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文化保存ギルド

【SS依頼】バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)より

●そうだ、鉄帝行こう
「バクルド、冒険よ」
 バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)がイーリン・ジョーンズ(p3p000854)が酒場で声をかけられたのはいつのことだったか。
「観光客ははどうした」
「あいつ忙しいって」
「じゃあ放浪か」
「目的はあるけどね」
「乗った」
 ジョッキを机に叩きつけて快諾したのは、多分夜だっただろう。酒場が開いているのなら、夜だ。

●黄泉路に餞別
 老人が泥水に顔を突っ込んでいた。その上を馬か、馬車か、あるいは通行人が通ったのだろう。道路に沿った形にならされていた。
「ひっでぇな」
 下着以外はがされたそれにバクルドは顔をしかめた。
「そうね」
 野党にでも襲われたのか。あるいは村で養えず捨てられたのか。
 二人が来たのは幻想国の北、鉄帝側の国境線を超えた先にある土地だった。幻想国に迷宮があるように、こちらには古代遺跡が無数に存在する。二人の目的は、その一つだった。
 見知らぬ老人の半裸の死体ではない。
「さっさと行こうぜ、日が暮れる」
「そうね、ちょっとだけ待って」
 イーリンが胸元で十字を切ると、手を組んで目を閉じた。
「今は亡き神々と、我が名において。汝の次の生に幸多かれ」
「そういや坊主だったか」
「元がつくけどね」
 祈る間に煙草に火を着けていたバクルドが首を傾げる。
「殺生が多いからか」
「いや、この世界に私の神が居ないから。だから今は亡きってつけてるのよ、聖句に」
「それだけだとしたら、ずいぶんと寛容な神様だな。殺しも酒も煙草もアリか」
「もちろん、それが知を信じる者として恥じない行為であれば」
 立ち上がったイーリンも煙草に火を着けて、死体を見下ろしながら煙を吐く。
 煙につられて空を見れば、大きな鳥が弧を描いている。
「鳥葬だな」
「誰かの糧になるだけマシね」
「じゃあ俺らも行くとしよう。どう見ても殺って奪って一服してるようにしか見えん」
 手向けにするわけにもいかず、二人は吸いながら歩き始めた。
 針葉樹の中に、ぽつんと禿げた山を目指して。

●駅舎に烏羽
「予定日数通り、天候問題なし、予報どおりね」
「つまらん、もう少し何かあっても良かっただろうに」
 二人は装備の一部をおろし、遺跡の前に簡素なテントを用意する。ベースキャンプを設営し、遺跡にアタックするありふれたプラン。テントの上に周囲からとってきた枝葉を乗せ、その中で生木を使って煙を立て、テントを燻す。獣避けと荷物を持っていかれないようにする工夫だ。
「そっちの時計は合わせた」
「10分前に。お前さんは心配性だな、秒刻みで何するつもりだ」
「私達の戦いは基本1分刻みじゃ遅すぎる。遺跡なら余計にね」
「へいへい、放浪ってよりは軍隊みてぇだ」
 テントの隠蔽も終え、装備を中に放り込む。ダンジョンアタックに必要な物はいかに装備を減らすかという思い切りの良さと判断力。バクルドも放浪の時に必要な「手」荷物は大体巾着一つにまとめている。
 イーリンが今回のダンジョンアタックで彼に声をかけた理由は、その引き算ができる人間だからだというのは伝えていない。
「うっし、それじゃあ行くとするか」
「気が早いわね。一日休んでからとか私に気を使わないの」
「朝方着くように調整しといてそれはないだろ。スモークサーモンみたいになりたいなら、そのテントで一日中酒と煙草をふかしてもいいがな」
 彼女の試験問答をバクルドは難なく超えてみせて入り口を見やる。扉は元々あったようだが、それは壊れて今はもう無い。周辺に土や苔があることから、稼働した形跡、侵入した形跡もない。おそらく山が禿げたのはこれを探索しようとした連中。おそらくあの老人が居た村か何かを労働力として雇って遺跡の探索と開発していたが北方戦線に巻き込まれるようになり、ずるずると山だけ拓いて、手つかずになったといったところか。
 大方、イーリンがその情報を掴んで金を払った上で調査させろといったところだろう。勇者様の資産(領地の銭)があれば容易いだろう。しかし貴族の遊びみたいで気に入らないとは言わなかった。おそらくそれを言うと落とし穴にでもケツを蹴られるから。
 二本目に火をつけるついでに一杯やるかと思ったところで、イーリンが準備を終えた。

●稀人に玩具
 ダンジョンアタックにおいて、コンビは重要な要素である。それは双方替えがきかないということを意味するからだ。
 イーリンは曲がり角一つ、路地一つを慎重に棒で叩き、手鏡で確認し、更に試しにフックのついたロープを投げ込んだりしてから歩を進める。1メートル前進するのに1分かかろうが気にしないタイプだ。
 対してバクルドは大雑把。暇さえあれば煙草をふかそうとするし、そのたびにイーリンに咎められる。しかし、視界の狭くなったイーリンにおいと声をかけ、時間だぞと休息の時間を伝え、またある時は。
「お前さん、右前」
「え」
 うっかりと、あるいは不運にも膝下に隠れたいかにもな出っ張りを見逃しそうな女の肩を叩くこともできる。
 プロの穴掘り屋ではなくても、放浪のプロの感覚はある。特に両者に共通するのは、貪欲とも取れる生存本能と、それを研ぎ澄ましながらも押さえ込んで駆け抜ける「イカレた」部分である。
(しかし)
 バクルドは口に出さないが、どうだ。眼の前の女は、勇者だ騎兵隊長だと大層な肩書を持っているが。四つん這いになって必死に棒を振り回し、ちょっと進むたびにメモを書く姿は、どう見てもお外遊びが好きな子供そのものである。
 さっきも遺跡のドア一つ見て、やれそれが木製だの、漆ではない何かが塗料として使われているだの。サンプルとして持ち帰るだのとそれはそれは騒いでいた。頭の上で跳ね回る毛束をひっつかんだら大人しくなるんじゃないかと思うほどに。
 やめておこう、やったら多分今度こそ落とし穴に蹴飛ばされるから。
 さっき、お可愛らしいこってと言って大いに睨まれた反省から、バクルドは煙草を咥えるだけにとどめておいた。

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●山頂に帰り道
「おい、おい。お前さん、馬の骨。これをどうにかしろ」
「すごい、すごい。これ中に鉄騎種のパーツが入っているんだわ。おそらく今までこの遺跡が食ってきた犠牲者を、炉の一つとして運用するマジックアイテムの類よ」
「そうか、わかった。わかったからなんとかしろ。俺は年なんだ、右腕がもげたら洒落にならんのだ」
 肘関節を強引に、持っていたナタで固定しながら、遺跡最奥にぽつんとあった宝箱に今まさに飲み込まれんとしているバクルドと、その中身を観察していたイーリンの怒鳴り声とハイトーンのやり取りが石造りのフロアに響く。
「年は取りたくないわね。でもごめんなさい、私もこの遺跡を調べた限り、鉄騎種が何らかの形で関わっていることしかわからなくて。だから貴方が居なければこのギミックもわからなかったでしょう」
「言い訳をしている場合か、俺は今そのアホ面で覗き込んでるお前さんの髪をひっつかんで一緒にミンチになっても良いんだぞ」
 バクルドがちらと見た宝箱の中は、無数の鉄騎種の残骸、腕やら、胸やらが一本の巨大な柱となって絡みつく、おぞましい代物だった。底も見えない暗さの中、更におぞましいのは人間種からすれば血肉でできた不気味なオブジェを、人の命の危機の真横で「まだ大丈夫でしょう」という態度を隠しもせずにスケッチする女がいることだ。
「よし」
「よしじゃねぇ。それは観察に満足したってよしだろう。俺はもう死ぬぞ」
「大丈夫よ、鉄騎種の腕くらいなら」
 そう言ってイーリンがバクルドを飲み込もうとする「腕達」を睨む。途端にその腕達が怯んだように、少しずつ解け始める。この女、どうやら自分の魔眼で効率よく分解するために観察をしていたらしい。できるという確信はなかっただろうが。
 背筋が釣りそうになっていたバクルドの体がわずかに浮き上がる。このまま引っこ抜けばなんとかなりそうだ。しかしまあ、中途半端な前傾姿勢が一番つらいんだよと憎まれ口を叩こうとした時だった。
「居たぞ」
「あいつらだ、逃がすな」
「確実に仕留めろ」
 ぞろぞろと、遺跡の中に入ってきた。山賊にしては少し身なりの良い連中。
「おい、お前さん」
「いや、あれは知らない」
 魔眼が一瞬それて、バクルドの上半身が飲み込まれそうになる。背骨が軋む音がする。
「わしらの里を荒らさせんぞ」
「この遺跡が未踏破でなくては困る」
 口々に吠えるその必死の形相は、とてもではないが引っこ抜くのを手伝ってくれそうにはなかった。
「あの穴掘り屋の年寄りの仲間が居たとは」
「見張りを立てて良かった」
 冷や汗をかきながら、バクルドは理解する。老人を殺したのはこの連中。身元がわからないように剥ぎ尽くし、遺跡を守っていた。理由は多分。
「ああ、遺跡調査の補助金」
 てっきり攻略が打ち切られたと思っていた遺跡。イーリンが接触したのはこの領地の管理人で、委細は聞いていなかったのだろう。
『この遺跡は未攻略である以上、攻略のために行動を起こしている限り村民に一部免税が出る』
ということを。
「バクルド」
「聞きたくない、なんとかしろ」
「何分耐えられる」
「生憎手が塞がっていて時計が見えんのだ」
 更に数センチ、飲み込まれたバクルドの懐から懐中時計が飛び出る。蓋がないタイプの時計は不幸にも、文字盤をばっちりと網膜に写し込んだ。
「16時10分12秒」
「今15秒になった」
「よかった、時計は狂ってないみたい」
「まったくだ。おい、2分は粘る。うお」
 バクルドが左腕で宝箱の角を抱き、必死に歯を食いしばる。
「ねぇ、貴方達。私達を無事に帰してくれたら少なくとも数年分の税金は払ってあげるんだけど」
「お前みたいなガキの言うことが信用できるか」
 自分の後頭部から聞こえてくるやり取りを耳に。多分、とバクルドは思う。
 つけてきたこいつらは散々見たのだろう。
 遺跡で這いつくばってきゃっきゃはしゃぐ小娘と。それのおもりをしてる年寄りを。
「さっさと、やれ」
「そうなるわよねぇ」
 この日初めて、二人のため息はシンクロした。
●回顧に一献
 戦闘が終わったのは、バクルドが股関節まで飲み込まれそうになったところだった。
 更に言うとイーリンが本気で使った魔眼と、引っこ抜く直前にお礼としてたっぷりバクルドが鉛玉を叩き込んだ結果、宝箱はその中身を含めて完全に沈黙した。
 その後何があったか正確を記すなら、沈黙したと思われた宝箱の中身が洪水のように触手となった機械の腕を伸ばし、暴れ狂い、気絶した村人連中を飲み込もうとしたから二人は完全に破壊せざるを得なかった。
 二人は遺跡の完全な制圧を待たずして、全力で逃げ出した。山の異様さに気づいた村人が更に集まるのは時間の問題だからだ。
 テントを放棄して掴める荷物だけ掴み、山の斜面を滑り降り、火も起こさずに一夜を過ごし。ほうほうの体で街道から一本それた道を走り抜け、街に戻ったのは、結局予定通りの日数が経過した頃だった。
「ひっでぇ旅だった」
 飲み干した酒樽の上に腰掛け、追加のエールを煽りながらバクルドは言った。
「私もそう思うわ」
 結局持ち出せたのは遺跡の構造をメモした自分の手記と、各種サンプルと鉄くずだけ。金額的には大赤字で、かつ大量の酒を奢るイーリンは深々とため息を付いた。
「特に帰り道、土砂降りで干し肉がだめになった時はやばかったな」
「まさかバックパックに穴が開くとは思ってなかったからね」
「それはお前さんが途中で谷に滑り落ちそうになったのが悪い」
「ナタを振り下ろされて縫い付けられた時は流石にびっくりしたわよ」
 イーリンが不機嫌そうなため息をつく旅にバクルドは笑う。
 そして酒を飲み、ふと思い出す。放浪にトルハを連れて行ったらあんな感じになるのだろうかと。
「なぁに、まだあるの」
 その表情を読み取ったイーリンがジト目で自分の分の酒を煽ると、とバクルドは頭を振る。
「ぶつくさ言いながら目玉光らせてチョコ食ってたお前さんのツラが思い出すだけで面白かっただけだ」
 ちょっと、とジョッキをテーブルに叩きつけたイーリンを見てゲラゲラと笑う。
 あの村が、遺跡がどうなろうか知ったこっちゃない。
 眼の前の小娘が喚き散らさせるに足るネタが増えただけで。
 いや、いい旅だった。とその言葉を酒とともにバクルドは飲み干した。

<了>

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