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美少女道場

RP『ポンペイ最後の日』鉄帝公演

 ――かくして、悪しき魔種アーベイシーズは神の怒り……ベスビオ火山の噴火により滅び去りました。
 狂乱に飲まれたポンペイの街も今は静かに死の灰が降り積もるばかりです。
 その様子を小舟の上で奴隷のニディアだけが感じていました。
 盲目ながらも彼女の素晴らしい感覚はチリチリと肌を焼く熱気と灰の匂い……或いは滅びの匂いを正確に感じ取っていたのです。
 恐ろしくなってニディアは主人のグローカスを探す様に手を彷徨わせましたが、すぐに諦めて船の縁を掴みました。
 きっとグローカスの横にはアイオンが居るに違いありません。
 この船が陸に着いたら、グローカスが国元に帰ったら、二人は結婚してしまうでしょう。心を狂わせる薬さえも二人の愛を引き離す事は出来なかったのですから。
 ニディアは残る力を振り絞って立ち上がり、磯の香りが濃い方に踏み出しました。

「さようなら、グローカス様」

 水音に船を漕いでいた船頭が振り返りましたが、ニディアの体はとても小さくやせ細っていたので魚の跳ねた音だろうとかたずけてしまいました。
 小舟は陸地を目指してゆらゆらと進んでいきます。
 やがて水平線から日が昇り、疲れ果てて眠るグローカスとアイオンを照らし出しました。

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(視界が急に鮮やかな色合いを帯びたように感じた。

 今まで明確に見えていたと思っていた世界のなんと曖昧だったことか。鈍い色彩は今や目を刺す様に艶やかで、はっきりとしたコントラストをもってそこにある。
 鮮烈な輪郭が指先や小さな肩、そしてとりわけ顔の周りを縁取って、そこから発せられる信号をより明確に感じ取る事さえ出来た)

(微笑った)

(理解った)

(怒っていても困惑していても、経験則でしか推測の叶わない精度の低い磨り硝子越しの世界が割れて、色鮮やかで暴力的な虚妄の世界が雪崩れ込んで来たのだ。)

(そんな事、理解してしまうなんて間違いだ。と異形としての証が一欠片、末期の叫びを残して消えた)

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