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造花の館

閉架式書庫

セレマの図書室は造花の館のなかでも大きな割合を占めている。
入ってすぐ目につくのは、一面に並んだ自動スタックランナーの列だ。
練達の技術によって自動化された図書室は、常に書物にとって最適な温度と湿度を保ち続けており、微かに香るミントの香りで満たされている。

セレマ自身が使うためのテーブルもソファもあるので、ここで快適に本を読むこともできるだろう。


●主要な蔵書
・混沌各地で集めた物語
・異世界の戯曲や脚本多数
・歴史書ならびに民俗学書
・魔術関連の一般的学術書
・詩集、画集、楽譜などの芸能に関する本

●やってはいけないこと
・天秤を載せた丸テーブル席に座ってはならない
・意識がハッキリしないならここにいてはならない
・奥にある開かずの扉の先にあるものを気にしてはならない
・知らない声が聞こえても返事をしてはならない

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ある時、この国の王子様が舞踏会を開くことになりました。
国中の人が集まって、歌と音楽、踊りに食事を楽しむ、素敵なパーティーです。

アドレーヌは扉の向こうから声を掛けます。
「アドリーヌ、今夜は楽しい舞踏会よ。素敵な王子様にも会えるわ。
 姉さんがついているから一緒に行きましょう。怖がらないで、きっと楽しい夜になるわ」
けれどアドリーヌは悲しそうに言うのです
「ごめんね姉さん、わたし、舞踏会には行きたくないわ。
 誰にも大きな鼻を見られたくないし、一緒にいれば姉さんまで笑われてしまうわ。
 姉さんだけで舞踏会にいってきてちょうだい」
アドレーヌは何度も、何度も、アドリーヌを誘いましたが、部屋から出てこようとしません。
仕方がないので、アドレーヌは妹をおいて舞踏会に出掛けてしまいました。

(挿絵:泣きじゃくるアドリーヌは、白亜の城へと駆け出す一台の馬車を見届けている。)


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家族が出て行ってから、悲しくなったアドリーヌは泣き出してしまいました。
本当はアドリーヌも一緒に行きたかったのですが、大きな鼻を笑われることが怖かったのです。
「ほんとうは、わたしも舞踏会に行きたいわ。
 でも、こんなに大きな鼻がついた醜い顔では、きっと誰も相手をしてくれないわ。
 ああ、誰か、誰か、わたしの顔を隠してくれればいいのに」
すると、アドリーヌを可哀想に思った魔法使いが目の前に現れたのです。
「泣くのはおよし、可哀想なアドリーヌ、私があなたを舞踏会へ連れて行ってあげるわ」
「本当? でも、こんな大きな鼻では皆に笑われてしまうわ」
そういうと、魔法使いは魔法の杖を一振りすると、あっという間にアドリーヌの鼻は小さくなりました。
小さな鼻のアドリーヌは、それはそれは可愛らしい娘でした。


(挿絵:とんがり帽子の魔女が、柔和な笑顔を浮かべて彼女の方に触れている。
    杖でその鼻を小突くと、アドリーヌの鼻は小さくなっていた。)

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