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別邸『イハ=ントレイ』
(問い掛けに僅かに目を伏せ、逡巡し)
カタラァナ、を。そして、クレマァダ、を、だ。
上手く言えない、が。『これ』を知るのが、一番に思えた。
カタラァナ、を。そして、クレマァダ、を、だ。
上手く言えない、が。『これ』を知るのが、一番に思えた。
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歌を歌うのは、何にも代えがたい特別なことだ。と我は言った。
波濤魔術とは、分類すれば原始的な魔術の一つである。
発祥は、単なる人や生き物を超えた“なにかしら”達がその巨体を悠々と海中に潜らせる姿の模倣と言われているらしい。
コン=モスカの海は荒れやすい。近くにある絶望の青――今は名を変えて悠久の青を間近に望むその諸島群は、島々の存在が海流を複雑化させている。資格無き者を絶海行の道行きより振るい落とす、それは最初の関門と言えた。
故に、コン=モスカの者は皆生まれてすぐこれを学ぶ。
初歩の初歩、波を止め、波を生み出す。
魔力を運動に変化させてはならず、純粋に分子を操作するはじめの一歩。
「――良いか。動かそうと思うな。
体に触れている水を感じ、己の方に招き入れるのじゃ」
鯨類を思わせるつるつるぱつぱつと張りのある手で、少女/クレマァダ=コン=モスカは目を閉じ、あなたの手を握っている。
もしあなたが魔力を感じる力を持っているならば、彼女のそれはひどく奇妙に感じるかも知れない。目の前の少女はそれを生み出しているのに、触れている手からは熱量のようなものは感じられず……どころか、冷えているようにすら見える。閉じて循環し、“波打っている”のだ。その感触を指先で触れるうちに、段々と自分の周囲でざわざわと囁く波たちの感触も鮮やかに肌で感じるようになって来た。
モスカの幻想における別邸には、本宅にもないものが一つだけある。
それがプールだ。水がない環境は耐えがたいが、幻想の用水路は耐えがたいというささやかなクレマァダの貴族心の発露なのだが、今日は思いもかけぬことに使うことになっていた。
「それにしても波濤魔術を教えて欲しいとは、随分異な事を言う。
我としてはそのこと自体は断ることでもないがの。
あの娘(イーリン)のように勝手に無茶をされるよりはなんぼもマシじゃ」
ローレットで何ヶ月か暮らすうちに若干口が悪くなって来た少女は、しかし言葉の通りに別段難を示しているわけではない。
これは謂わば自転車の補助輪を外すようなものであり、その先に進むかどうかは本人の意志次第ではある。波濤魔術自体は、危険なものでは勿論ない。
あなたが心を尽くして頼めば、人のいい彼女はきっと、持てる全てを教えてくれるだろう。
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【参加者向けハンドアウト】
あなたは、夜のプールで彼女と向かい合っています。
あなたは、波濤魔術を彼女から習いたいと思っています。
彼女は、あなたがなぜ波濤魔術を身に着けるのか。身に着けて何をしたいのかが知りたいようです。