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カラフルアドベンチャー
登場人物一覧
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青く霞む山稜から、太陽が顔を覗かせた。
「む……」
鮮烈な光に照らされた感覚でカルウェット コーラス(p3p008549)は目を覚まし、ぱっちりと目を開く。
もたれかかっていた大木の幹から体を起こして、桃色の瞳で辺りを見回した。
頭上から可愛らしい声が聞こえたので見上げると、枝に止まった小鳥が囀るのを見つけて、カルウェットも真似をして鳴いてみる。
「ち、ちち……」
舌っ足らずな声に、返事をするように一度囀ると、ぱっと羽を広げて飛び立った。
真似して両手を羽ばたかせてみるが、一向に体は浮き上がらない。
「……やはり、羽、必要? むむむ」
そんなカルウェットの横を、ぴんと伸びた鉤尻尾が通り過ぎていく。
「はっ、隊長。猫隊長、ついてく、するぞ」
この付近が縄張りらしい茶トラ模様の猫こと隊長の頼もしい背中を見て、昨日見つけたまっすぐな棒ーー剣のようでかっこいい棒を拾って追いかける。
「ふんふんー♪ ボク、つよいぞー! ボク、まもるぞー! ぶんぶんぶーん♪」
でたらめな音階で明るいマーチを口ずさみながら、花や丸いすべすべした石を拾い上げると、目を輝かせてポケットに詰めていく。
「これは、すごいぞ。宝物。持ち帰る、する」
見つけた小石を拾う間に、隊長はずんずんと先に行ってしまう。
「あ、隊長。待つ、追いつくぞ」
慌てて大きく見える背中を追いかけて、カルウェットは町へと足を踏み入れた。
細い裏通りを抜け町の大通りにでると、ネコ隊長は人混みを器用に避けてするすると先を行ってしまった。
角の感覚を頼りに追いかけるが、とうとう小さな姿を見失ってしまう。
しょんぼりと肩を落としたカルウェットの鼻先を、風と共に何かが掠めていった。
香ばしい香りに朝食を食べていないことを思い出し思わず振り向くと、そこにあったのは小さなベーカリー。店先の硝子ケースの中には、パンや焼き菓子がずらりと並んでいる。
「おや、迷子なのかい」
奥から出てきた気風の良い女性が身をかがめて声をかけた。
「カルウェット、いう。迷子、困った。助ける、してください」
眉尻を下げどうしようと首を傾げたカルウェットだが、先ほどとは違う匂いに目を輝かせて辺りを見た。それは女性の持つトレーの上から漂っていた。
「……それ、なに?」
「これかい、これは店自慢のレモンパイさ。食べていくかい」
「食べる、する!」
お腹がすいたでしょう、とカルウェットを背を優しく押してテーブルへと促した。
切り分けられたパイにフォークを入れ口に運ぶと、香ばしいタルト生地と甘酸っぱいレモンの香りにぱっと目を輝かせる。
フォークでひと口分取り、口の中へ。
ふわふわのメレンゲが蕩けた後に、甘く爽やかなレモンカードの風味が遅れてやってくる。
舌の上で小さく弾けるような刺激が真新しく、だが心地好い。
「おいしい!」
「たんとお食べ」
それから1ピースが消えるまで、あっという間だった。
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ご馳走様でしたと笑顔で手を振りベーカリーを後にすると、隊長捜しの再開だ。
手に持ったかっこいい棒を振りながら、町の奥へ――薄暗い方へと分け入っていく。
「隊長、どこ行く、した?」
感覚を研ぎ澄ませ辺りを探れば、不穏な声が聞こえてきた。
「隊長、いた」
急行すると、そこには隊長とにらみ合う一人の柄の悪そうな男。
片手にナイフ、もう片方の小脇には不釣り合いな小綺麗な鞄を抱えていた。
一人と一匹がにらみ合う。
低い唸り声が響く度、焼け付くような緊張が辺りに満ちていた。
「見つけたぞ! そいつはスリだ、俺の鞄を盗みやがって」
そう言いながら走ってきた男は、眦を釣り上げて盗人に食ってかかる。
「盗ってくださいてばかりに暢気に抱えてる方が悪いんだよ」
盗人は観念しないどころか、一歩踏み出したカルウェットに向かって、でたらめにナイフを振り回した。
「それ、違う。他の人のもの、盗る。悪い、だめ」
カルウェットの淡々とした言葉と、そこに滲む悪事への痛烈な批判の声。
逆上した男は腰のナイフを抜き、カルウェットに襲いかかる。
拾った棒で受け止めたが、真っ二つに切れ腕を斬る。
痛みなど意に介さず、レプリカの剣を抜いてナイフを弾いた。
「悪い、だめ。お天道様、見る、してる。カルウェットも、怒る」
忌々しげにカルウェットを見下ろす瞳に臆する事なく、真っ直ぐに見上げて返す。
「もうしない、約束」
分が悪いと悟った男はチッ、と舌打ちをして鞄を置き走り去っていった。
「猫隊長」
その背中に向かって隊長がしゃーっと威嚇する。
「あ、ありがとうございます! その、腕の傷は……」
「ん、気にしない。すぐ治る。カルウェット、強い。それに、隊長も。お手柄」
ささくれだった気持ちを宥めるように毛繕いする隊長を促して、じゃあ、と手を振って歩き出すカルウェット。
今日の寝床はどこにしようか、と考えながら町の夜闇に消えていった。