ギルドスレッド
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美少女道場
気が付くと女の子は冬の庭に居ました。
凍て空は白く澄んで軒先には素敵な薔薇が蔦になって絡みつき、ナイチンゲールが恋の歌を歌っています。
「まぁ、かわいい薔薇の蕾」
女の子が思わず薔薇に手を伸ばすとちくりと棘が指先を刺して、血が白と黒の物語の世界にぽたりと垂れてゆきました。
「素敵な赤色ね。あたしもこれくらい素晴らしい赤の薔薇を作って見せるわ。なにせあたしもとうとう運命の恋をしたのだもの」
ナイチンゲールがいつの間にか歌を止めて女の子の方を見ていました。
女の子にとっては血もインクも同じ色なのだけれど、ナイチンゲールにとっては素敵な赤色に見えるようです。
「あたしの運命の方が恋焦がれる方に送る赤い薔薇をこしらえてあげるの。
ねぇ、聞いていたでしょう、あたしの恋の歌を。恋ってとっても辛くて痛いもの、だけどとても甘美なものなのよ」
「確かにそうかもしれないわね。でも、あなたって失恋をするために薔薇をこしらえるの?」
「ええ、もちろん」
うっとりとした声音でナイチンゲールは囀ります。
「あたしが恋をしている事が大事なの。
今まであたしは他人の恋ばかり歌ってきたわ……でも今はあたしの恋を歌っている。
ああ、ああ、そのためならあたしは失恋したって構わない。この命を捧げる事だって厭わない」
「怖い事を言わないで、死んでしまったらそれでおしまいじゃない」
「いいえ、あたしはこれから死ぬのよ。
あの方の求める赤い薔薇を咲かせるために命を捧げるの」
女の子はぞっとしてナイチンゲールを見つめましたが、ナイチンゲールはそんなことちっとも気にしていません。
「あたしが命がけで咲かせた赤い薔薇をもってあたしの運命の方は愛しい人に愛を告げるのよ。
とても残酷だわ。だけど、これがあたしの叶えたい恋なの」
「でも、それじゃ貴女が幸せにならないわ」
「まぁ、じゃあどんなことが幸せだっていうの?」
「ええっと、お腹いっぱいご飯を食べたり、暖かい布団で眠る事?」
しどろもろどろに答える女の子をナイチンゲールは軽やかな声で笑いました。
「あなたって昨日までのあたしとおなじね。
本当に自分がどうしたいのかも分からない、毎日他人の歌を歌っているだけのあたしとおんなじ」
みてなさい、とナイチンゲールは小さな足で跳ねてひと際大きな薔薇の棘に立ちました。
そうして女の子が、あっと声を出す間もなく体を突き刺してしまったのです。
「さぁきいて、これがあたしの最後の歌よ」
ナイチンゲールの体から目を刺すような刺激的な色合いがしたたり落ちてきます。
今この時、血の色を通して女の子は初めて赤い色を知ったのです。
悲鳴のような甲高い歌声が冬の庭に響き渡ります。それは末期の絶唱です。
長く、体中の血が抜けてカラカラになるまでナイチンゲールは歌いきりました。
冬の庭には瑞々しい赤い薔薇と、みすぼらしい鳥の死体が転がっていました。
「どうしてあんな物語の世界に連れて行ったの?」
図書館へと戻ってきた女の子は魔法使いに尋ねました。
「ナイチンゲールが一番大事なものをよく知っていたからさ」
わからないわ。と女の子は首を振りました。
恋の成就でもなく、ただ恋したままである為に死を選んだナイチンゲールの気持ちが理解できませんでした。
「一番大事なものって、あんなに可愛そうな死に方をするようなものではないと思うわ」
「じゃあ君の一番大事なものってなんだい?」
そう問われると女の子は黙り込んでしまいます。
本を読むのは好きでも、それが一番大事なものかと言われるとそうではないような気がしたのです。
「わからない。でも、私はもっと違うものを大事にしたいわ」
「例えば?」
「少なくとも……孤独ではないこと。それから自己満足の為に死んでしまわないような事」
「彼女が孤独かどうかは本人でなければ分からない事だがね」
魔法使いは本のページをめくり始めました。
女の子を新しい物語の世界にいざなう為です。
「じゃあ、君。今度は別の物語に連れて行ってあげよう。そこでなら君の願い事も見つかるかもしれない」
凍て空は白く澄んで軒先には素敵な薔薇が蔦になって絡みつき、ナイチンゲールが恋の歌を歌っています。
「まぁ、かわいい薔薇の蕾」
女の子が思わず薔薇に手を伸ばすとちくりと棘が指先を刺して、血が白と黒の物語の世界にぽたりと垂れてゆきました。
「素敵な赤色ね。あたしもこれくらい素晴らしい赤の薔薇を作って見せるわ。なにせあたしもとうとう運命の恋をしたのだもの」
ナイチンゲールがいつの間にか歌を止めて女の子の方を見ていました。
女の子にとっては血もインクも同じ色なのだけれど、ナイチンゲールにとっては素敵な赤色に見えるようです。
「あたしの運命の方が恋焦がれる方に送る赤い薔薇をこしらえてあげるの。
ねぇ、聞いていたでしょう、あたしの恋の歌を。恋ってとっても辛くて痛いもの、だけどとても甘美なものなのよ」
「確かにそうかもしれないわね。でも、あなたって失恋をするために薔薇をこしらえるの?」
「ええ、もちろん」
うっとりとした声音でナイチンゲールは囀ります。
「あたしが恋をしている事が大事なの。
今まであたしは他人の恋ばかり歌ってきたわ……でも今はあたしの恋を歌っている。
ああ、ああ、そのためならあたしは失恋したって構わない。この命を捧げる事だって厭わない」
「怖い事を言わないで、死んでしまったらそれでおしまいじゃない」
「いいえ、あたしはこれから死ぬのよ。
あの方の求める赤い薔薇を咲かせるために命を捧げるの」
女の子はぞっとしてナイチンゲールを見つめましたが、ナイチンゲールはそんなことちっとも気にしていません。
「あたしが命がけで咲かせた赤い薔薇をもってあたしの運命の方は愛しい人に愛を告げるのよ。
とても残酷だわ。だけど、これがあたしの叶えたい恋なの」
「でも、それじゃ貴女が幸せにならないわ」
「まぁ、じゃあどんなことが幸せだっていうの?」
「ええっと、お腹いっぱいご飯を食べたり、暖かい布団で眠る事?」
しどろもろどろに答える女の子をナイチンゲールは軽やかな声で笑いました。
「あなたって昨日までのあたしとおなじね。
本当に自分がどうしたいのかも分からない、毎日他人の歌を歌っているだけのあたしとおんなじ」
みてなさい、とナイチンゲールは小さな足で跳ねてひと際大きな薔薇の棘に立ちました。
そうして女の子が、あっと声を出す間もなく体を突き刺してしまったのです。
「さぁきいて、これがあたしの最後の歌よ」
ナイチンゲールの体から目を刺すような刺激的な色合いがしたたり落ちてきます。
今この時、血の色を通して女の子は初めて赤い色を知ったのです。
悲鳴のような甲高い歌声が冬の庭に響き渡ります。それは末期の絶唱です。
長く、体中の血が抜けてカラカラになるまでナイチンゲールは歌いきりました。
冬の庭には瑞々しい赤い薔薇と、みすぼらしい鳥の死体が転がっていました。
「どうしてあんな物語の世界に連れて行ったの?」
図書館へと戻ってきた女の子は魔法使いに尋ねました。
「ナイチンゲールが一番大事なものをよく知っていたからさ」
わからないわ。と女の子は首を振りました。
恋の成就でもなく、ただ恋したままである為に死を選んだナイチンゲールの気持ちが理解できませんでした。
「一番大事なものって、あんなに可愛そうな死に方をするようなものではないと思うわ」
「じゃあ君の一番大事なものってなんだい?」
そう問われると女の子は黙り込んでしまいます。
本を読むのは好きでも、それが一番大事なものかと言われるとそうではないような気がしたのです。
「わからない。でも、私はもっと違うものを大事にしたいわ」
「例えば?」
「少なくとも……孤独ではないこと。それから自己満足の為に死んでしまわないような事」
「彼女が孤独かどうかは本人でなければ分からない事だがね」
魔法使いは本のページをめくり始めました。
女の子を新しい物語の世界にいざなう為です。
「じゃあ、君。今度は別の物語に連れて行ってあげよう。そこでなら君の願い事も見つかるかもしれない」
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(美少年と美少女の間で交わされ、紡がれる童話。
無数の手紙と原稿用紙の束。その記録)