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聖竜騎士団の花と狼
登場人物一覧
ベ/ネ/夢(血表現あり、苦手な方はブラウザバック推奨)
名前変換→NAME
あてんしょん
・この夢小説は作者の強火の妄想及び幻覚です。
・ベ.ネ.デ.ィ.ク.トが夢主に対して過保護、甘めです。
・恋愛要素あるかも
・許せる方のみこの先へお進みください。
・荒らしコメは即通報、相手にしないでください。
コメント待ってます!
●第七戦争《discordiae》
此処はサンクトゥス王国。妖精と竜の加護を得た大国であり、戦火の最中でもある。
聖竜騎士団第二軍隊の団長を務める私、NAMEは今日、最早腐れ縁とも呼べるであろう第一軍隊の団長ベネディクトと共に王宮を歩いていた。
「あれ、ディーも呼ばれたの」
「ああ、NAMEもか? なんだか嫌な予感がするな、何か物を壊したりしていないかい?」
「そういうディーはまた馬を置き去りに帰ってきたとかじゃないわけ、私が呼ばれる心当たりないんだけど」
「はは、冗談はよしてくれ。馬を置いてきたのはあの二回だけだって」
「二回も前科があれば充分じゃないのー??」
「さて、それはどうだろう」
「じゃあ外した方がこの後酒おごりね」
「乗った」
赤いカーペットの上を軽口を叩きながら歩く。
隣を歩くベネディクトの顔はいつもよりも厳しくて、いつもよりも少し悲し気で。そんな顔をされてしまっては私まで落ち込んでしまうから、なんとなくぼんやりと考え事をしながら歩くことにした。
そもそも私達は幼馴染であった。
人生のほとんどを共に過ごし、クリスマスからハロウィンからお風呂から着替えからなんだって一緒にするような関係で、周りには少し変わっているだとか、ベネディクトが頭を抱えそうだとか言われたけれど、私の隣にいるのはベネディクト、っていうのが当たり前だった。
親は何年か前の戦争で戦死し、私もベネディクトも両親の顔を知らぬままここまで来ている。必然と言えば仕方ないのだが、私とベネディクトは兄妹のように仲が良かった。
実力があれば男女は関係ないとされるサンクトゥスですら、ここばかりは女性の入隊が厳しいと言われている聖竜騎士団に入ろうと考えていると告げた日のベネディクトは、卒倒しそうな勢いで顔を青くしていたのだから笑ってしまう。私はもうただのか弱い女の子なんかじゃないのに。
隠れて剣を振り、遊びの約束も蹴って特訓して特訓して特訓して、妖精たちから祝福を受け、魔法騎士としての才能を開花させ、さらに剣を扱える私を騎士団が逃すはずもなく、入隊試験はあっさり合格。性別の面から落とされると思っていたベネディクトもこれにはショックを受けたようだった。
何年か騎士団で様々な任務をこなし、私たちが22になった昨年から戦争はさらに過激化した。そして、昇級も。腕の立つ私が団長になること、リーダーシップも人望も兼ね備えたベネディクトが若年ながら団長を務めることは周囲には当たり前のように思われていたらしく、報告をしてもさほど驚かれはしなかった。
実力至上主義であるが故に他の男性よりも腕の立つと国から直々に認められたはいいものの、それでは国の体裁が意味をなさないと団長に昇級する際にカツラと包帯を渡されたのは今となっては良い思い出だ。
ベネディクトが昔好きだと言っていたから伸ばしていた、淡い金の髪を隠すのはさすがに惜しかったので一本に結ぶことにして、戦いには邪魔なのにありがたいことに大きめになった胸を必死にさらしで押しつぶし(朝はこれが一番時間がかかる)、そうして私は第二部隊の団長となった。
他の隊も合わせて七つ、その中の一隊の団長が女であることはもはや国家機密だろうか、そんな秘密を仲間に負わせているのも嘘をついているのも情けないのだが、164とぎりぎり男子に見えなくもない体躯と結構強めな腕前があることで何とか男としてこの騎士団に居られるのは本当にありがたいことである。
23にもなって初恋をこじらせた私は、他の団長と酒を酌み交わし愚痴ることでなんとか女でいない日常を保つことができていた。時に揶揄いながらも親身になって聞いてくれる彼らは一部は既婚者であり、意見がうかがえるのはありがたいことである。その意見すらも参考にならないくらいド天然を決めてくるベネディクトはモンスターよりも凶悪であるとすら思える。
「ほら、ついたぞNAME」
「あだっ?!!」
白く高い柱に額をぶつける。長々と考え事をしていた自分も悪いのだが、せめて柱があるとか声をかけてくれればいいのに。赤くなっているであろう額をさすると、ベネディクトは楽しげに笑った。
「……まったく、世話が焼けるな?」
「……っ」
前髪をさらりと払い、傷の有無を確認するベネディクト。だがしかし、近い。
「何、すんのさ……」
「傷はないかと思って。嫁入り前の乙女に怪我があってはいけないだろう」
「べっつにぃーーー。もう、ほら、行くよ」
「……ああ」
●任務と、それぞれの想い
「NAMEと、ベネディクト。よく来てくれた」
「はい、司令官」
「……ここに呼ばれたということは、もう理解しているのだろう」
「……はいっ」
「君たちを、戦場に、向かわせることが決定した」
「……はい」
室内に漂う沈黙が重く、苦しい。
揃いの白の鎧がやけに汚く見えて、私は鎧についた汚れを払った。
「……すまないな、NAME。我々としても、
父のように。私たちの境遇を知る彼は、珍しくその瞳に悲しみの色を滲ませていた。そんな表情は初めて見たから、思わず私は声が震えた。
「やめてくださいよ、司令官。私は、男です」
「……女を捨てさせた我々が言えるようなことではないが。君には、女としての幸せも掴んでほしかったのだよ」
「……慣れていますから」
「そう、か」
皮の椅子から立ち上がると、司令官は私とベネディクトを強く抱きしめた。
「……帰ってこい」
「「はい」」
父とは、彼のような人間のことをいうのだろうか。悲しませたくないと思った。
「それから、ベネディクト」
「はい」
去り際にベネディクトの名が呼ばれる。振り向いた彼の瞳には信念の刃がうかがえた。
「頼んだぞ」
「この命に代えても」
「……二人で帰ってこい」
「善処します」
何を言っているのかわからなくて首を傾げた私の腹の音が情けなく鳴り響く。二人は声を大にして笑っていた。
窓の外に滲んだ夕焼けに酷く心が揺さぶられた。
●黒狼と青花
先行部隊は壊滅的な被害を受けていた。
私とベネディクトがある程度敵を払うことで戦況は落ち着き、この場にようやくキャンプを築くことができた。
部下の一人が入れてくれたのだという紅茶を飲みながら会話を交わす。なんだこれ舌がちょっとしびれたぞ。
恐らくはのどが渇いていたからだろうと判断し、ぐっと飲み干すと見慣れた背中を発見する。私は声をかけた。
「ねぇ、ディー」
「どうしたんだい」
ああ、と振り向いた彼はどうやら武器の手入れをしていたようだ。私の分も手入れしなければいけないのだが面倒でさぼってしまう。彼の槍はいつも美しく狼の牙のようだ。宵闇の黒のマントを翻し、牙を奮う姿からついた異名は黒狼。一方で青のマントの私はなぜか花。性別ばれてない? 大丈夫?
槍を置いた彼はこちらに近付いてくる。握った地図を見せれば、少し納得したような顔で頷かれ。
「ここ、うちの軍を押し切ってたにしては敵の数が少ないし、」
「……NAMEも同じことを思っていたのか、気が合うな」
「ちょっと作戦変えない?」
「ああ」
切り株を椅子に、ベネディクトの隣に座り二人で地図を広げる。押されている戦場には支援部隊と別の部隊が向かうらしく、私とベネディクトは一撃で壊滅したと思われるこの戦場を任されていた。
ある程度落ち着けば帰還してよいと命令されていたので部下は帰したものの、引っかかることが多く残ったのは私とベネディクト、それから数人の兵のみだった。こんなことでは敵にすぐに騙されてしまうと頭を抱えた私と、苦笑しながら見送ったベネディクト。考えていたことは大体同じだったようで、作戦は案外すんなりと決定した。
「じゃ、今から説明するね」
「まず我々が居るのはここだ。先ほど敵部隊を壊滅させたが、我々の軍を壊滅させられるほど強いとは思えない腕前だった」
「で、今は夜だから明日の早朝にここが襲われるかもしれないって思ったんだよね。たぶん、敵の狙いは、」
「俺とNAMEの、首だ」
強いものから倒すためにはいくつかの作戦が必要で、それは理にかなっているし隠密行動の腕前もあるようだ。だけどこちらも、兵の命が奪われている以上は食い下がることもできない。
「ちょっと仮眠取ったら偵察しにいこっか」
「ああ、そうしよう。とりあえずNAMEから寝るといい」
「は? まだ眠くないんですけど」
「いいから」
「何それ。じゃー第二部隊のみんなは寝よっか、こっちで一緒に仲良く寝ようね」
「……纏まると襲撃に気づけない可能性があるから離れて寝てくれ」
「何が面白くないの」
「何も。面白い面白くないの話じゃないだろう」
「あっそ。じゃあわ……俺は向こうで偵察してきますから!!」
「おい、NAME!」
「うるさい! ディーはそっちで寝るなり見張るなり好きにすれば!」
「……ああ」
やけになって飛び出したはいいものの、見知らぬ土地で、森の中で。だからこそ誰かに一緒に居てほしかったのに、憎まれ口を叩き部下の前で喧嘩をするとは情けなくてため息が出る。
初恋をこじらせる人間はこうなってしまうのだろうか。それなら恋なんてしたくなかった。
「はぁ……」
素直になれないまま、歳だけを重ねて。どんどん美麗になっていくベネディクトは婚約の話もあるらしい。こんな状況で思い出す自分も自分だが、そろそろ結婚のことも考える年齢なのだろうか。
帰ったら司令官になにか聞いてみよう。そう考えたところで、恐ろしいほど強い眠気が私を襲う。
先ほど口にしたものは紅茶しか思い当たらない。あの痺れは、ならばベネディクトが危ない、そう思ったところで私の意識は完全に途絶えた。
●戦乙女は地に堕ちて
「……は?」
目を覚ました私は剣を鎧を目の前におかれ、あろうことかドレスを着て敵陣に座らされていた。スカート久々に履いたけど股下すっかすかで慣れないわ、嫌い。
「あ、NAMEさん! おはようございます」
「おはよう、死ねカス」
「あはは。俺の事覚えててもらえてただけで満足です。
アンタ、やっぱり女だったんですねえ。スカート似合ってますよ」
「黙れ。聖竜騎士団の掟を忘れたか?」
「はい、綺麗に。だって俺スパイなんで」
「うーん口が達者で腹立たしいな、死ね」
「お断りしまーす。どっちみち死ぬのはNAMEさんなんで」
「まぁこの状況じゃあな……」
「はは。ベネディクトさんも首持ってきてくれるらしいんで、楽しみですね」
「は?」
「アンタがのこのこ捕まるから、あの人条件飲んだんですよ。命と引き換えにって」
「……馬鹿でしょ」
「愛されたんですね」
「うっさいわ」
いい風呂に入らせてもらったのか肌はここ最近の中だと群を抜いていいし髪の毛もサラサラだ。あと眠い。けれど騎士としてここで寝てしまえば幼馴染であり初恋の彼の処刑を見ぬまま死んでしまうだろう。あるいは辱めを受けるかもしれない。
手首のブレスレットだけは温情で外さないでいてもらえたのが救いだろうか、隠し刃で手首を縛る縄は外せるだろう。あとは時間を稼いで、彼だけは何とか逃がさなければ。
そう思ったところで彼はやってくる。いつもいつも間の悪い男である。
「……NAME?」
「何」
「驚いた。よく似合っているよ」
「馬子にも衣裳って言いたいわけ」
「……綺麗だ、と言いたいんだよ」
「あ~~~~~~黙れ」
「あまりにも理不尽が過ぎるよ」
「はいはい、感動の再会はここまで。NAMEさんはあとで丁寧に連れ帰って色々させてもらうので、ベネディクトさんはここで死んでくださいね」
「……ああ、そうか」
おとなしく首を晒したベネティクト。ここまで天然を極めると救いようがない。どつきたい。
「ディー!!!? あのさ、抵抗して、早く逃げてってば」
「……俺を信じて」
な? と首を傾け笑われては致し方ない。固く目を瞑る。私の目の前で死んでくれるなよ、ばか。
麻縄を切る。手首に僅かな痺れがあるがしかたない。
「じゃあ、さよなら、ベネディクトさん」
剣の振り方が、甘い。
「うおらああああああああああ」
「っ、この、暴れ馬が……!!」
褒められていないことだけはわかった。普通に。
「ディー!!!!!!」
「ああ、任せろ」
でも、槍もないのにどうやって。そんな不安を一掃する体術をみせた彼。
「えっ」
蹴り、殴り。時にマントで払い。
「体術、最近頑張ってたんだ」
「いや、え、槍は」
「あるけど」
「あっそう……」
結構あっさり倒してしまったものの、敵の拠点で暴れたなら増援がいるのも当たり前だ。
「この人数はきつくなーーーーい???」
「大丈夫だ。手は打ってある」
「何それ!」
「十分後に馬が来る」
「じゃあそれまで奮戦しよ!!」
「ああ」
ドレスの裾を破り、剣を構え。ベネディクトは私と背中合わせで敵と対峙する。
走る緊張。こういうのは嫌いだ。だから私は地を真っ先に蹴る。
「はぁぁぁぁぁっ!!!!」
剣に魔力を纏わせて、敵陣中央へと突っ込みながら。
右、左、あと下。蹴って、斬って、なぎ倒す。
歴戦の兵とはいえ若さには敵うまい、身体を逸らし敵を盾にし、生へとしがみつく。折角ベネディクトが助けに来てくれたのだから。
足を切られ、手も切られ。それでも私は突き進む。この十分で命を繋ぐために。
奮戦するベネディクトの背に迫る短剣使い。間合いに入ってでも討つという瞳をしている。命をなげうってでも、ならば!
「ディーッ!!!!!!」
「?!!」
肉壁にだってなってやる。
どうせ十分稼ぐなら少しくらいハンデを与えてあげなきゃかわいそうだ。肉を貫く痛みには言い訳を与えて。
「っ、NAME!! どうしてこう無茶ばかり……っ」
「ハンデ、あげてんの……!」
綺麗だったドレスは私が引き裂き血液で汚し、最悪だ。このドレスの作り手さんには頭を下げねばならない。
その時。
軽快な土を踏み鳴らす蹄の音。
「おっと、来たようだな。よ、っと」
「え」
頭が追い付かない。
抱き上げられている。
敵に追われながら。
抱き上げられている。
「おろして」
「でも腹を貫かれているだろう。あまり話さないほうがいいし、動くのなんてもっと駄目だ」
「おろして」
「無理だ」
「ひいい……」
馬の手綱をぐいっと引いて、私を抱えたまま飛び乗るベネディクト。狼どころか王子様だ。
「やだもう……」
「? とりあえず、逃げようか」
軽快に走り出すベネディクトは、どこか楽しげに笑っていた。