PandoraPartyProject

ギルドスレッド

月夜二吼エル

【擬似シナリオ】The Revenge of an Illusionist

 ――その空間は、普段のシグが『投影』した空間と比べて、異様な雰囲気を醸し出していた。
 言うなれば、普段のシグが纏う、どこか人をからかったような――そんな雰囲気がなく、ただ、ドロッとした怨念が渦巻く、そんな空間だった。

 ただ壁だけがあるその空間。四方の壁の血痕が、そこで或いは行われたかもしれない行為を指し示す。
 このような空間を根城とする者が、「まともな」者である筈もまた無く。来訪者たちに背を向けた状態で、スーツの男は立っていた。
 その目の前には、縛られたまま床に座る少女。これもまた背中を来訪者たちに向けており、その表情は伺い知れない。

 声が、響く。
「……死ぬ気になりましたか?」
 投げかけられる問い。どうやら来訪者たちは、相当この者に恨まれているらしい。
 口調こそ平坦だが、そこに含まれる殺意までは隠しきれていない。
「それとも…娘を犠牲にしてまでも、生きるつもりでしょうかね? ――そちらの方が、貴方らしいと思いますが」
 ――彼は、微動だにしない。ただ言葉を紡ぐのみ。
 だが、一歩、来訪者たちが踏み出すと同時に、目の前の地面に斬撃痕が刻まれる。――まるで、何か見えない剣でも飛んできたかのように。

 直後。静止して動かない男の後ろから、今回の「仕掛け人」――シグの姿が現れる。
「――これは私が、はるか昔に見聞した、『とある御伽噺』――悲しい復讐者のお話、その最終局面である」
 男の方に目をやる。
「全てを失い、復讐のみにその身を捧げた男は、『魔剣』と契約し、『人生』を代償に『幻術』の知識を魔剣から手に入れた。――その力を使い、彼は仇に――最大の復讐を試みたのさ」
 その姿は剣に変わり、そしてどこかへと消える。これも、『幻術』の一環だろうか。
「君たちの勝利条件は、男の『敵』の役として、人質の娘を救い出し、この場から脱出する事。男自体の生死は問わない。ああ、ちなみに私はこの事件の顛末を全て『知っている』。けれど――」
 声は、虚空から響く。それは先ほどの男の声と同質。
「――ネタばらしをしてしまえば、それはそれで『面白くない』。だが、この事件の背景を知らなければ、ここのギミックを解くのは困難である可能性がある」
 声が何処から来ているかは不明だ。或いは、この空間自体に、スピーカーでも仕掛けられているのか。
「直接核心に迫る質問――例えば、『男が仕掛けたギミックの正体』等は答えられないが。それ以外の質問には、可能な限り私が答えよう」
 そして、思い出したかのように――
「ああ、幻想投影のルールは相変わらずである。但し、質問フェイズには起動できない――つまり、起動可能なのは『戦闘開始』から3ターンだ」
 その声は、新たな『知識』への期待に満ちていて。
「――さて、楽しませてくれたまえ」


補足説明:
・参加者には各自、600文字のプレイングを書いて頂き、それをシグがシナリオ(リプレイ)として構築しなおす、と言うお遊びです。
・とりあえずのプレイング締め切りは6/15とします。プレイングはシグにメッセージとして送ってください。
・質問はこのスレッドで。シグは事件の顛末を知っている為、答え自体は知っていますが、直接「核心」の部分に繋がる物については「話したら面白くない」として回答を拒否する可能性もあります。ご了承ください。

・特殊システム【幻想投影】(メモリア・プロジェクション)については、以下の通り。
シグがこの部屋に施した仕掛けで、彼が過去の「記憶の再現」に使っているシステム。
使用者が『旅人』であれば、その過去の力の一端を再現する事が可能。
逆に使用者がこの世界の種族であれば、己の信念等に基づいた『能力』を行使可能。
但しシステム自体の出力に限度がある為、余りに大規模だったり超越的な能力(世界を滅ぼす等)は再現不可能となる。
(要はキャラクター設定に基づいた任意の能力を、例えスキルとして習得してなくても使用可能になります。
解禁はゲーム開始より3ターン後。持続時間も、最初の使用から3ターンとなります)

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よぉ、どっかに居るンだろ?シグ。
ふむ…今回は復讐鬼の話か。面白い、実に面白いじゃあないか。
(空間に足を踏み入れた瞬間、肌を撫でる悪寒にも似た怨讐の念。嘗て、己が纏っていたものと似た性質の“それ”に女は笑みを深めて。何処かへと消えた魔剣の探求者ーー今回の仕掛人たる彼へ向けて言葉を紡ぐ。声色は吸血鬼らしく甘い吐息に似た、然れど一種の獰猛さも孕むだろうか。)


さて、俺も参加希望。
後、他愛無い要素だろうが…質問を構わないか?

・「男」と「男の『敵』」、「人質の娘」の関係を可能なら知りたい。
例えば…「人質の娘」が男達と赤の他人ならば、抱く心情も変わってくると思った。
・男が代償に支払った『人生』ーーこれは、人間生活の事か?それとも寿命的な時間の事か?(俺なんかも人間辞めて吸血鬼になっちまったンでこの質問で言う前者になると思われる。)

無論、回答出来る範囲&時間がある時で構わねぇぞ。
参加感謝である。
――その二つは何れも直接的なギミックとは関係ない故、回答しよう。

>「男」と「男の『敵』」、「人質の娘」の関係
・「人質の娘」は、「男の『敵』」の娘である。
つまり「男の『敵』」は自分の娘を取り戻しに来た、と言う訳である。
・「男の『敵』」は昔、ある事情から「男」に、同様の仕打ちを行った。
要はその娘を惨殺した…と言う事であるな。

・男が代償に支払った『人生』
後者である。彼は幻術を用いる為の、大量の知識と引き換えに、この一日が終われば死ぬ。
…人の身に耐えられる『知識』には、限度がある故にな。
遅くなっちまってすまん!回答感謝だ。
ふむ、成る程…参考にさせて貰いながらプレイングを練るぜ。
(復讐を果たしても死ぬ、悲しい結末の物語だなァって思った。そう言うシチュ好きだけど!)

あ、悪いなァ。他にも聞いておきたい事が。
プレイング送る時に、持っていくスキルも記載した方が良いか?
今選択して無い所持スキルを持って行きたい場合はどうしようかなってなったンだ。依頼によってころころ変えちまうんで。
む、基本使用する物は持っているとして考慮する。ある程度自由でいいぞ?
人質の縛られている子は、スーツの男の事をどう思っているのかしら?
彼女は「男」を知らない筈だ。そもそも彼女が誕生する前に、因縁は結ばれたのだから。
ただ、何の理由もなく捕縛された事で、恐怖は覚えているやも知れんな。
『幻術』って具体的に何ー?どういうことが出来るのー?
私が今使っている「幻想投影」の元になった術だな。
当時はまだそれ程の力を持たず、精々「立体映像を作り出す」「物を透明化させる」程度。

だがそれは精巧で、通常の目視では決して見抜けず、立体映像は動かせばバレるが、透明化する物は動かしても問題ない、と言う特徴を持っていたな。
尚全体シナリオが存在する事を踏まえ、締め切りを延長する。
全ての全体シナリオが出発してから6日後、と言う事としよう。
ええっと、少し考えたのだけれど…、
今回はおばさんはおやすみさせて貰おうかなぁって。
せっかくシグちゃんが用意してくれたのに、ごめんなさいね。
む、レストの方は了解した。
まぁ全体依頼後の猶予期間を設けたとは言え、少し急な話でもあるからな。
…またの機会の参加を待っている。

或いは、皆の都合が合わない際は再延長か、だな。
俺は土日でプレイングを仕上げる予定なンで、〆切日には間に合うと思われる。

そうだなァ…レスト以外も厳しめ、若しくはシグの予定も大変なら再延期でも構わないと思うぞ。
ちょっと急用で土日が丸潰れしたんで間に合わなそー。
来週末(6/30)まで再延期する。
レストも必要ならば再参入可能である。
シグには気ぃ使わせちまってわりぃな…有り難う。
再延期で了解した。

俺の方は昨日プレイングをお手紙してあるが、問題点があれば遠慮無く指摘して貰えると幸いだ。
とりあえずクロジンデ、レイチェルよりプレイングはもらった為、時間がある際に作成に入る。ゆっくり待っててくれたまえ。
多大にお待たせした。
リプレイが完成した為、これから順次掲載する。
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「――憎悪は連鎖するモンだが…断ち切るのは難しい。
中々に興味深い『お伽噺』だ、シグ」
 レイチェルが語りかけたのは、目の前の幻影ではなく、この場のどこかに居る『仕掛け人』たる魔剣。
 無論、返事は無い。こう言ったゲームを行う時、彼は観察者に徹する傾向がある。

(「この復讐者の人はだいぶ奇妙だと思うんだよー
『人生』を代償にしてまで求めたのが『幻術』の知識ってー」)
 一方、クロジンデは、この状況に僅かながらの違和感を感じていた。
 彼女も『復讐』に関わるローレットの依頼は、幾つかこなした事がある。その際の『復讐者』の行動、心情に照らし合わせた場合。――目の前の男の行動は、どうも奇妙だ。

(「それに、胸糞案件だったらわざわざ位相剣の人が再現なんてしないと思うしねー」)
 だが、この場での唯一の誤算は、シグの性格を読み間違えた事。
 ――自由を重んじ、現実と事実を尊ぶ。
 『研究者』たるシグの、自分の仲間以外に対する無情さは、この時のクロジンデにはまだ知る由はなかった。

 ――参加した彼女ら二人に共通していたのは、『視覚』に関連する能力を所有していた事。
「さーて、見切らせてもらうぜ?」
 金の魔眼に光を湛え、レイチェルは目に、全ての感覚を集中させる。
 その眼に捉えられたのは、僅かな揺らぎ。
 例え『仕掛け』を透明化させようと、それが『そこに存在する』と言う事実を消すことは出来ない。
 空気の流れ。それに乗って漂う僅かな灰。光に照らされ、光を反射するそれが、不自然に『無い』箇所を二つ、レイチェルは発見していた。
(「なるほど、さっきの斬撃はあっちから、って寸法か」)

 一方、「くっ…」と悩むように顔を隠し、指の間からちらりと覗かせたクロジンデの眼が捉えたのは、温度。
 人の体温。若しも『無い物』をあるように見せ、本当の娘を別の箇所に隠していたとしたら――
 若しも『男』の目的が、幻影の娘を殺させるように仕向ける事だとしたら――
 そう考えて、彼女は部屋を見回す。
(「…へー」)
 だが、予想に反して、捉えられた人体の体温は二つ。
 男の位置と、少女の位置。ポーズも大まかではあるが、間違ってはいない。
 厳密精密な確認は彼女の温度視覚の苦手とする部分故にこれ以上の情報は得られなかったが、少なくともこの場に於ける全ての『参加者』の位置は把握できた。
 だが――
(「うーん、何かがおかしい?」)
 何かしらの違和感を感じる。その正体はまだ分からないが、何かが…『違う』。
 ――両者の『確認』が終わった直後、わざとらしくクロジンデは、『男』を挑発する。
「どーせその娘は殺せないんでしょー? 自分が人殺しになる覚悟はないんよねー」
「良いだろう。やってやろうではないか」
 その言葉の直後、壁の一角に、鮮血の牙が突き刺さる。
 ブレ、消えていく幻術の下から現れたのは、ブレードを射出する形の特殊な『シューター』。これで透明にした不可視の刃を打ち出し、見えない斬撃を作り出していたのだろう。
「残念だが、トリックはもうバレてんだよ!」
 片方のギミックを破壊したレイチェルが、飛来するもう片方の刃を、滑り込むようにして『身を挺して』受け止める。腹部の痛みに眉をしかめながらも、身を翻し。右手に過剰な再生のエネルギーを押し込めて、『男』に一撃を叩き込もうと――
「っ――!!」
 その瞬間、彼女の魔眼が、違和感の正体を看破する。

 ――己が身に攻撃が迫ろうとも、男が微動だにせず、目を閉じていたのだ。

 この事実と、先ほど温度視覚を用いたクロジンデが異常を探知できなかった――つまり、目の前の『男』に体温の反応があった事を組み合わせれば――男の『仕掛け』の正体は、自明である。
「っ…!」
 急激な軌道修正によって、レイチェルの掌打は『男』の肩を掠める。その姿が揺らぐ。――幻像か。
 僅かにその中の『実体』にレイチェルの指が触れたのか。再生のエネルギーによる、肉が爆ぜる。飛び散る血肉によって幻像は掻き消え、その正体を現す。

 ――そこに居たのは、彼らが救う目標とした、少女だったのである。
「ちぃ…そう言う事かよ、シグッ!!」
 レイチェルの叫びは、この場を作り出した魔剣に向けた物。だがその声を切っ掛けとして、一気に情勢は動く。
「逃がさん…!」
 『男』は己が偽装だった、少女としての幻像を解除。残る1つの射出機から射出されたブレードを盾に、レイチェルに迫る。
 それを敢えて、防御せずに――レイチェルは体でその一撃を受け止めた。
「…俺を恨むのは構わねぇ。だが…娘に手出しはさせん」
 飛び散った血が、一気に硬化し、傷を塞ぐ。それどころか、その血を鳩首するかのように、傷が癒えていくのだ。
「――化けるだけが、吸血鬼の力じゃねぇんだよ…!」
 手にまとった魔力が鉄槌と化し、男を殴り飛ばす。
「ぐっ…手加減したつもりかっ!?」
 『男』の問いも尤も。レイチェルが使用したのは、非殺傷の術式。
「俺みたいに…罪を重ねる必要はねぇよ。恨むなら俺を恨め」
 己もまた、『復讐』の化身。故にレイチェルは、『男』に対しては、同情すら感じていた。
 が、男の顔には、黒い笑みが。
「距離を離したな…!」
 そう。レイチェルに気づかれないよう投影を使い、まるで守るべき少女は彼女の直ぐ後ろに居たように見せかけながら、少しずつ。少しずつ、男は威嚇術を使用したレイチェルを少女から引き離したのだ。
「これで、終わりだァ!!」
 放たれる不可視のブレード。少女の方へと、一直線へと向かう――!!
「はい頭下げてー」
 軽い口調と共に、少女の頭が思いっきり下へと押し下げられる。
 不可視のブレードが斬り飛ばしたのは、金色の毛先――クロジンデの髪先。
 ギリギリの所で危機を回避したクロジンデは、しかし止まる事はしない。
「走為上あるのみだよー」
 そのまま少女を担ぎ上げ、全速力でその場から脱出する。
「待て――っ!」
 さらに射出されるブレード。しかし、不可視の筈のそれを、クロジンデは次々と左右にステップを踏み、回避していく。
「まさか…!」
「一清二楚、なんだよねー」
 その右目に湛える白銀の光が、不可視の刃を映し出す。
(「ほう。クロジンデの『幻想投影』はそう言った形か…『らしい』な」)
 隠れていたシグがその様な感想を抱いたとは露知らず、クロジンデは高速で『男』との距離を離していく。
 さらに追おうとした『男』の前に、レイチェルが立ちはだかる。
「これ以上は…やめとけ」
 振るわれる威嚇の為の拳は、然し幻影を切り裂き、レイチェルの腹部には、透明化した男の刃が突き立てられる。だが、そこまで。即座に血は固まり、傷がふさがり…そして元通りになる。

 ――ここに大勢は決した。
 幾ら幻影を弄じても、それは『虚』であり『実』とはならず、故に攻撃面では常人と何ら変わらない『男』には、レイチェルの自動回復による防御を突破する事は出来ない。
 近接戦闘中にはその『眼』の精度も低下する故、男の幻影回避をレイチェルも突破は出来なかったが…もしも『男』が消耗を待つと言うのならば――何れにしろ、レイチェルが倒れる頃には、クロジンデは完全に脱出に成功している筈である。
「いい加減諦めろ。これ以上やっても――」
 だが、『男』の次の行動は…レイチェルの想定を超えていた。

「すまんな…イリス…! 仇は…取れなかった…!!」
 『男』が振り向いたかと思えば。
 ――突如射出されたブレードが、その胸を貫いていた。
「ッ…!!」
 手を伸ばすレイチェル。しかし、すぐに引っ込める。
 ――己には彼にかけるべき言葉は、最早ない。故に――
 ――幻像が掻き消える。『男』も『少女』も、その場から消える。
 シグが幻想投影を解除したからだろう。
「お疲れである。君たちの勝利だ」
「いやー、中々面白い体験だったよー」
 ぐっと背伸びするクロジンデ。

「…なぁシグ。――アンタの時の結末も、あんな感じだったのか?」
「いや、…『男』はその目的を達成した。…当時の『男の敵』は、君たちのような識別手段を保持していなかったからね」
 シグの答えに、複雑そうな顔をするレイチェル。

 ――かくして、魔剣の過去の一幕を元にした謀略の宴は、その幕を下ろした。
 魔剣の男が次に何を仕掛けてくるかは、また別のお話――
シグちゃん、お話完成おつかれさま~。
(ぱちぱち小さな拍手で完成をお祝い)
おつありである。
途中で様々な事態が発生し、ついにはこのように遅れてしまった訳であるが、楽しんでいただけたなら幸いである。
…また時間がある際に何か企画するとしよう。

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