PandoraPartyProject

SS詳細

Better be good to me.

登場人物一覧

アイラ・ディアグレイス(p3p006523)
生命の蝶
ラピス・ディアグレイス(p3p007373)
瑠璃の光

 Something Old.なにかひとつ古いもの
 ――其れは、昨日迄のキミ。
   熱気を孕んだ追い風に吹かれる儘に、想いを募らせて行ったあっと云う間にも思える歳月。

 Something New.なにかひとつ新しいもの
 ――其れは、今、此の瞬間からのボク達。
   絶え間無く燃え盛って身を焦がす此の感情の名前を、太古の昔から人は『愛』と呼ぶ。

 Something Borrowed.なにかひとつ借りたもの
 ――其れは、隣。或いは背中。
   広い世界の片隅、ひとりで生きて行くには不十分なふたりだから分かち合った、軀の温もり。

 Something Blue.なにかひとつ青いもの
 ――其れは、腕の中で脈打つ心臓ラピスラズリ
   命の弱さと強さ、そして黄金に煌くパイライトを内包した、何よりも美しい宝石。

 茹だる様な夏の暑さも、夜の帳が下りれば幾分か和らぐと云うもの。
 鬱蒼と生茂る樹々の合間を縫って月が照らす小路を素足で駆ける、駆ける影ふたつ。衝動に突き動かされるかの様に手を取り合って進む其れ等は、軈て森の中で一際立派に青々とした枝葉を広げる大樹の根元で止まると、高鳴る鼓動を押さえ切れず脣を重ねて。
 触れる様に一度、二度、三度。
 そうして、擽ったいと上擦った聲で笑い合えば、澄んだ空気を胸一杯に吸い込んで弾んだ息を整える。――見つめ合って、数秒。今度は『嗚呼おかしい』と吹き出した。
 片や、白いナイトウェア。
 片や、白いネグリジェドレス。
 そんな格好で飛び出して来てしまったのだから。
「本当に良いのかい、アイラ。式場とか、ウェディングドレスとかさ」
「今直ぐに結婚式がしたいと、強請ったのはボクですから。其れも、ふたりきりで!」
 結ばれるなら、星がとびっきり良く観える素敵なこんな夜に――森の動物達もすっかり寝静まった時間。持ち出したレースのカーテンをヴェール代わりに纏えば、『似合いませんか』だなんてくるり回って微笑んだ。其の姿は、月夜の清光で白が際立って一層、神々しく輝いて見える程。清純なパールのネイルポリッシュを載せた形の良い指先が動いて『四』を示す。

「あのね、『Something Four』って、識って居ますか?
 なにかひとつ、古いもの。
 なにかひとつ、新しいもの。
 なにかひとつ、借りたもの。
 なにかひとつ、青いもの。
 是等を携えた花嫁は、幸せに為れるんだそうですよ」
 そんなおまじないを指折り数え、恭しく彼女は彼を抱き留めて背中に腕を回し乍ら。緊張で強張る貌を胸に埋めて――とくり、とくり、何時もより早く鳴る其れに酷く安堵して。己を抱き返す優しい腕の中で、もう迷わないとばかりに、ひとりにしか見せない極上の笑顔を咲かせてこう云った。
「用意しようとして、ボク、気付いたんです。嗚呼、無理に掻き集めなくても全部、持ってるって――
 ボクに取ってその全てが、ラピス。キミなんだって、そう、思ったの」
「……狡い、なあ。そんなの、狡いよ」
 其の抱擁は、今迄のどんなものよりも力強く。ひし、と掻き抱いて、少しだけ低い所に在る肩に顔を預けて『狡い、』とそう呟く聲は震えていた。愛らしい花はそんな彼の姿にすっかり狼狽て、恐る恐る子供をあやす様に摩って、彼が言葉を紡ぐのを待つばかり。
「そんな風に、ひとりで急に大人びないでおくれよ。君は婚約指輪エンゲージリングも要らないって云ったじゃないか。僕だって、男だ。格好付けたいのにさ」
「ええ、ええ。特大のダイヤも、誰しもが羨む様な素敵な結婚式も要りません。ラピス、キミさえ、居てくれたなら。他には何も」
 拗ねているとも取れる言い分に、然し笑う事なく返したのは実直に想うからこそ。
「かみさまの祝福だって、要らないんです。――嗚呼、でも、一つだけ。欲しいものが有ります」
「何だい?」
「誓って欲しいんです。あれを、ボクに」
 何処ぞの、名すら判らない素知らぬ神の御許で誓うのでは無く。そして、ふたりの出逢いも亦――神の導きなどではないと証明したい。況してや、運命だとか必然だなんて崇高なものでもなくて。実の所は、ひとりでは生きていけない寂しさと痛みを分かち合う為に手を取り合った『キミ』と『ボク』等にお似合いな、そんな言葉が何時だって、欲しかったのだと。
 緩々と貌を挙げたラピスは手の甲で目元を擦ると、くしゃくしゃに笑って、其れを合図とアイラも腕を解く。
 掌を重ね合って、指を絡めて。

「健やかなる時も」
「――はい」
 そんな時は、目一杯。きゃらきゃら、笑おう。

「病める時も」
「――ええ」
 そんな時は、泪は惜しげなく。一緒に泣こう。

「君を愛し、慈しみ」
「キミを愛し、慈しみ――死がふたりを、分かつとも」
 何時か、皺皺のおじいちゃんとおばあちゃんになった時だって。

「此の手を離さない。僕は、アイラ、君に誓うよ」
「ボクもラピス、キミに。そして此の命に、誓います」

「やっぱり今夜は、アイラの方が上手だ。僕も此の命に誓うよ。指輪の交換をしても?」
「此れだけは、まだした事が有りませんでしたものね」
 リングケースの中で出番を待ち侘びていた結婚指輪マリッジリング。此れだって、特段上等なものでは無かった。ショウケェスの数ある指輪の中から選び抜いたのは、宝石と云う輝く甘い蜜に白銀の蝶が口付け翅を休めるデザイン。『ふたりの為に作られた様じゃないか』だなんて燥いで迎えた其れを緊張した面持ちで、左手の薬指へと贈り合えば、月光に翳し――指元から今にも滾れ落ちそうなきらきらしたひかりの眩さに眸を細めて。漏らした言葉は、奇しくも同じ。

「此れで『僕』『ボク』は――」

 ――『君』『キミ』のもの。

「ねえ、アイラ。聴いてくれる? 君に伝えたい事があるんだ」
「ふふ、此れ亦、奇遇ですね。ボクもラピスに言いたい事があるんです。お先にどうぞですよ」
「うん。一寸、長くなるけれど――僕は『ラピス』。そして、僕らは其の儘では唯の石。だから家名を持たないんだ。
 君と出逢い、恋をして、愛し合って…… こうして一緒になれた。
 そうしてやっと、僕は僕と言う一人の人として、生まれ変われたんだと思う。だから有難う」
「はい、……はい。
 ボクは…… ボクは、『アイラ・ローリイット』。炎の一族の、出来損ない。幽閉された忌み仔。
 キミだけがボクを、心から、愛してくれたの。赫にも勝る程、燃え盛る気持ちを、教えてくれたの。
 ……ボクと結ばれてくれてありがとう、ラピス」
「うん」
 其れからのふたりは、ずっと愛おしい手を繋いで大樹の根元に軀を投げ出し話し込んだ。
 出逢った時の事。
 恋心を自認した時の事。
 初めてキスをした日、余りに心臓が煩くて暫く寝不足だった事。
 君が振る舞ってくれる料理は何時だって優しい味がする事。
 軀を抱き締めた時にふわりと漂う花の香が好きな事。
 『女の子みたい』なんて揶揄う人も居るけれど、ボクしか識らない男の子らしい君の事。
 実は自分は、存外嫉妬深いって気付いた時の事。
 そして。どんなにお互いが愛おしくて堪らないかを。

「……あ、ラピス。御免なさい、前言撤回です。欲しいもの、もう一つ有りました!」
 瞼もとろんと重たい、空も明るみ始めた頃。勢い良く身を起こして居ても立っても居られないと慌てふためいた様子を見せるアイラに、ラピスもただ事では無いと起き上がる。夏の暁を映した氷蒼アイスブルーが不安と期待と興奮と――そんな感情を綯い交ぜにした様に揺り動く。
「教えて。僕、君が欲しいって言ってくれるのなら、どんなものだって叶えてみせるよ」
 そんな落ち着きの無い双眸に反して、覗き込んだ天の瑠璃は嬉々としたもの。彼女が望むなら何だって、其の心に嘘偽りは無い。
「ボク達、結婚……したんですよね」
「うん」
「さっき、『家名を持たない』ってラピス、言ったじゃないですか。
 ボクもローリイットとは訣別した身。折角だから、此れからは一緒に名乗れるものが欲しいんです」
「そう云う事なら、喜んで。でも、悩んでしまうね。文字通り『一生物』だから」
「――『deargraceディアグレイス
 なんて云うのは如何でしょう。『あなたの虜』だなんて。そんな意味です」
「成る程、僕達らしいね? けれど、」
「けれど?」
「そんな素敵なものを、貰ってしまっても良いのかい。
 君が名乗ってる所を考えただけで、恋しくて、恋しくて――胸がはち切れそうに為ってしまうよ」
「ええ、キミの事を想う此の揺るがない気持ちを、強くしてくれるって。そう、思ったの」
「口にする度、君の事が…… 自分だって好きになる魔法の言葉じゃあないか。うん、僕も。其れが良い」
 嗚呼、まるで甘い夢の中に居る様。此の名を継ぐ者が現れたとして――そして、自分達の思いも寄らない後世まで語り継がれる事に為っても、何時も其の傍に、最初のふたりが愛し合った日々の物語が寄り添うのなら。少し、こそばゆいけれど、此れ以上ない、身に余る程の幸福だ。

「結局、ラピスは。ボクの欲しいものを全部、くれましたね」
 如何か、夢ならば醒めないで。安堵したのか、そんな風に少し眠た気な聲で辿々しく謳う彼女に、夢じゃないさと首を振る彼だって何処か夢見心地で。

「嗚呼、なら最後に……――誓いのキスは、何れ位が良いかな?」
「其れはもう、すっかり朝が来る迄――たっぷりと!」
 深く、深く。薄れ陽の中で惹かれ合う儘に求めれば。右と左に在る片翼同士がちりりと揺れて、伸び伸びと翅を広げる。其の日眺めた朝陽は筆舌に尽くしがたい程の絶品。
 喩え、其れが万人には何時も通りの何て事ない一日の始まりだったとしても、屹度忘れない――家路を辿り乍ら踏み締めた土の匂いを。朝露の伝う種々のひやりとした冷たさを。『ねぇ、ボクら、何処までだって行ける筈』だなんて――そう、信じて止まないふたりが、確かに居た清々しい朝の事を。

  • Better be good to me. 完了
  • NM名しらね葵
  • 種別SS
  • 納品日2020年08月23日
  • ・アイラ・ディアグレイス(p3p006523
    ・ラピス・ディアグレイス(p3p007373

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