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文化保存ギルド

【SS依頼】ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)より

【注】このSSはセンシティブな内容を含みます。予めご了承下さい。

●私が書きたいのはここじゃないから
 ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)は可愛らしい笑顔を引きつらせていた。
 目の前には新作水着を着て、スライムまみれになった「ドキドキ☆Hadesめもりある」とそれの送り状を持ったイーリン・ジョーンズ(p3p000854)が晴れやかな笑顔を突き出していたから。
 これを突き出す前に、送り状を丁寧に添えてきたやつが居る。心当たりが無いかという問答に対し、ルシアが「それはあなたを応援する名もなきモブキャラの一人から贈られたものでして。ルシアは関係ないのでして」と口を滑らせ「どうして『名もなきモブキャラの一人から』って知っているのかしら?」とありがちな探偵と犯人のやり取りをしてしまったから。
「さて」
「いやでして」
「折檻の為の部屋があってね。ここ、貴族の元別荘だから」
「それはよかったのでして、ルシアはこれで失礼するのでして」
「せっかくだから見ていきなさい」
「いや」
 嗚呼――怯えた顔も可愛いわね。

●断頭台への行進
「こ、これは何なのでして」
 ルシアの震えた声は、腕から伸びた鎖の音に掻き消えるほど弱々しく。
 その姿勢は端的に言えば、足を固定し、手を天井から伸びた鎖で引っ張ることで体をX字に固定する。折檻というより完全に拷問具のそれである。
「見ての通り、不埒な輩が逃げ出さないようにする仕組みね。ちなみにここは完全防音よ。よいしょ」
「こ、これを着れば痛くしないって言ったのは嘘なのでして」
 悲鳴に近い声を岩の棺のような部屋に響かせたルシアの服は、胸元にかぶせるだけの前垂れ。わずかに飛び上がれば中が見えてしまいそうなスカート。白く細く、折れてしまいそうな儚い肩や腕を露出するスリット。丸見えの肋骨からお腹。それらの肌色を強調するような白と黒のコントラストも鮮やかな。少女の肢体を否が応でも「女」として見せてしまう。
 ・・・・・・・
 例のシスター服
だった。これもイーリンに騙されて着せられた自称一般的シスター服(実際にアドラステイアでは効果が認められていたからタチが悪い)なので、冷静であればこの件を持ち出してチャラにしようという交渉もできただろうが、残念ながら眼の前の罪悪感と焦燥感と羞恥心と恐怖心に苛まれたルシアにそれは許されない。
 更に言えば、ルシアは先日さる依頼で身の毛もよだつ拷問をラサで受けてきたばかりなのだ。この空気感や雰囲気はルシアを怯えた子猫のように、小さく唸ることしかできなくしてしまう。
「もちろん、痛くなんてしないわ。私にそんな趣味はないし」
「だったらすぐやめてほしいのでして。みんなに言いつけるのでして」
 そうだ、名誉を重んじる騎兵隊の隊長、騎戦の勇者。そんな重責を担う人間がこんなことをしていたら、どうなるか
「知らない」
「へ」
「知らないって言ってるのよ。だって、貴方。自分の痴態が公的な記録として残ったのよ、私」
 怒り心頭ではない。極めて冷静な、足し算と引き算の結果、ルシアにお仕置きをする利のほうがまさると判断したのだ。
 ざばっと、氷がたっぷり詰まったバケツから鉄の棒を二本取り出したイーリンが目だけを光らせて笑った。
「それ、でなにを。ひゃひっ」
 キンキンに冷えた鉄棒が、ルシアの開かれた内股をなぞった。白い肌に結露のように垂れた水滴に、思わず膝を閉じようとするが、そうすれば腕がより引っ張られ、胸元の布地がめくれあがりそうになる。
「あ、あ、あ」
 ルシアは慌てて脚を開き、イーリンの持つ鉄棒を眺める。
「冷たくてスッキリするでしょ」
「こんなことをお弟子さんにもしてるのでして、ひぐっ」
 今度はへそに、柔らかいお腹に押し当てられる。無論痛くはない、ただ冷たいそれは、緊張と恐怖で敏感になったルシアにとって、脊髄まで貫くほどの冷気を伝えただけで。
「するわけないじゃない。その場で叱って終わり。ちょっと遊んであげることもあるけど、それくらいね」
「じゃあ、じゃあどうしてルシアにだけぇ」
 イーリンが背後に回る。ルシアはそれを首を一生懸命ひねって追おうとする。
「あひゃうっ」
 内股をまた鉄棒でなぞられる、もう一本が頬に当てられ、イーリンの唇から漏れる吐息の熱さとのギャップに、異様なまでに反応してしまう。
「貴方が好きだから、ってことにしておくとラクじゃないかしら」
「ば、バカにしないでくださ、ひいっ」
 耳元にふきかけられた吐息に、ルシアの声が上ずる。
「安心なさい、指一本触れたりしないから」
 安心なんてできない。目元に涙を浮かべたルシアは、もう首を振る余力さえなかった。

●舞踏会
 棒が触れる。冷たい。
 棒が触れる。冷たい。
 棒が触れる。冷たい。
 たったそれだけの、わかっている行為に。ルシアは、ルシアの体は耐えられない。
 際どい丈のスカートを振り乱すように、小さく丸い尻を突き上げ。
 バランスを崩しそうになり、必死に体を起こし、シスター服が乱れないようにつとめる。羞恥と恐怖がとろけあい、冷や汗と、熱い汗が止まらない。
 鉄棒の水滴では言い訳できないほどにルシアの体は濡れ、ふりふりと可愛らしく揺れていたスカートは肌に張り付き。幼いへそから鼠径部へと玉の汗が川のように合流し、その体を撫でる。イーリンの手に持つ鉄棒が触れてもいないのに、傍を通っただけで乱暴に体を鷲掴みにされたかのように悲鳴を上げてしまう。
「ほら、だらしないわよ」
「えうっ」
 張り付いた前髪から垂れた汗が目に入り、反射的に涙をこぼしながら、イーリンが顎を棒でくいっと上げてくる。ルシアが自覚していなくても、いつの間にか出ていた舌と唾液が棒につく。シスターが神の僕なら、今のルシアは翼を封じるために着けられたベルトも含めて、堕天しつつある神の犬といった風情だ。
 部屋は窓一つ無く、暑い。その熱気を出しているのは自分だと、汗一つかいていない水着姿のイーリンが、悪戯妖精のようにルシアにそう自覚させる。
 ああ、その目で見ないで。
 獲物を散々嬲ってから食べる獣のように、見ないで。
 鉄の棒がまたバケツで冷やされる。その間に手で体を撫でる素振りを見せないで。
 もうそれだけで。
「あ、あ、あ」
 イーリンの手の気配が背中に来れば、お尻を高くあげる。
「ひい、いっ」
 玉の汗を飛ばし、髪を振り乱し、楽器のように喉から声を上げる。
「あ、あぁあああ。あ。ああ、あっ」
 そして鉄棒が背筋を強弱をつけてなぞれば、太ももから膝に、ブーツの中まで入り込むほどの汗水を垂らし。全身に帯びた熱がルシアから、自分でもわかるほどの乳臭い体臭を撒き散らす。
 ルシアの足元には、汗と、涙と、唾液と、いろんな物が混ざったものが垂れ落ち続ける。
 もうルシアが何を言ってもイーリンは反応しない。精神と尊厳を、淡々と削り取る拷問官。あるいは彼女に対峙した敵が抱く恐怖は、こういう感覚なのかもしれない。
 足元に垂れた汁が、水たまりになるほどの長い時間、ルシアは弄ばれた。
「ルシア」
「ふあ、あ」
 もはや視界も定まらなければ、上げ続けられた腕の感覚もない。
「ぷぇあ」
 顎に鉄棒が触れた瞬間、またよだれが情けなく垂れた。いつものはつらつとした少女の姿はそこには無く。ただただ弄ばれ、大事な何かを奪われた後悔と疲労に苛まれ。下手人に媚びてしまえば楽になるのではという思考さえちらついてしまう、愛らしい犠牲者の姿だった。
「終わりにしましょう。満足したわ」
「ふえ、えっ」
 ゆっくりと拘束が解かれると、ルシアはそのまま膝から崩れ落ちた。大きな水音と共に、ブーツとスカートをまとめて濡らしてしまう。
 逃げる逃げないではなく。どうすればこのまま開放して貰えるのか。その思考は小さく縮こまっていた。
 上目遣いで、媚びるように。必死に胸を抱え、脚を閉じ、翼を閉じたルシアが、一生懸命息を整える。
「もう大丈夫よ。さ、お風呂は沸かしてあるから体を洗ってきなさいな。これに懲りたら、ああいう悪戯は程々にしてね」
 何を言っても笑ってばかり。必死の訴えを適当に流す。そんな態度から一変して、いつもの彼女に戻っている。
 ずるいとかひどいとか、思うこともできず。ルシアはおそるおそる、彼女から差し出された、自分と変わらない小さな手を取った。
 その手の冷たさに、ひっ、と声をあげてしまったときの彼女の笑顔は、まだ忘れられないけれど。

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●魔女の夜宴の夢
 ルシアはお風呂の後に逃げるように家に帰り。布団の中に潜り込んだ。
 悪戯はちゃんと加減しよう、なんて一瞬思ったけれど。それ以上に今は一日でも早く、一時間でも長く、あの出来事から距離を取ろうとしたからだ。
 当然お仕置きを受けた疲労とお風呂上がりということもあり、すぐに眠気は襲ってきた。雛鳥のように体を丸め、布団の中で自分の翼を使って体を包む。
 ああ良かった。これで。
 不意にイーリンの顔が頭をよぎった。正確には、そのときに感じた香り。
「え、あ」
 イーリンの用意した風呂に入った。石鹸も、シャンプーも使った。
 それは、イーリンと同じもので。
「あ、ああ。ああああ」
 イーリンは本当に全身に指一本触れていない。しかし、その匂いが全身についているのだ。呼吸が荒くなる。あの匂いが近づいてきた時、自分は何をされた。生ぬるい吐息、冷たい感触。後悔と肩や腕の痺れ。あの部屋に今も充満しているだろう自分の匂い。
「あ、ひ。ひい」
 愛用の対物狙撃銃を恐怖心を埋めるために、全身で絡みつくように抱きまくらにする。そうだ、自分にはこれがある。これがあれば大丈夫。たとえ今イーリンがやってきて、続きをしましょうと言ったとしても。
 ひんやり。
 放熱に優れた「鉄の塊」がルシアの全身に触れた。
「あ、あぁああぁああああああああ」
 脳裏を弾丸のように暴れまわる記憶、記憶、記憶。
 唇が、白い腕が、自分に向いた視線が、言葉が、浴びせられた全てが。
 全部狙っていたのだ。自分がこうなることまで見越して「覚えていられる範囲」でお仕置きをやめたのだ。
「もう、ゆるしてほしいのでして――」
 その夜、ルシアは生まれて初めて、全身で銃を必死で温めることになった。

<了>

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