その日、小金井・正純は少々気分が沈んでいた。
空は雲に覆われ星は見えない。
自身の心もまた、モヤモヤと晴れずにいる。

アドラステイアの、撃鉄の聖銃士との一件は思った以上に心に残っているようだ。

かつての、無力感に苛まれていた自分が顔を出すくらいに。

そんな折、部屋へと来客が訪れた。
その名前は、まさに撃鉄の聖銃士と共に戦った少女のものであった。

※小金井・正純、エクスマリア＝カリブルヌス以外の書き込みを禁じます。

なるほど、な。ここは正純一人、なのか？

住んでいるのは私1人ですが、働きに来てくれてる方たちはいますよ？
流石に1人じゃ回せませんしねぇ。

家族は、居ない、のか？

家族、ですか？天義には養父がいますが。

天義……国を出て、異郷で神でないものを、信仰するというのは、珍しい気もする、が。

あー、その辺はややこしいんですが。
私、生まれは鉄帝で、育ちが天義なんですよね。
養父もそんなに信心深い訳では無いので、こんなんじになってます。

なるほど。それなら、納得、だ。
（一つ頷き、きんつばを頬張る）
鉄帝生まれ……そう言えば、正純は鉄騎、か？
（もきゅもきゅ頬を膨らませつつ、彼女の右手を見て）
と、済まない、な。質問ばかりに、なってしまった。

ああいえ、私もその方が話しやすいですし。
（お茶をいれなおしつつ）
私は、ローレットで言うところのカオスシードですよ。

ふむ、ならば遠慮なく。
（お茶のおかわりに礼を述べて口を湿らせ）
カオスシード、か。ではその腕は、義腕、なのだな。

ええ、そうですね。
子供の頃からなかったので、もはや慣れたものですが。

そう、か。幼い頃からなら、違和感もない、な。
果敢に戦闘をこなせるほど、だ。

その辺は養父がスパルタだったので……。
無茶苦茶ボコボコにされながら鍛えられました。

鉄帝式、か……（沈痛な面持ちの無表情）
イレギュラーズに選ばれなければ、使う機会も、そうなかっただろう、に。

……いえ、養父は天義の人間なので。
それに、力を求めたのは私ですしね。

生国から、父の故郷へ、か。
力を望んだのは、何か目標、が？

先程も言ったかもしれませんが、星を目指すためですね。
それを言ったら「そんな荒唐無稽に挑むんなら気合い入れろ」と養父に言われまして、ええ。

それは、また。良い父を持った、な。

ええ、それは疑いようもなく。
私は、決して良い子供ではなかったでしょうからね。

やんちゃ娘だった、か？

それもそうですが、こう。
口も態度も悪くて……。

ほう、それは、意外な……（先の様子を思い返し）
事でもない、か。

ええ、まあはい。
どちらかと言うと昔はあちらが素でしたので。
今はさすがに落ち着きましたけれど。

なるほど、な。それも、今では立派な淑女、だ。
正純の父も、誇らしい、だろう。

いやぁ、淑女って柄でもないですしどうでしょうねぇ……。

過言でもない、と思うが、な。
（お茶を口にして）
さて。聞いてばかりも、なんだ。正純は、聞きたいことは、無い、か？
もやもやが、薄れる切っ掛けにも、なるかもしれない、ぞ。

ああすいません。こちらばかりお話してしまって。

………んー、話が戻りますがマリアちゃんはアドラステイアのことをどう思いますか？

ふむ。そう、だな。
素人考えではある、が。率直に言うなら、組織として考えれば、合理的、と思う。
裏切りの芽を可能な限り潰し、貢献するほどに、より良い待遇を得る。
虚構の信仰も、それ自体は珍しいものでも、ない。
一つの目的に準じる手段として、よく練られたもの、だ。

まあ、それはそうですね……。
天義が衰退した隙を狙ったとはいえ、あれだけの勢力になったのは合理的な判断故でしょう。
……納得と心の持ちようは違いますが。

ああ、単純に感情で見れば。子らを、喰い物にし、玩具にし、狗にする。
どうしようもなく、醜悪で、悍ましい。
マリアとて、生殺の是非を問えるほど、清らかではない、が……それでもあれは、不快に過ぎる。

ええ、それを為しているのが現地の者たちのみならず
異世界からの来訪者、……旅人であるということがさらにムカつきます。

旅人害悪説、だった、か。
酷い風評被害もあったもの、だ。

ええ、全くもって。
……目的が分かりませんね。旅人を排斥してどうしようというのか。

……アドラステイアからでなく、新世界からの思想、かもしれない、な。
協力者ではなく、より深い部分に根ざしている、だとか。

なるほど。
……そのために、天義の民を拐かし洗脳しているのだとしたら、やはり許せませんね。
害悪説を謳いながら、やってることは自分たちの方が余程ではありませんか。

旅人本人はおろか、その血を継いでいる、と言うだけのものまで、容赦なし。
あの撃鉄も含め、そこに一抹の疑問さえ、覚えないほど。
全く以て、救いようのない。

天義がそのうち本格的に対策に乗り出す、といいのですが。……今の国力では難しいでしょう。
その分、我々が頑張らねばなりませんね。

そう、だな。何かしら、打ち崩す糸口が見つかればいいの、だが。

……ええ、先の戦いも無事で良かった。
まさか直接ローレット所属のイレギュラーズを狙ってくるとは思いませんでしたが。

ああ、あれに関しては、上の意向、だろう。
因縁、と言う程のものでもない、が……余程、マリアが欲しい、らしい。

やはり背後にはきな臭い存在が多いのでしょうね。
…我々この世界の人間だけでなく、旅人も。となれば、アドラステイアだけの問題でも無くなってきている。

そう、だな。このまま、大きな流れとなれば、よくないことに、なる。
天義が、まともに動ければ、随分違うのだろう、が……

んー、例のアストリアさんの件の爪痕が深いみたいですねぇ。天義で神父をしている私の養父が仰っていました。

枢機卿が魔種だった、となれば、な。大きな戦で、国自体の疲弊も大きい、が。
癒やしきれぬにも、それが重しと、なっているのだろう。

ええ、あの人も無茶苦茶悪態ついてましたね……。
っと、お茶のおかわりいりますか？いれますが。

いただこう。紅茶とは違うが、これも中々、味わい深い、な。

はい、どうぞ。
確かに、豊穣で取れるお茶は違った味わいがありますよね。
マリアちゃんも結構お茶を飲まれるんです？

いや、茶も好むが、自分で淹れる時は、珈琲の方が、よく飲む、な。
今のように、出先では、茶の方が多い、が。

こーひーですか。あの真っ黒なやつ。
苦くてあまり得意ではないのですよねぇ。
飲める方すごいなぁと思います。

苦手な者は、皆そう言う、な。だが、マリアの珈琲は、甘くて美味い、ぞ。
故郷でも、マリアの珈琲は、「疲れ以外も色々吹き飛ぶ」と、評判だった。

ほほう、それは機会があれば是非とも飲ませていただきたいですねぇ。
……疲れ以外に何が吹き飛ぶのか気になるところではありますが。