできる髪を切ってくれてやったというのに、そっけない態度の男が居た。
覚悟は己のものであり、他人がそれを察して何かを「してくれる」というのは傲慢だ。後悔はないが、手痛い教訓も得た。エクスマリアは嘆息をわずかに、いつもの黒衣の下で漏らしながら盟友が居を構える文化保存ギルドの門を開けようとした。
やや高い位置にあるドアノブは、そういえば普段は髪で回していたのだったか。
やれやれと思いながら手を伸ばし、門の先、小さな庭の先の扉を開く。
盟友は、今の自分を見るとなんと言うだろうか。
「は」
丁度、開けた先で出くわし。エクスマリアを見るなり抱えていた大量の書類を落としながら、イーリン・ジョーンズ(p3p000854)が阿呆のような顔で目をまんまるにしていた。
エクスマリアは失念していた。自分にとって大切な物を、自分よりも大切にしてくれる人がいることを。例えばそれは、小さな頃に描いた似顔絵を後生大事にアルバムにしまう親のように。
「ど、ど、どうしたのその、髪」
盟友は、共に普段から呼び合うことを憚らぬ輩は、思わずエクスマリアも目を丸くするほど、取り乱してくれた。
●オオハシウミガラス
しかし、心配も過ぎればこそばゆい。
「ねぇ、切った髪の再生とかできないの。これじゃあいつもの手足みたいに動かすのも」
「ああ、できない」
髪の毛の断面を虫眼鏡で確認し、ちょっと魔力を通すわねと言って随意筋のようにエクスマリアの髪が操作できないかを試しながら、イーリンは言った。エクスマリアは膝の上に手を置き、ちょこんと椅子の上に座っている。
「できないとなると不便ね、代替手段としてはやっぱり使い魔を使ったり。ああ、不便よね。私にできることがあれば何でも言って頂戴」
「ああ、困ったら、必ず言おう」
通された魔力でエクスマリアの髪がぴょこんと動く。少しは動くが、それでもショートカットになってしまった今では、その利点はもはや。
「あ、ボブカットみたいにするとこれはこれで可愛いわね」
「そう、か」
髪の毛が内側に、ぺっとりと丸まったのはエクスマリアの羞恥心のせいか。
「こっちは大丈夫なの」
「ああ、そこはどうしようもないところ、だからな」
そう言って二人の視線は同じ物を見上げる。二人っきりの時には見せる、彼女の『巻角』は健在だった。元々は、不自由の象徴であったそれも、今となっては他の髪も同じ、であればそう隠す理由もない。
だが、だからといって。
「盟友」
「なぁに、盟友」
白い指先が、黄金の角を撫でる。
冬だ、毎年イーリンの誕生日になればエクスマリアはプレゼントの代わりに自分の角を触らせてあげていたのは。もっと別の物をと思っても、この盟友はこれで良いと言って観察を繰り返していたのは。
「もう、珍しいもの、では無くなってしまった、な」
それは、盟友にはすぐに伝わると信じて出した言葉。自分は前に進む、たとえ長年、それこそイーリンの十倍の年月は旅を続けていたエクスマリアのあり方は変わらないと、彼女を安心させる意味も込めて。
「そうね、でも珍しくなくなっても」
後ろから、彼女が抱きしめた。普段肌のふれあいを嫌う彼女にしては珍しい行動に、小さくエクスマリアは唸った。黒衣の上の白い指。青い瞳と赤い瞳、どちらも前を向いたまま、耳元でささやく。
「大事なものよ」
白い手に、赤銅の手が重なる。どちらも幼子のような小さな手だが、長い旅を重ねた手だ。
少し、心音が重なった気がした。
「間違いない」
そう言うと、重ねた手に力を込めた。
ぜんまい仕掛けの時計の音が聞こえる。
「盟友」
「なぁに」
「何か、他にあるか」
青い瞳は、安心した色を見せた。それは贈り物(ギフト)が変わったからなのか。長く付き合っているからなのか。
「そうね」
否、盟友との出会いこそが月次だが贈り物だったのだろう。だから委ねよう。切り捨てた髪の重みを、忘れさせてくれるだろうから。
●オオアジサシ
「しかし、だ盟友」
「なぁに、盟友」
風呂桶の置く音が響く。二人は練達の「すうぱあせんとう」に来ていた。
真っ昼間、それも女湯ということもありほぼ誰も居なかった。
せっかくなら、切った思い出を良い思い出にしましょう。それがイーリンの回答だった。
黒く細い体を、お湯で流される。何度か一緒に湯船を共にしたことはあったが、今日ほど無遠慮な流され方をすることはなかった。
「もう少し、優しく、頼む」
曰く、この後一緒に焼肉を食べ、その後もうひとっ風呂浴びて夜景を見て、散歩をして帰ろう。なんとも乱暴な日程だ。
「わかった」
断髪の義が終わったのなら、私たちはその前途を祝おう。だから
「んっ、待て、くすぐったい」
白い指が赤銅の肌によく映える。幼さの残る肋を丁寧に泡でその溝まで洗うように踊り。
「ま、て」
その未熟ながらも女性を感じさせる腰とお腹のラインをなぞったとき。
ぽかんと、小さなげんこつでエクスマリアはイーリンを叩いた。
「前は、自分で洗える」
考え事を許さない、ということさえ気配りなのだろう。だから毛先が振れるのは止められなかったが。それでも恥ずかしいものは恥ずかしい。
盟友は、ごめんなさいと言いながら至極楽しそうだ。白い肌に薄いタオルが一枚。
「だから、マリアも洗うぞ。いいな、イーリン」
「え、それはちょっと」
「だめだ」
ぎゅっとイーリンのタオルの裾を摘めば、もう逃さない。
頬を赤らめるのは自分ばかりでは不公平だろう。エクスマリアはイーリンに流してもらった後に、たっぷりとその柔らかさを堪能する、という素振りを見せて洗ってやった。
いい顔をしていた。
●タカヘ
「それで、だ盟友」
「なぁに、盟友」
ぎっちりと網の上に敷かれた牛タンは、エクスマリアの頼んだカルビを置く隙間がなかった。
「いや、なんでもない。やはり焼肉に行くなら、風呂はあとの方がよかった、のではないか」
「そうでもないわ、さっぱりしてから食べる焼肉は美味。この後のお風呂は夜景が見えるプールみたいな温泉があるから、昼と夜両方温泉、贅沢でしょう」
「そう、か」
眼の前で次々めくられる牛タン。肉の色が変わるかどうかの際で返し、焼き色が付く前にさっとエクスマリアの皿に二割、自分の皿に八割乗せていく。
エクスマリアはその間にカルビを敷き詰め、イーリンが乗せ終わる頃には半分ほど網の上を制圧した。
「そうよ、だから気にせず食べましょう。飲み物どうする。私は烏龍茶」
「ではマリアはこの強酸党レモンサワーを、ジョッキで頼む」
「相変わらず飲むわねぇ。っていうか何その政治主張の強いサワー」
丼に入った白米をスプーンに乗せて、その上に牛タンをトングで乗せて。大きく口を開けて幸せそうに食べるイーリン。それを肴にサワーをひっくり返す勢いで飲むエクスマリア。牛タンは摘む程度でいい。肴にされてるとは思うまいが。
「待て、返すのがまだ早い」
「え、そうなの」
「肉に脂が浮いた頃が返し時、だ。その後に、火が通れば、十分だ」
好きな肉にはそれぞれうるさい、だから好きに食べさせあう。
だからエクスマリアもカルビをイーリンに二割ほど渡した。
――この黒胡椒漬けっていうのは。辛そうだ、他の肉の味がわからなくなるぞ。じゃあこのニンニク漬けは。明日大丈夫、なのか。ダメならその時よ、頼みましょう。ではマリアはこの壺漬け一本焼きと盛り合わせを。いいわね、私もこのチーズ石焼きビビンバと、ユッケ風ってやつを。
テーブルが手狭だ、早く食べて次が入るスペースを作らなきゃ。ああ、ちょっとモツを全部入れないで。どれかわからなくなっちゃう。
焼肉の陣取り合戦は、二人を食べる事に夢中にさせた。