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旅一座【Leuchten】

【PPP一周年記念SS】旅一座公演『夜空の星に願いを』

 幻想の王都メフ・メフィートのとある広場にテントがたった。
 テントといえば、サーカス『シルク・ド・マントゥール』。それは幻想を混乱に陥れた魔種の象徴。
 付近の住民は警戒し、訝しがった。
 テントから出てきたのは、ひ弱な感じのするやせ細った背の高い男に、目つきの悪い獣種、蝶の羽根をつけた麗人、ポニーテールの美女、狼の毛皮を被った獣種、水色の髪の少女だ。統一感はなく、個性豊かな面々だ。
 街の力自慢だろうか、強面の男がひ弱そうな男に目をつけて、怒鳴りつける。
「オレ達はサーカスなんてウンザリなんだよ!魔種なんて、よそ行けよ!」
「……俺達、魔種じゃない……。……特異運命座標……。……みんなにサーカスは本当は楽しいし、安全だって伝えたくて、……サーカスをするんだ……。……無料だから、遊びに来て欲しい……」
 ひ弱なそうな男、旅一座の団長、ヨタカ・アストラルノヴァは臆することなく、チラシを一枚、その男に渡した。大の男が気迫に押されて、チラシを受け取った。
「……ひ、暇だったら、見に行ってやるよ……」
 男が態度を急変させたのは気迫に負けただけじゃない。特異運命座標だと分かったからだ。シルク・ド・マントゥールの狂気の呼び声を止め、魔種を駆逐した、あの特異運命座標。 王や貴族の覚えもめでたい、あの特異運命座標だからだ。
 特異運命座標がサーカスをするという噂は噂に噂を呼び、旅一座のテントには行列が並んだ。

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「皆さん! 満員ですよ! 満員! 緊張しますですよ!」
公演時間直前、テント裏では、水色の髪の少女、クァレ・シアナミドがワチャワチャした様子で、そっと覗いた客席の様子を報告する。
「うう……緊張するな……。……胃が痛い……」
ヨタカは呻く。ヨタカにとって、大男に迫られるより、公演の方がよっぽど緊張するのだ。
「団長、チューニング忘れるなよォ」
ぶっきらぼうに目つきの悪い獣人、律・月がヨタカに忠告する。まるで興味なさそうにしているが、尻尾が揺れていて親しい人には公演を楽しみにしてるのがよく分かる。だからといって、律のその様子を揶揄う無粋な団員はいない。
「まぁまぁ、皆さん、お茶でも飲んで緊張をほぐしましょう」
お茶を配るのは、ポニーテールの美女、津久見・弥恵だ。彼女は場慣れしてるのか随分と落ち着いているようにみえる。だが、躓いて最後の自分のお茶を頭から被ってしまう。彼女は根っからの不幸体質なのだ。舞台衣装でなかったのは不幸中の幸いだろう。
「おや、津久見様、大丈夫ですか? もしよろしければ、こちらを」
空のシルクハットからタオルを取り出し、弥恵に手渡すのは蝶の羽をつけた男装の麗人、夜乃幻だ。
「夜乃様、ありがとうございます。ちょっと着替えてきますね」
弥恵はタオルで髪を拭きながら、着替え室へ向かった。
「って、そこは危ねぇ!」
ゴム弾と銃を床に座り込んで整備していた狼の毛皮を被った獣人、ジェイク・太刀川が短く叫ぶ。
 すってーんという擬音がまさに相応しい勢いで弥恵がすっ転んだ。その床には無数の油で磨いたばかりのゴム弾が置いてあったのだ。
「いっったぁ……」
「悪い……。だが、俺に近づくなといっといた筈だ」
「それは緊張してかと!!!」
「もう、お二人ともそろそろ開演致しますよ」
「……緊張感があるんだか、ねぇんだかなァ……」
弥恵とジェイクのやりとりを幻がとりなし、律は呆れている。
「ここはヨタカ団長から気合の一言を!」
「……みんな輪になろう……」
クァレが声をかけ、ヨタカは動いた。そのヨタカの声に呼応して、皆で肩を寄せ合い円陣を組んだ。
「……今日が俺達の初演……。……みんな、仲良く、元気に、思いっきりやろう……」
「「「「「「オー! 」」」」」」」
 旅一座の皆は初演を成功させる為、一致団結することを心に誓った。

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