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造花の館

閉架式書庫

セレマの図書室は造花の館のなかでも大きな割合を占めている。
入ってすぐ目につくのは、一面に並んだ自動スタックランナーの列だ。
練達の技術によって自動化された図書室は、常に書物にとって最適な温度と湿度を保ち続けており、微かに香るミントの香りで満たされている。

セレマ自身が使うためのテーブルもソファもあるので、ここで快適に本を読むこともできるだろう。


●主要な蔵書
・混沌各地で集めた物語
・異世界の戯曲や脚本多数
・歴史書ならびに民俗学書
・魔術関連の一般的学術書
・詩集、画集、楽譜などの芸能に関する本

●やってはいけないこと
・天秤を載せた丸テーブル席に座ってはならない
・意識がハッキリしないならここにいてはならない
・奥にある開かずの扉の先にあるものを気にしてはならない
・知らない声が聞こえても返事をしてはならない

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              《大きな鼻のアドリーヌ》
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昔々、ある国に、アドレーヌとアドリーヌという名の2人の姉妹がいました。
姉のアドレーヌはとても美しい娘でしたが、妹のアドリーヌの顔には、瓜のように大きくな鼻がついていました。
その鼻があまりに大きいものですから、出会う人は皆面白がってアドリーヌを笑うので、アドリーヌはいつしか自分の部屋に閉じこもるようになってしまいました。

そんな妹を元気づけるように、アドレーヌは扉の向こうから毎日声をかけ続けました。
「アドリーヌ、あなたの鼻が大きくても、姉さんはあなたが大好きよ」
続けてアドレーヌは言います
「アドリーヌ、今夜はあなたの為に本を読みたいの。私のお部屋においでなさい。
 遠い国のお話よ、きっと楽しい気持ちになるわ」
けれどアドリーヌは悲しそうに言うのです
「ごめんね姉さん、わたし、きれいなお話も、楽しいお話も聞きたくないわ。
 美しくてきれいなお話を聞くほど、わたしはこの大きな鼻がいやになってしまうの」

そっれきり、いくら声をかけても、自分の部屋を開けようとしません。
姉さんと一緒にいることは楽しいですが、美しいアドレーヌ姉さんと、大きな鼻のアドリーヌを比べてしまうことが苦しかったのです。
アドリーヌは「待っていれば、いつかこの鼻も小さくなる」と、そう自分に言い聞かせて、毎日お祈りをして過ごしていました。

(挿絵:美しい娘と、鼻だけが異様に膨れ上がった娘の絵。
    その洋服からして富裕層であることがうかがえる。
    鼻の大きな娘は部屋に閉じこもり、一方の娘が本をもって扉の前に立っている。)

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