冒険
闘技場設定は『練習場』から!
いつかの温泉と青葉の恋
●森の青葉
湯煙はほわほわと優しい白い色を空間に溶け込ませていた。
樹木の間を風が駆け抜け、揺れた枝から葉が落ちる。ひとつの木に生まれ育ちし緑葉は、その木に縁を持ち、他の仲間とともに生まれ茂った自然の仔。土にはらはらと舞い降りる葉は柔らかで、そんな葉が重なり絨毯のようになった森の大地は歩くたびに軽やかな音を立てるものだ。けれど森に生まれた少年は、そんな音すら立てずに足音しずかに森を往く。道の脇、いつも挨拶する花たちが揺れて、今日は――その先に行ってほしくないみたいだった。
けれど、彼は止まらなかった。
長い耳にお姉さんと旅人の声が聞こえる。
(別れを告げているんだ。お姉さんは同種族の僕とこれから長い時間を生きていく。そして、旅人は集落を出てまた旅をして、短い一生を何処かで終えるのだろう)
その時、少年はそう思っていた。
●森の中、湯らめいて
ちゃぷり。
あたたかな湯が揺れている。温泉特有の香りがふわりと鼻腔を満たして、そのあたたかさの中へと誘うよう。清潔感があり、花や石鹸のような、佳い香り。嗅いでいると安心するような、癒されるようなにおい。そんな芳香が満ちている。
木々に遠巻きに囲まれ、目を魅了するのは泉のようなエメラルドグリーンの湯たまり。とろ~りとした、水よりも少し重たく感じる湯質。湯の表面が光を反射してきらきらして、宝石を溶かしたように煌めいて。自然に湧いているのだと示すようなボコボコとした泡が中央に湧き、ゆらりと揺れるたっぷりの湯に湯の花と風が運んだ木々の葉、花びらが浮かぶ――自然の温泉。
足先から徐々に慣らすようにして湯に浸かれば、たっぷりとした湯が贅沢に波打って、あたたかに体を包み込む。肌ざわりは滑らかで、低刺激。ふわふわとあがる湯気は空気に溶けていく淡い白。両手で湯を掬えば、さらり、と指の間をお湯が逃げていく。岩に体を預けて腰を落ち着け、足をのんびりと延ばせば心ほどける寛ぎのひとときが訪れる。
解放感のある上空では、絵筆を気ままに遊ばせたようなやわらかで優しい雲が青い空に流れていく。かすかに肩に何かが触れる感覚に視線を落とせば、薄く色づいた花びらだった。風に招かれ、木々の葉や花びらがふわりはらりと湯に浮かぶ。木陰からは愛らしい動物たちも顔を覗かせて――。
シナリオ:透明空気
参加者一覧 | |
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グリーフ・ロス(p3p008615) 紅矢の守護者 |
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ルナ・ファ・ディール(p3p009526) ヴァルハラより帰還す |
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フェルディン・T・レオンハート(p3p000215) 海淵の騎士 |
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皇 刺幻(p3p007840) 六天回帰 |
探索記録
●黄金林檎の森の中
知ってる?
黄金の果実が実る森。
そこは、静謐を愛する精霊たちが住んでるの。
ごくまれに、道が視える人がいて、人々はそれを「森に招かれた」と呼んでいて。招待状は目に見えないけれど、ふわりさわりと風に誘われ、気付いたら森のつづく道が視えている。
そう、あなたもここに?
それじゃあ、きっとあなたは選ばれたのね。
森がひとを招くとき、理由はその時々で違っていて、純粋に好ましい人物だったり、興味があったり、そんな時もあれば――強いひと、やさしくて力を貸してくれそうな人を見込んで森が「おねがい」をする時もある。
今回は――どっちだろう。
森の木々が微風に葉を揺らし、耳に心地よい音を奏でている。グリーフ・ロス は足元で揺れる花をそっと見下ろし、首を傾げた。神秘的で幻想的な花は、ほのかに光を帯びるように道を照らして先へ誘うよう。
ふわふわ舞う蝶々はやさしい色合いを纏い、木々の枝へ視線を導く。枝には、不思議な黄金の果実が実っていた。
あたたかく、しずかで、光が満ちる森。グリーフ・ロスのチームを歓迎するような気配を見せる森の道。すこし、散策してみるのもよいだろうか――、グリーフ・ロス は穏やかな心地で足を進めたのだった。
●濁り湯の温泉
しばらく歩を進めると、独特の香りが感じられてくる。清潔感があり、花や石鹸のような、佳い香りだ。嗅いでいると安心するような、癒されるようなにおいだ。なんだろう――足取り軽やかにそのまま進むと、やがて開かれた空間が広がった。
木々に遠巻きに囲まれ、泉のようなエメラルドグリーンの水たまりがある。
ほわりと湯気が立ち、注意深く触れてみればあたたかい。湯だ。「温泉?」呟く声が風に攫われ、頭上高くのぼって消えていく。
とろ~りとした、水よりも少し重たく感じる湯質。湯の表面が光を反射してきらきらして、宝石を溶かしたように煌めいて。
自然に湧いているのだと示すようなボコボコとした泡が中央に湧き、ゆらりと揺れるたっぷりの湯に湯の花と風が運んだ木々の葉、花びらが浮かぶ――自然の温泉。
●
揺らめくエメラルドグリーンの湯がちゃぷりと湯音を立て、誘うよう。
うずうずと欲求が胸に湧く――浸かってみたい、と。
とはいえ、グリーフ・ロスのチーム は異性混在のパーティだ。
グリーフは少しだけ考えを巡らせた。
水着をもって出直して、水着着用で入ろうか。それとも、交代制にして順番に浸かろうか。
しばらく周囲を確認して、グリーフは木陰からぴょこんと動物たちが顔をのぞかせていることに気が付いた。
●ふわもこたちとのひととき
まっしろな毛並みのうさぎたち。もこもこ尻尾のたぬきさん。鼻をふんふんさせる狐っ仔。優しい瞳の鹿たちに、つぶらな目のリスたち。こそっと木の実を持っているアライグマ。ばさばさと羽音をたてて、梢で小鳥たちが自己主張している。うさぎたちが片足をつけて、たぬきさんは尻尾を浸して。アライグマはそおっと木の実を湯につけて、じゃばじゃばしている。
不思議な憩い空間がそこにあった。のんびりと様子を見ているうちに、その特性がわかってくる。温泉はこんこんと沸き続け、かけ流しでも気温や天気に左右されない快適な温度と神秘的な効力での清らかな湯質を保つようだった。
グリーフ・ロスのチーム は、しばし動物たちと穏やかな空間と時間を共有した。動物と話す能力がある者がいたら会話が弾むこと請け合いの楽しい時間だ。
●突然の乱入者
穏やかなひとときは、しかし突然破られた。動物たちが恐慌をきたし、湯を跳ね上げて逃げ出す――彼らを襲う『ソレ』が現れたのだ。
ソレがノイズめいた聲をあげている。
『ああ、……さびしい』
寂しい、虚しい。寒い。
『どこにも、ない』
きみがいない。
救いがない。
『選ばれなかった悲しみ。わかってもらえない寂しさ。愛されない僕、見てもらえない、見ているだけの存在の僕――醜い僕』
たおして。
苦しい。
『こんな自分になりたいわけじゃ、なかった』
ほんとは本当は……。
ソレは、歪な悪意めいた気配を全身から漂わせ、足元の花を踏みつけ、木に実果実をもぎ取り食い散らかす。湯を見つけ、グリーフ・ロスを見て――敵意高く襲い掛かってきた!
●惜敗
思いがけず、敵が強い――残念ながら、ここまでだ。退き際を悟ったグリーフ・ロスのチーム は戦いを諦め、逃走に移ることにした。
●街
街の通りを行きかう人々の表情は、明るい。人々の話声が無数に集まり、街を彩る雑音となっている。歩くうち、段々とあの不思議な森が夢のように思えてくるのが不思議だった。
けれど、夢ではない。
グリーフ・ロスはその方角を振り返る――気が向いたらまた行ってみようか。そんな風に考えながら。
挑戦結果
●永遠の森の詩
不思議な森の奥で、湯煙はほわほわと優しい白い色を空間に溶け込ませていた。
はらり。
葉が風に乗り、湯に辿り着く。
ひとつの木に育ちし葉は、枝先に他の仲間とともに生まれ育ち、そして枝と別れて終焉を迎えることになったのだ。
生まれたものは、いつかその活動の終わりを迎える。森の時間はたいそうゆっくりと過ぎていて、外の世界と比べれば長く長く、とても長く――あの子を見守っていたのだった。
想いは、叶うとは限らない。きっとあの子もわかっていただろうけれど。
――悲しみの波は未成熟であればあるほど、制御するのが難しい。
ならばせめて、せめてその想いは我らが覚えていて、伝えよう。だからもうお休みよ。もう、おやすみ。
木々が謡い、風に揺れる――。
戦績
攻略状況:攻略失敗…(撤退)