ギルドスレッド
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美少女道場
女の子が瞬きすると目の前には一面の麦畑が広がっていました。
収穫前のたわわに実った麦が穏やかな風に揺れている中で、一匹の老いた野鼠が手紙を読んでいます。
鼠は小さな前足で手紙をひしと掴んで鼻先を紙にうずめるようにして紙面を凝視し、やがてほろりと涙を流しました。
艶の無い灰色の毛並みの上を青い雫が落ちていきます。
「鼠さん、一体どうしたの?」
「都会に住む私の友人が亡くなったようなのだ……」
涙をこすりながら鼠は答えたえました。
「鼻持ちならない所があったが、都会に住んでいるだけあって色んなことを知っていて話していて飽きないヤツだった」
「まぁ、仲のいいお友達だったのね」
「どうだろう。手紙はよく交わしたが、実は会ったのは数回だけでね」
深いしわが刻まれた前足の指を器用に動かして鼠は会った回数を数えている様でした。
そうしている間にもぽろぽろと涙がこぼれてくるので女の子は目元にハンカチを押し当ててやらねばなりませんでした。
「楽しかったよ。都会でしか出来ない遊びもいっぱいやったし、ご馳走も食べたしね。
でも、都会には猫という恐ろしい化け物がいてね、楽しいけどちっとも心が休まらないのさ。
アイツにとっては田舎は刺激が無さ過ぎるらしいが、私はここ以外ではとても暮らしてはいけない……」
「だけど、とても大事なお友達だったのね?」
「一度都会に遊びに行ってから会う事は無かったけど、手紙が途切れなかったという事はそうなのだろう」
すんすんと鼻を鳴らしながら鼠は頷きました。
「ああ、だがどうしよう。アイツの葬式に出てやれない」
「どうして?」
「さっきも言っただろう。都会には猫がいるんだよ。鼠を食ってやろうと虎視眈々と待ち構えているに違いない。
若い頃はどうにか逃げ切れたが、今の私では逃げ切るのも難しいだろう」
行きたいなら行けばいいのに、と女の子は思いましたが流石に命がかかっているとなればそう簡単な話ではありません。
鼠の涙をふいてやりながら、女の子はうーんと唸りました。
「葬式に出る以外の方法で悼むのは駄目なの?」
「猫に怯えなくても済むが、そいつは何とも不義理じゃないか。
アイツは生前、私を何度も喜ばせてくれたが、私はちっともアイツを喜ばせられるようなモノを持っていないんだ。
取れたての瑞々しい大根も、轢きたての小麦の香りも私は素晴らしいものだと思っているけれど、アイツにとってはそうではなかったようだからね」
「あら、でもずっと文通してらっしゃったのよね。
つまらないと思っている人といつまでも文通を続けるなんてあるのかしら。
ねぇ、鼠のおじいさん。都会のお友達にお手紙を書いて差し上げましょうよ。
私はその方をよく知らないけれど、きっと喜ばれると思うわ」
鼠はしばらく考え込んでいましたが、やがて泣くのを止めました。
「わかった、私からの最後の手紙を書いてみよう」
そして、ペンと便箋を取りによたよたと小屋へと入っていきます。
女の子がふと気が付くと天中に差し掛かった太陽に照らされて麦畑が黄金に輝いています。
この時初めて「黄」という色に女の子は気づいたのです。
収穫前のたわわに実った麦が穏やかな風に揺れている中で、一匹の老いた野鼠が手紙を読んでいます。
鼠は小さな前足で手紙をひしと掴んで鼻先を紙にうずめるようにして紙面を凝視し、やがてほろりと涙を流しました。
艶の無い灰色の毛並みの上を青い雫が落ちていきます。
「鼠さん、一体どうしたの?」
「都会に住む私の友人が亡くなったようなのだ……」
涙をこすりながら鼠は答えたえました。
「鼻持ちならない所があったが、都会に住んでいるだけあって色んなことを知っていて話していて飽きないヤツだった」
「まぁ、仲のいいお友達だったのね」
「どうだろう。手紙はよく交わしたが、実は会ったのは数回だけでね」
深いしわが刻まれた前足の指を器用に動かして鼠は会った回数を数えている様でした。
そうしている間にもぽろぽろと涙がこぼれてくるので女の子は目元にハンカチを押し当ててやらねばなりませんでした。
「楽しかったよ。都会でしか出来ない遊びもいっぱいやったし、ご馳走も食べたしね。
でも、都会には猫という恐ろしい化け物がいてね、楽しいけどちっとも心が休まらないのさ。
アイツにとっては田舎は刺激が無さ過ぎるらしいが、私はここ以外ではとても暮らしてはいけない……」
「だけど、とても大事なお友達だったのね?」
「一度都会に遊びに行ってから会う事は無かったけど、手紙が途切れなかったという事はそうなのだろう」
すんすんと鼻を鳴らしながら鼠は頷きました。
「ああ、だがどうしよう。アイツの葬式に出てやれない」
「どうして?」
「さっきも言っただろう。都会には猫がいるんだよ。鼠を食ってやろうと虎視眈々と待ち構えているに違いない。
若い頃はどうにか逃げ切れたが、今の私では逃げ切るのも難しいだろう」
行きたいなら行けばいいのに、と女の子は思いましたが流石に命がかかっているとなればそう簡単な話ではありません。
鼠の涙をふいてやりながら、女の子はうーんと唸りました。
「葬式に出る以外の方法で悼むのは駄目なの?」
「猫に怯えなくても済むが、そいつは何とも不義理じゃないか。
アイツは生前、私を何度も喜ばせてくれたが、私はちっともアイツを喜ばせられるようなモノを持っていないんだ。
取れたての瑞々しい大根も、轢きたての小麦の香りも私は素晴らしいものだと思っているけれど、アイツにとってはそうではなかったようだからね」
「あら、でもずっと文通してらっしゃったのよね。
つまらないと思っている人といつまでも文通を続けるなんてあるのかしら。
ねぇ、鼠のおじいさん。都会のお友達にお手紙を書いて差し上げましょうよ。
私はその方をよく知らないけれど、きっと喜ばれると思うわ」
鼠はしばらく考え込んでいましたが、やがて泣くのを止めました。
「わかった、私からの最後の手紙を書いてみよう」
そして、ペンと便箋を取りによたよたと小屋へと入っていきます。
女の子がふと気が付くと天中に差し掛かった太陽に照らされて麦畑が黄金に輝いています。
この時初めて「黄」という色に女の子は気づいたのです。
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(美少年と美少女の間で交わされ、紡がれる童話。
無数の手紙と原稿用紙の束。その記録)