PandoraPartyProject

ギルドスレッド

造花の館

【17.恵愛】

あれは、そう……思い返せばもう何十年も前の話になる。
使える魔術と言えば燭光と火花程度が精一杯で、口先も未熟だったころだ。
これは、そういう未熟さと経験の足りなさから失敗した話になる。

その頃、ボクは詐欺の仕事をしていた。いわゆる恋愛詐欺か?
やることといえば簡単で、作為で運命を装って獲物に自分を印象付け、都合のいい言葉で相手の心を惹き、油断をしている振りをして相手の欲望を煽り……それが十分な段階に達したところで、それに見合った代金を相手から徴収する。
たったそれだけでいい。

昔は何でこんなことが上手くいくのかと、不思議に思ったものだ。
真実はどうあれ、人間というのは基本的に信じたいものしか信じないようにできている。恋というのも同様で、人間は人間に恋をするのではなく、人間に抱いた幻想に対し恋をしているのだろう。その幻想を手元に置くためにいくら積んでも惜しくないと考えるんだ…愚かしいよな。

……………話がそれたな。

でまぁ、その日は仕事で…相手、にちょっとした招待を受けた。
静かな2人きりの部屋でちょっとした食事と、他愛もないお喋りと…まあそういう時間を過ごした。ただそういう時間を過ごすだけだと思っていたが…どうやら相手としてはそうではなかったらしい。

「ところで"耳長の別荘に呼ばれる"という言葉を知っているかい?」
そいつはボクに対しそう問いかけた。
古い言葉であったが教養のひとつとしてボクは知っていた。
"耳長"とは幻想種…ひいては田舎者を指す言葉だ。意味は2つ。
『田舎者が都会の人間を誘って、満足できるようにもてなせれば一人前』という古い風習を指示する言葉。
もうひとつは『素性の知れない田舎者の誘われることは誘拐を意味する』という余所者に対する警戒を意味する言葉。

「教科書通りのつまらない回答だね」
だがその回答に対し、そいつはそう返した。
まるでボクを馬鹿にするように、目の前でグラスを空ける様が癪に障ったが、ボクは文句を言いたい思いをぐっとこらえた。
………ああ、いや…待てよ……文句を言ったんだったか?
なにしろあいつは…………いや、そこは重要じゃないからいい。
ともかくボクは極めて慇懃に問い返してやったんだ。「じゃあ、お前ならどう答えるんだ?」とな。

「なら教えてあげよう。そもそもその言葉には3つ目の意味がある。
 なぜこの言葉がわざわざ"耳長"という幻想種を指示しているか考えて見ろ。」
「……わからない。売り飛ばせば金になるということか?」
「惜しいな。それは幻想種の特徴をとらえてはいるが、ずれている。それとも敢えてずらしているのか?」

そいつはそう言いながら笑うと、テーブルを跨いでボクに…………



………まあ、ここは伏せよう。あえて詳しくは言う必要もないだろ。
要するに「美しい人間に二人きりで一晩を過ごして、何事もなく終わるはずないだろう?」という意味があの言葉にはあったということだ。


●ロケーション
 海洋にある静かな隠れ宿に宿泊中。
 ここは周囲に人気がなく、部屋も一部屋しかないので静かに過ごせる。

●『真実』
https://rev1.reversion.jp/guild/818/thread/14878

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抵抗はした。だが体が思うように動かなくてな。
大方こっちの飲み物に薬でも仕込んであったんだろう。

ともかく、その日がボクの人生の中で最も屈辱的な日となった。
この一件から得られた教訓は、軽率に"耳長"なんぞの家に呼ばれれば泣きを見るという……

(海に沈みかけた夕日を背景に、バルコニーに二人の少年少女がいた。
 小さなテーブルを囲み、カード束を前に昔話に興じているようであった。

 ……無機的な美しさを持つ少年は、不愉快さと眠気を帯びたような、奇妙な様相を示していた。同時にむせ返るような酒気をその身に纏っている。その原因は、ゴブレットになみなみ注がれた安酒と、その傍らに転がる無数のボトルのせいであろうか?
 この少年が半日もかけずに、ここにあるボトルを全て空にしたと言えば、いったい誰が信じるだろうか?)


(少年は今、手元にあるカードを呆然と見つめていた。)
………さすがに、盛りすぎたか。

(『寄り添いあう2人』を描いた1枚のカードが、色褪せて曇っていく。
 少年は苦虫をかみつぶしたように零すと、そのカードをテーブルへと放り投げ、またゴブレットを空にした。)
(春と言えど海風は冷たい。
 少女の白い指先は震えながらテーブルの上にあった。
 藍色の星の瞳は貴方の方へと見開いてある。
 きっと、そのカードが色褪せなければ、勝利を告げる輝きを得ていただろう程に)

(宿に入る前にはたはたと揺れる尻尾が見えそうな程に舞い上がっていた様子はもうない。
 ただ表情を硬くして耐えていた。
 ここに来てからの不機嫌そうな様子、そしてカードを前に語った【真実】、それらが繋ぎ合わせられないほど相手に無関心でも、鈍感でもなくなってしまっていた。

 それでも、)

(それでも、別に気にするような事ではない「はず」だ。
 それは過去の事で、今テーブルを挟んで向かい合っているのは自分なのだから。
 何も不満に思う事もない「はず」だ。
 貴方が今、この場所を紹介して導いたのは自分なのだから)

……酒で舌が鈍る事もあるんだな。

(硬直から努めて慎重に平常へと調子を戻しつつ告げた)

それ以前に……恵愛の意味とはズレているような気がしたが。

(恵愛と口にする時、僅かに唇が震えた。その意味を厭う様に)
………そこのところはよくわからんが。
これなら勝てると思ったんだよ、クソがよ。
そう。

つまりお前は無意味に真実に近い屈辱的な体験とやらを開示した訳か。
(もう何本目かもわからないボトルを傾けて…ゴブレットを満たす前に空になった。
 忌々しそうにボトルを指先で弾くと、重い音を立ててベランダの床板にぶつかった…。)

……その通りだ、といえば納得するのか?ん?
それともそれらしい理由を並べてやろうか?今度はカードはないがな。
それらしい理由がなくったってその通りなんだろ。

(瀟洒なベランダにゴミが溜まっていく様子に眉を寄せた。
 後で忘れて踏んずけて頭をぶつけて死ねばいいんだ)

なんでそんな……

(恋愛詐欺やってるような奴なのに、そんなに無防備なんだと言いかけて止めた。
 同じくらい泥酔した無防備さを晒されているのに気づいたから、それで)

…………しらないことしてるの。ズルい。
あ”?

(……と、ドスを聞かせてから数秒。
 一度舌打ちをする。)

………………テメエほど単純に仕上がってねえから、何でもやる必要があんだよ。
それともなにか?
お前のいうズルいってのはどれの誰の何に対してだ?
答えなくていいぞ。知りたくない。
(きっと、きっと、目の前の少年もどきがずっと孤独で誰ともかかわった事が無いような人生だったらこんな思いしなくてよかったんだろう。
 天を仰げば、夕暮れの赤は宵の青に駆逐されて沈む様に夜が現れている)

もしも……
もしもお前が言った内容を、今から吾がやったとしたらお前は恵愛で語ったりしないだろうな。
は……

(呼吸を止めなければならなかった。
 今呼吸を続ければ汗が吹き出し、喉仏が滑稽な笛の音になってしまいそうだった。
 言葉に潜む解釈に背筋を冷たくなぞられ、首元を握りしめられたように呼吸を止める。)

(苦しい。腹立たしい。こんな言葉がここまで自分を追い詰めていることが信じられない。
 だがそのことを悟られてはならない。こんなことで恐怖を覚えるなど。)


(どうにか指先を懐の水煙草に伸ばして、思考を落ち着けるだけの間を求める。
 乾いた唇で吸引口を咥え、火花の魔術で着火を……着火を…

 集中力が持たない。指先が震える。酸素が上手く回らない。)
(……通常の何倍も時間をかけて漸く火を灯す。一気に吸引した煙に両胸を叩かれ咽る。)
……お、前が、突然、馬鹿らしいことを……ヒュゥ…いうから、だ……。
そう。
でも簡単な事だ。そうだろう。吾はお前よりもずっと力が強いんだ。薬なんて必要ない。

(物憂げに頬杖をついた。テーブルに乗った自分の杯は随分前から空だ。
 空いた指先が詰まらなさそうに縁を撫でる)

でもしたくはないし。
こんな所で勝つ為なんかに聞きたくはなかったよ。
(けほと咳を吐いて、声の震えを取り除いた。取り除こうとする。
 目の前の童女の形をした生き物が、そのまま気紛れを起こさないことを祈りかけて、そんな自分にまた苛立ちを覚えてそれを止めさせた。)

……スゥ…ヒュゥ……どこでしゃべろうと変わんねえだろうがよ。こんなもん。
……そっか。

(たった二音に、そう思うんだ。とでも言いたげな棘があった。
 苛立たし気な沈黙が落ちる。
 何もかも嫌になってしまっていた。
 テーブル放り投げて家に帰れるのならきっとそうしていたけど、船はもう明日にならないと出ないし)

(胸の中に渦巻く重りを吐き出そうと息をして、空を見上げた)

お前、以前吾を長耳に例えたな。
別に三番目の意味だってしたってかまわないけれど。大したことじゃないし。全然平気だけど。
語る事が無くなったら、次はお前の好きな作家の話でもして、その次は季節の事でも話をして、話題がもう全然なくなっちゃったら、その時は……その時はまた考えよう。
延々と横にでもいるつもりか。迷惑な話だ。







































……「あれ」は、こっちじゃ死人がそうなるものだと言われている。
立派なやつや貴いやつほど強く大きく輝くんだとよ。

(深い青に沈む空に、ひとつめの星が瞬いた)
それならお前はきっと暗い星になるだろう。
探すのに苦労しそうだな。
見える奴にだけ見えてりゃいいんだよ。その方が得なこともある。
もっとも、死後のことなど気にして生きちゃいねえが。

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