通りに面した扉が開けっ放しのその事務所は、最近出入りする人間が変わったようだ。
以前は確かサマラ商会、という所が使っていたはず。
けれど看板は下ろされているし、この辺りでは見かけない人がいる様子。
一体誰なんだろう――そんなご近所の視線を受けているのは、まだ若い商会長。
最近遠縁の商会から、この場所を譲り受けた人物だ。
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世話になった幻想のギルドからも完全に離れ、かと言って実家に戻るわけでもなく。
どこまでやれるか、何ができるか。
物は試しと、かつて召喚された時のようにまずはやってみることにしたのだ。

とは言え、まだ本当に動き始めたばかり。
この場所だって、何とか座って話せる場所を確保したばかり。
掃除にもちょっと飽きてきたし、丁度いいから一息入れるとしようか。

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＞ルナ君
これはお手厳しい！
その通り、結局は何事も、個人の資質と社会の圧力の狭間で決まる事。だが、職人ギルドの後ろ盾なくして何かを作れぬ者が一人前の職人と呼べぬように、商会の後ろ盾なくして何かを仕入れて売れぬ者も一人前の商人ではありえない……そうは思わんかね？　社会の仕組みそのものが丸っきり変化して、『商人』という言葉の定義自体が変遷でもすれば話は別だろうが。
人が、職人になるか、商人になるか、あるいはまだ名すら与えられておらん全く新たな職業人になるか。それはその通り、わしや誰かが勝手にこうと決めつけるものではない。しかし、一度「商人になる」と決めた以上は、望むと望まざるとに関わらず、商人としての生き方を出来ねば商人としての成功など叶わぬ夢だろう。……これは商人に限った話ではなかろうがな。

これは現役を退いた老いぼれの勘でしかないが……ルナ君はまだ、自身が何者であるべきかを見つけられておらんのではないかね？
なに、責めておるつもりはないのだ。何者にもならずに生き抜けるというのは、諦めて何者かになって生きねばならぬよりは余程運なり実力なりに恵まれておる証拠だ。