ギルドスレッド スレッドの一部のみを抽出して表示しています。 文化保存ギルド 【SS依頼】紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)より 【流星の少女】 イーリン・ジョーンズ (p3p000854) [2021-02-11 12:29:25] ●激撮――「はい、よーいスタート」 カメラが回ると、そこにはゆるくウェーブを描いた紫髪が特徴の、小柄な乙女がベッドに座っていた。「こういうの初めて。緊張する」 男の質問に、乙女は眉をハの字にしながら少し、と答えた。 カメラは乙女を、頭から足先まで舐めるように映していく。タイツ越しにも分かる、引き締まったふくらはぎ。スポーティーさも感じさせるが、それ以上に豊かな肉付きの太もも。ニットワンピースがゆるく締め付けていても分かるくびれた腰に、身長に不釣り合いな乳房。少し肩を丸め、白い指先を持て余すようにこすり合わせるその姿は、男にとっては据え膳極まれりといったところだ。「沢山の人に見られるけど大丈夫」 人目には慣れてるから、けどあまり恥ずかしいのは。乙女は紅い瞳を細めてはにかむ。この表情がどんな風に歪むのか、男は舌なめずりを抑えながらカメラを回し続ける。「それじゃあこれ持ってくれる」 色黒のマッチョのアシスタントに男は指示し。 乙女は己の腕よりも太い――XLサイズのコーラとポップコーンを手渡された。●激撮!クソ映画2本一気観イレギュラーズ拷問!『ヴァル・ベールデ共和国の野望Ⅰ』 20畳程度の部屋にぽつんと置かれたリラックスチェアの上に座った、イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は文化人である。聖書から始まり、演劇や文芸、様々な芸術文化を好み、この世界に来てからは活動写真という文化に大変な衝撃を受けた。それ以来練達などに行く度に、名作、駄作問わず視聴してきたが、今回はある女スポンサーからタダで映画を二本見られる代わりにその様子を撮影させてくれという、よくわからない依頼を報酬全額前払で受けてここに居る。 金髪の軽薄そうな男(カメラマン)と色黒のマッチョ(アシスタント)は丁寧にタイムテーブルまで用意してくれ、この後の予定にも差し支えない。いたれりつくせりと思いながら、リラックスしてスクリーンと向かい合った。(綺麗な風景。鳥のさえずり)(配給会社のロゴ)(複数人の足音) なるほどヴァール・ベールデ共和国が敵役で、そこから逃げる父娘の物語なのか。 そう思い、素直に見始めたイーリンはすぐにそれを裏切られることになる。情報の洪水である。まず知った顔が出てくるのもそうだが、役者が魔王だヤクザだでビジュアルも設定も統一感がなく、やる気のない顔をした者、尺稼ぎをするためと思わしき会話に加え、それを撮影する風景さえブレる映像。「どうして」 そんな言葉を飲み込むために、イーリンはポップコーンをひとつまみ口に放り込んだ。 映画は、1シーンずつに多大な労力をかけ、決まった尺の中にすべてを収めるために情報を飲み込めるように落とし込む一種の芸術であり、その失敗として駄作が生まれてしまうのではないかと。●ラウンド2『ヴァル・ベールデ共和国の野望Ⅱ』 この共和国はどこにいったの。 そういえばそんな設定もありましたね。 一本目を見終わったイーリンの質問に、男は答えた。このときのイーリンの顔は、まだ見ぬ映画に期待する乙女の顔ではなく。噛み終わって味のなくなったガムを吐き捨てた事を、暇つぶしの道具が一つ消えてしまったと後悔するかのようなどす黒い感情がないまぜになっていた。 ポップコーン食べます。と聞いてくる男の言葉に、イーリンはため息をつき首を振る。感想を聞かれたらただ一言。 何かやったの、この映画。 その返事に満足したのか男は満面の笑みで頷くと、準備ができ次第二本目始めます、と言った。 二本目になれば最早慣れたものだった。肘掛けに頬杖を付き、油分を気にせず鷲掴みにしたポップコーンを貪り、音を立てコーラを啜る。脚を組み、飛んできたサメを鼻で笑い。地味にトラウマを刺激されるような映像に一瞬真顔になり、サメなのか共和国なのか帝国なのか魔法少女なのか巫女なのか、チェーンソー、銃撃、サメの討伐。 長々尺を使って倒したと思ったサメの二体目が出てきた時、イーリンは鼻で笑った。 男はその侮蔑と怠惰が混ざった表情に興奮を覚えた。 アシスタントはこれそのものが一種の映画のようであると頷いた。 そんな男たちの視線を気にもせず、イーリンは出血だけはよくできた演出だなとあら探し(ルビ:眠気覚まし)に徹していた。その眠気たるや、この映画がR15要素になったお色気シーンを見てもなお、飲み尽くしたコーラの氷を噛んで食べるか悩む方に重点を置くほどだった。●アフタートーク どうでした。 時間の大切さがわかったわ。 観る前の自分に言いたい言葉があれば。 報酬の全額前払いの責任は重いわよ。 他に何か言いたいことがあれば。 このコーラとポップコーンは気に入ったからメーカーを教えて。 始まる前の乙女は今や観覧椅子の上で女帝のように脚を組み、長いもみあげを指先で弄ぶ姿に男は興奮していた。 クソ映画は、たった4時間で乙女を女帝に変える。 男とアシスタントは丁寧に感謝を述べてイーリンを見送ると、撮影したテープを編集する作業にかかる。この二人の雇い主――紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)に送るために。 →詳細検索 キーワード キャラクターID 検索する キャラクターを選択してください。 « first ‹ prev 1 next › last » 戻る
「はい、よーいスタート」
カメラが回ると、そこにはゆるくウェーブを描いた紫髪が特徴の、小柄な乙女がベッドに座っていた。
「こういうの初めて。緊張する」
男の質問に、乙女は眉をハの字にしながら少し、と答えた。
カメラは乙女を、頭から足先まで舐めるように映していく。タイツ越しにも分かる、引き締まったふくらはぎ。スポーティーさも感じさせるが、それ以上に豊かな肉付きの太もも。ニットワンピースがゆるく締め付けていても分かるくびれた腰に、身長に不釣り合いな乳房。少し肩を丸め、白い指先を持て余すようにこすり合わせるその姿は、男にとっては据え膳極まれりといったところだ。
「沢山の人に見られるけど大丈夫」
人目には慣れてるから、けどあまり恥ずかしいのは。乙女は紅い瞳を細めてはにかむ。この表情がどんな風に歪むのか、男は舌なめずりを抑えながらカメラを回し続ける。
「それじゃあこれ持ってくれる」
色黒のマッチョのアシスタントに男は指示し。
乙女は己の腕よりも太い――XLサイズのコーラとポップコーンを手渡された。
●激撮!クソ映画2本一気観イレギュラーズ拷問!『ヴァル・ベールデ共和国の野望Ⅰ』
20畳程度の部屋にぽつんと置かれたリラックスチェアの上に座った、イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は文化人である。聖書から始まり、演劇や文芸、様々な芸術文化を好み、この世界に来てからは活動写真という文化に大変な衝撃を受けた。それ以来練達などに行く度に、名作、駄作問わず視聴してきたが、今回はある女スポンサーからタダで映画を二本見られる代わりにその様子を撮影させてくれという、よくわからない依頼を報酬全額前払で受けてここに居る。
金髪の軽薄そうな男(カメラマン)と色黒のマッチョ(アシスタント)は丁寧にタイムテーブルまで用意してくれ、この後の予定にも差し支えない。いたれりつくせりと思いながら、リラックスしてスクリーンと向かい合った。
(綺麗な風景。鳥のさえずり)
(配給会社のロゴ)
(複数人の足音)
なるほどヴァール・ベールデ共和国が敵役で、そこから逃げる父娘の物語なのか。
そう思い、素直に見始めたイーリンはすぐにそれを裏切られることになる。情報の洪水である。まず知った顔が出てくるのもそうだが、役者が魔王だヤクザだでビジュアルも設定も統一感がなく、やる気のない顔をした者、尺稼ぎをするためと思わしき会話に加え、それを撮影する風景さえブレる映像。
「どうして」
そんな言葉を飲み込むために、イーリンはポップコーンをひとつまみ口に放り込んだ。
映画は、1シーンずつに多大な労力をかけ、決まった尺の中にすべてを収めるために情報を飲み込めるように落とし込む一種の芸術であり、その失敗として駄作が生まれてしまうのではないかと。
●ラウンド2『ヴァル・ベールデ共和国の野望Ⅱ』
この共和国はどこにいったの。
そういえばそんな設定もありましたね。
一本目を見終わったイーリンの質問に、男は答えた。このときのイーリンの顔は、まだ見ぬ映画に期待する乙女の顔ではなく。噛み終わって味のなくなったガムを吐き捨てた事を、暇つぶしの道具が一つ消えてしまったと後悔するかのようなどす黒い感情がないまぜになっていた。
ポップコーン食べます。と聞いてくる男の言葉に、イーリンはため息をつき首を振る。感想を聞かれたらただ一言。
何かやったの、この映画。
その返事に満足したのか男は満面の笑みで頷くと、準備ができ次第二本目始めます、と言った。
二本目になれば最早慣れたものだった。肘掛けに頬杖を付き、油分を気にせず鷲掴みにしたポップコーンを貪り、音を立てコーラを啜る。脚を組み、飛んできたサメを鼻で笑い。地味にトラウマを刺激されるような映像に一瞬真顔になり、サメなのか共和国なのか帝国なのか魔法少女なのか巫女なのか、チェーンソー、銃撃、サメの討伐。
長々尺を使って倒したと思ったサメの二体目が出てきた時、イーリンは鼻で笑った。
男はその侮蔑と怠惰が混ざった表情に興奮を覚えた。
アシスタントはこれそのものが一種の映画のようであると頷いた。
そんな男たちの視線を気にもせず、イーリンは出血だけはよくできた演出だなとあら探し(ルビ:眠気覚まし)に徹していた。その眠気たるや、この映画がR15要素になったお色気シーンを見てもなお、飲み尽くしたコーラの氷を噛んで食べるか悩む方に重点を置くほどだった。
●アフタートーク
どうでした。
時間の大切さがわかったわ。
観る前の自分に言いたい言葉があれば。
報酬の全額前払いの責任は重いわよ。
他に何か言いたいことがあれば。
このコーラとポップコーンは気に入ったからメーカーを教えて。
始まる前の乙女は今や観覧椅子の上で女帝のように脚を組み、長いもみあげを指先で弄ぶ姿に男は興奮していた。
クソ映画は、たった4時間で乙女を女帝に変える。
男とアシスタントは丁寧に感謝を述べてイーリンを見送ると、撮影したテープを編集する作業にかかる。この二人の雇い主――紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)に送るために。