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美少女道場
前略、貴方へ
昔々、ある所に一人の女の子がいました。
美しいかんばせに色褪せた瞳の子で、瞳の色と同じように色褪せた世界を見る子でした。その子は色が分からなかったのです。
艶やかな桃色の唇をほめそやされても、鏡に映る自分は灰を塗ったような単調な色合いでちっとも美しいと思いませんでした。
色鮮やかな花束を渡されても、一体どの花が情熱的で、どの花が儚げな色合いをしているかなんて理解できませんでした。
でも、分からないと皆に告げてしまうと悲しんでしまうのは分かっていました。
だからどんな時も女の子は「お気遣いをありがとう」と微笑むのです。
そうすると、唇の色を褒めた彼も、花束をくれた紳士も喜んでくれました。
そして周りの人は「あんなに思われて、なんて幸せな子だろう」とささやき合うのです。
女の子は自分を不幸せとも思いませんでしたが、幸せとも思ってはいませんでした。
色褪せた世界で女の子を慰めるものは物語でした。
白い紙面と黒いインクだけは女の子が皆と共有できる世界でしたし……なにより言葉がありました。
現実では分からない雨露の輝きも、煌々と照らす暖炉の光も言葉を通じてなら理解できたのです。
ある時、女の子は図書館で本を見つけました。
埃だらけで(女の子には分かりませんでしたが)日焼けして褪せた表紙の本です。
タイトルも書かれていない本を興味深く思った女の子が本を開くとどうした事でしょう、本の中から魔法使いが現れたのです。
「本を開けてくれてありがとう。お礼に君の願い事を叶えてあげよう」
「まぁ、どうしてかしら。私、本を開けただけだわ」
「それが一番重要な事だからさ。誰かに手に取ってページをめくってもらうのが本の幸せだよ」
「そうかしら。だけど、急に願い事を叶えると言われても分からないわ」
女の子は願い事を持ったことがありませんでした。
世界は白と黒とそれを繋ぐ灰色ばかりで美しいものは何一つありません。
美しいものは全て世界の外、誰かが描き出す文字の内側にありました。だけれど、女の子はそれが触れられないものだと知っていました。
だからちっとも願った事が無かったのです。
「いけないよ。それは全くいけないことだ。
人の幸せは願いを叶える事だ。君は幸せにはなりたくないのかい?」
「皆は私の事、幸せな女の子だっていうわ」
「君が感じることが重要なんだよ。君にとって価値のある事はなんだい?」
「本を読むことは好きだわ。でもこれって価値のある事かしら」
「十分だとも。さぁ手を取って。物語の世界に連れて行ってあげよう」
にっこり微笑む魔法使いの手に女の子は手を重ねると二人は開いた本の中に吸い込まれて行きました。
昔々、ある所に一人の女の子がいました。
美しいかんばせに色褪せた瞳の子で、瞳の色と同じように色褪せた世界を見る子でした。その子は色が分からなかったのです。
艶やかな桃色の唇をほめそやされても、鏡に映る自分は灰を塗ったような単調な色合いでちっとも美しいと思いませんでした。
色鮮やかな花束を渡されても、一体どの花が情熱的で、どの花が儚げな色合いをしているかなんて理解できませんでした。
でも、分からないと皆に告げてしまうと悲しんでしまうのは分かっていました。
だからどんな時も女の子は「お気遣いをありがとう」と微笑むのです。
そうすると、唇の色を褒めた彼も、花束をくれた紳士も喜んでくれました。
そして周りの人は「あんなに思われて、なんて幸せな子だろう」とささやき合うのです。
女の子は自分を不幸せとも思いませんでしたが、幸せとも思ってはいませんでした。
色褪せた世界で女の子を慰めるものは物語でした。
白い紙面と黒いインクだけは女の子が皆と共有できる世界でしたし……なにより言葉がありました。
現実では分からない雨露の輝きも、煌々と照らす暖炉の光も言葉を通じてなら理解できたのです。
ある時、女の子は図書館で本を見つけました。
埃だらけで(女の子には分かりませんでしたが)日焼けして褪せた表紙の本です。
タイトルも書かれていない本を興味深く思った女の子が本を開くとどうした事でしょう、本の中から魔法使いが現れたのです。
「本を開けてくれてありがとう。お礼に君の願い事を叶えてあげよう」
「まぁ、どうしてかしら。私、本を開けただけだわ」
「それが一番重要な事だからさ。誰かに手に取ってページをめくってもらうのが本の幸せだよ」
「そうかしら。だけど、急に願い事を叶えると言われても分からないわ」
女の子は願い事を持ったことがありませんでした。
世界は白と黒とそれを繋ぐ灰色ばかりで美しいものは何一つありません。
美しいものは全て世界の外、誰かが描き出す文字の内側にありました。だけれど、女の子はそれが触れられないものだと知っていました。
だからちっとも願った事が無かったのです。
「いけないよ。それは全くいけないことだ。
人の幸せは願いを叶える事だ。君は幸せにはなりたくないのかい?」
「皆は私の事、幸せな女の子だっていうわ」
「君が感じることが重要なんだよ。君にとって価値のある事はなんだい?」
「本を読むことは好きだわ。でもこれって価値のある事かしら」
「十分だとも。さぁ手を取って。物語の世界に連れて行ってあげよう」
にっこり微笑む魔法使いの手に女の子は手を重ねると二人は開いた本の中に吸い込まれて行きました。
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(美少年と美少女の間で交わされ、紡がれる童話。
無数の手紙と原稿用紙の束。その記録)