PandoraPartyProject

SS詳細

Ma,mellow.Is what it is it it.

登場人物一覧

アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者

●It's show time!
 ――作戦開始Mission start.

 AM/11:26
「アーリアの爪、きれいだヨネ」
 左頬の給水口から器用にストローでヨーグルト・シェイクを啜り、ほう、と息を吐いたジェックのアイピース越しの眸は、対面でワイングラスに絡み付くアーリアの細指へと注がれていた。
 自分の様に骨張って居て、欠ければ適当に切るだけのものとは違う。しなやかで美しく、女性らしい整えられた爪先は上品な薄紅色に色付いて、真白との境界にはシルバーとラインストーンを遇らった大人可愛いフレンチネイル。淡く葡萄色に染まった毛先に其れを絡めて弄べば、約束契る小指にだけ咲いた薔薇が煌めいて。
「ふふ、ありがと。爪先が華やいでいると気分も上がるのよねぇ」
 料理をする時も、いとおしい者へ戀文を綴る時も。将又、武器を握っている時だって。何時でも視界に入る場所なものだから、彩りが有ると無いとでは断然違うのだ――とは彼女の談。
「ネイルをしてミタイんだけどさウマくできなくってさ……いい機会だし、オシえてくれないカナ?」
「おねーさんにお任せあれ! ふむ、色が白いからビビッドなのが似合うかしら……嗚呼、でもアースカラーも……!」
 気恥ずかし気に差し伸べられた、悪戦苦闘の後が伺い識れる少し塗料の残った指先を笑う事無く撫ぜ乍ら。真剣に考え込むアーリアの形の良い脣から漏れ出す言葉はまるで魔法の様。
 フレッシュな果実の色。マットでこっくりとしたチョコレートブラウン、でもネイビーや鼈甲ネイルも捨て難いわ! 肌馴染みの良い、オレンジベージュも可愛いし、センシュアルな赫だって――。
「でもジェックちゃんが自分で塗るなら、そうねぇ。最初はパステルカラーを避けて、ラメネイルで練習するとムラにならないから失敗し難いわよぉ」
「そうナノ? 基本なのカと思っテタな」
「あと、きちんとベースコートを塗ってあげる事。其れからジッと我慢する時間も大切ね」
「乾イタと思ったラ、グニャってなっチャウんだヨネ」
「ふふ、女の子なら誰もが通る路だわぁ。速乾性のあるものとか、一緒に買いに行きましょうか? おねーさん行きつけのコフレ屋さん、案内しちゃう!」

 PM/01:43
 テラコッタカラーのマキシ丈ワンピースは、涼し気で気の置けない彼と一寸素敵なランチタイムにぴったし。
「実はジェックちゃんってセンスいいわよねぇ……」
 可愛いだけじゃ物足りないと、ジェックが選んだ黒のベルトサンダルに、然りげ無く添えたドット柄のハンドバッグのコーディネイトで鏡の前に立ったアーリアはくるりと回って、したり顔。
「お、良いネ。あ、コッチの服もカワイー」
 スイッチの入った彼女が持って来る服は何れも此れも欲しくなってしまうものばかり。『おねーさん、破産しちゃう!』と嬉しい悲鳴を挙げながら、勧められる儘に買い物籠にはどっさりと。
「コレも、アーリアに似合いソウじゃない? ホラ」
「あらほんと、試着してみましょ!」
 デコルテが美しく見えるカットソーの裾は花柄のスカートにイン。ウェストのサイドの大きなリボンは甘いのに洗練された印象で。
 すらっとして見えるチェック柄のセットアップには金の鈕が光る紺ブレザーでトラディショナル・スタイルに。なんて風に、しこたま全部お買い上げして、パンパンに膨れたショッパーを抱えてお店を出た時にはおやつ時で、ふたりが次に足を向けたのはカフェテラスだ。
 香りの良いしっとりとしたハンドクリーム、爪をケアするオイルやファイル。リムーバーと色取り取りのネイルポリッシュを広げて、今度はアーリアが先生の番。
 最初こそ弱音を漏らしていたジェックも、優しく、そして時にはスパルタな指導を受けてコツを掴み始めて。陽が暮れ始め、ふたりの翳が長く成った頃にはまだまだ不格好だけど気に入るものが出来てすっかりご機嫌だ。
 ルージュを塗り直していたアーリアが手鏡をぱちん、と畳んで。トントントン、とテーブルを指で三回、打ち鳴らす。――其れが、合図。

●This is the end of the line for you.
 PM/05:02
 追手の影は感じていた。素人は見過ごしても、わたしたちには誤魔化せない。ずっと、ずぅっと、肌がひり付いて灼ける様な視線が突き刺さってきている。
 今もそう、火傷しそうなくらいに睨まれて――嗚呼、とっても情熱的。こんなに、熱い眼差しで見つめられるだなんて、女名利に尽きると云うもの。
 『近道しましょ』だなんて、少し態とらしい位に落日の街の、陰影が伸びる昏い路地裏にふたりで入り込めば遂に我慢が出来なくなったのだろう――敵は懐から獲物を取り出し直ぐに仕掛けて来た。照り返す光も無いのにナイフが残像を描いてジェックの背後に閃く。
 嗚呼、嗚呼! でも――そんな風に熱を帯びた息遣いで、明確な殺意で以て振るわれたものなど、躱すのは容易だ。
「ザンネン、アタシ達相手にケハイを消そうなんて、百年ハヤかったみたいダネ」
 背後から零れる斬撃の、風を斬る鋭利な音に、くるりと身を半身に回転させて其の軌道をずらす。男の得物は片手で握れる程の小柄な刃だ。狙いは接近戦だろう。だとはしても、そんな事、てんで有利不利になんて関係無いのだけれど。
 虚をついたはずの一撃をしくじった追手は、跳躍。一度距離を取り、狭い路地裏の壁をシノビの様に奔って、奔って、真上からジェックの脳天に刃を突き立てようと重力に引かれるままに迫る。軀の回転も乗せた其の一撃は、喰らえば流石に無事では済まない処か一溜まりも無いであろう。理解と視線は追いつくものの、此方が愛銃の撃鉄を起こすより速いではないか。
 『さあ、どうする』――此方を試している様にすら視える視線と、夜の淡紅色の視線が交差した刹那、脳天に突き刺さる筈だった其れはぽっかりと口を開けた空間の裂け目に吸い込まれて行く。
「ふふ、そうは問屋が卸さないってねぇ」
 間一髪。口調こそ相変わらずののんびりとしたもので、然して向ける孔雀いろの眸には剣呑。相方を傷つけられる前に、手隙のアーリアが得意の魔術を行使したのだ。
 つぅ、っと黒の手袋を嵌めた人差し指がなぞって生じた歪み。月の裏側に行く様な、酷く粗悪な酒でも飲んだ時の悪酔いにも似た指が弛緩する感覚に堪らずナイフを手放してしまった男は、先程の逢瀬よりも刃渡り数センチ分間合いを縮めて――ジェックのガスマスクに蹴りを入れ様と勢いを利用し足を振り上げた。
 一瞬の思考、だが、致命傷を貰うのは彼女が防いでくれた。光沢が所々に在る程に着古されたセーラー服のスカートの下、太腿に仕込んでおいた銃を素早く引き、バキュゥンと一発、お見舞いしてやれば。弾丸は肩を刳り血の花が爆ぜて、散って、ぽたぽたっと地に依り濃い色を落とす。
『見破るか、我が剣』
「見破るも、ナニも」
「貴方の事は最初からぜぇんぶ、この子が見てたわよぉ?」
 腕に留まった梟の、ふくふくとした翼をいい子いい子とアーリアは撫ぜた。緑に潤んだ酔いは冴え渡り、瞬きをすれば蜂蜜色。再び眸が揺れ動いた時には、もう次の詠唱に入っていた。『ジェックちゃんばかりに良い処は持って行かせないわ、御給金の分は働かなきゃねぇ』とか言いつつ、あくまでも前線には出ずジェックの後ろから術式を弾かせて、両脇は狭い壁、であれば逃げ道は上しかない。天から雨を降らすように、甘い罠が降り注いで。もひとつおまけに両脇の壁にも小粒の術式を放てば、其れは跳弾の様に壁に弾かれ男の元へ集約、さすれば甘く蕩ける女の柔肌の様に纏りついて、極上の毒牙が四肢を、思考を蝕んで。
 そんな風に呑気な戯言を宣う時間があれば鉛の雨を降らすには十分とも云える。アーリアの援護を受けて、バラララッ、バラララッと、決して近づかせないよう牽制の弾を撃ち、新しいマガジンをセットアップ。スライドストップを引いたなら、一層其の場にはそぐわない程緩慢なスピードで――ゆっくりと急所に狙いを定める。
 大丈夫、背中のアーリアがアタシを守ってくれるから。だからこそ、此の一発目で仕留めて見せようじゃあないか!
 此の後に及んで、未練がましい男は懐から別のナイフを取り出すと、辛うじて無事な方の腕を振り上げジェックに駆け寄る。此処まで来れば最早捨て身なのだろう、随分と仕事熱心なようで、可哀でもある。命を軽々しく棄てるのは感心はしないけど、と言ったのは何方だったか。
 正確無慈悲な一発の弾丸は追手の額を貫き――吹き飛ぶ様にして、どっと仰向けに倒れて行く。
 やれ、あんなに情熱的だった割に随分と骨が無くて弱っちい事。もっと、戯れたかったのにと地に軀を投げ出して動かなくなった男の心の臓にも派手な打音で華を活けて。でも、そう感じるのは頼れる相方が居たからこそかもしれない。初めて共に闘ったとは思えない程にカチリとピースが嵌まった気分で気持ちが良かったと伝えれば、其れはお互い様だった様で、笑ってしまった。

 PM/05:07
「ア、凄いネ、此のネイル。しっかり塗レバ、剥がれないモンなんダネ」
「でしょぉ? はい、そんな頑張ったジェックちゃんにプレゼント。同じブランドだから使い易いと思うわぁ」
 感心を示す共闘者パートナーに、ひとりの女友達としてアーリアが贈ったのは此れからの季節の前触れの様な、若草色が詰まったネイルボトル。
「わ、アリガト。大切にスル」
「いえいえ。はー……! おねーさん、お風呂に入りたいわぁ」
 其れより先に、細やかに祝勝会をしましょうだなんて、錆び付いた鉄の匂いがする路地裏を連れ立って後にする。
 カァ、カァ、と群がって来る鴉の聲を聴き乍ら、『今日は愉しかった』と、うんと背伸びをひとつして――

 作戦終了Mission complete.
 ――コンディション『至って良好All green!』。

  • Ma,mellow.Is what it is it it.完了
  • NM名しらね葵
  • 種別SS
  • 納品日2020年10月05日
  • ・アーリア・スピリッツ(p3p004400
    ・ジェック・アーロン(p3p004755

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