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シキアの樹

落葉の夕暮れ、笑ふ影法師

或る秋の日。陽の落ち始めた黄昏の頃。
ゆるりと沈んでいく陽が、シキアの影を長く伸ばして。
風を受ける枝葉の影が、まるで笑うかのように揺れていた。

――かぁかぁ、親烏が鳴いている。そろそろお家に帰ろうね。
――かぁかぁ、かわいい我が子と連れ立って。枝葉を揺らし飛び立った。


一方で、親から逸れた土の雛。
日中と変わらず其処に在り、水晶の目玉を緩慢に動かして。
……帰る場所を、探していた。





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それとなく、のんびりと。

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……!
そう、それだ。
その唄、ユウメイなのか?

(記憶にある唄。子どもが歌っていた、その一節と一致した。
 どこかぼんやりとしていた瞳が、好奇心の光を灯して。
 ふわりと、藤の髪が風に揺れるさまを見つめていた)
 
帰る家は……ない、よ。
休む場所を借りることは、あるけれど。

――”も”ってことは。貴方も、なのか?

(背にしたシキアの幹に、添うようにしてしゃがみ込む。
 小首を傾げた貴方を見上げて、ぽつぽつと言葉を口にした)
(思考は奇しくも、その時の貴方と似ていて。
 ……不思議な雰囲気を纏ったヒト。藤の貴方も、己と同じ旅人なのだろうか?) 

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