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リトル・リリーと傭兵集団"Little"の日常

登場人物一覧

リリー・シャルラハ(p3p000955)
自在の名手
リリー・シャルラハの関係者
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リリー・シャルラハの関係者
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リリー・シャルラハの関係者
→ イラスト

●再会
「もはやここまでだな、悪徳商人スネーク?」
 真っ白なボブカットが特徴的な王子様のような女の子が魔剣を翳して追い詰める。
「ま、待て! 話せば分かる! ん? あれは何だ!?」
 もはや後がない悪徳商人は深夜に輝く満月を指して絶叫する。
 魔剣の王子、いや、リトル・アーサーが一瞬の注意を奪われた隙に敵の増援が出現した。
「わはは! これで貴様も終わりだ!」
 悪徳商人が高笑いする中、アーサーが精鋭に包囲されてピンチに陥るが……。
「ふん、卑怯者。まとめて成敗してくれる」
 野盗の精鋭達とアーサーの熾烈な剣戟が始まる。
 アーサーは魔剣に祈りを込めて必殺の一撃で仕留めていくが多勢に無勢だ……。
「やっちまえ、お前ら! この女を生け捕りに……」
 悪徳商人が下劣な台詞を言い切る前に魔弾が彼の首筋を駆け抜けて深紅色に染める。
 まさかの雇い主の突然死に驚愕した残党達は血相を変えて逃走した。
 アーサーは遠方の建造物屋上にいる人物に向かって感謝の手を振る。
「ありがとう。助かった。流石に狙い通りだな?」
 屋上では蒼い帽子を被るクールビューティの女の子が狙撃していた。
 標的を暗殺した魔導ライフル銃を下ろすとアーサーに向かって手を振る。
「アーサー、お疲れ様です。ミッション終了ですね。では、早いところ引き上げましょう」
 銃士の娘、いや、リトル・ライは魔銃をケースに収めると即座に退場した。

「……と、いうのが今回の依頼の事の顛末だ」
「……もちろん、暗殺をした際には証拠を残さずに迅速に撤退しました」
 時と所が変わり、傭兵集団"Little"の本部でアーサーが依頼遂行の報告をする。
 アーサーの大まかな報告にライが細かい事情を付け加えて補足する。
「うん、依頼の遂行ご苦労様。そこまでやれれば上出来かな? はい、これが今回の報酬ね。あと深夜過ぎの仕事だったから割増料金も入れておいたよ」
 当傭兵集団のギルド長であるハルカ・ファルジア博士は団員達の働きぶりにご満悦だ。
 今回の依頼は街の辺境で卑劣な人身売買等を行う悪徳商人の暗殺依頼だった。
 ハルカも気が気でなかったが問題なく依頼が成功して胸を撫で下ろす。

「さて、ご飯でも食べなさいね?」
 既に時刻は朝食の時間帯過ぎなのでそのまま朝ご飯になる。
 本日のメニューは、ハルカ特製の『傭兵リトル朝ご飯定食Aセット』である。
「ふぅ、やっと朝飯か……。いただきます」
「わぁ、今朝は特製のA定食ですね!? いただきます……」
 皆で朝ご飯の食卓を囲んでいると……。
 ギルドのドアがノックされて、ドア越しの鈴の音が響いた。
「やっほー、遊びに来たよ」
 朝から元気溌剌で飛び出るように現れたのは『緋色の翼と共に』リトル・リリー(p3p000955)である。
 リリーは登場したと同時にライやアーサーに勢いよく抱き着いた。
 ライとアーサーも勢いをつけて抱き返す。
『リトル』の挨拶はスキンシップを大事にしているのである。
「リリーお姉ちゃん!! わたし、とっても会いたかったのです!!」
 シスコン気味のライは姉として慕っているリリーと再会出来て感涙する勢いだ。
 いや、数日前にも会ったばかりではあるが……。
「リリー、元気にしていたか? 腹は減ってないか? 特製定食でも食うか!?」
 リーダー気質のアーサーもリリーとの再会に感激しつつ親分のように心配してくれた。
 アーサーにしても数日前に会ったが、リリーとの再会は常時嬉しいものである。
『リトル』達の微笑ましい再会を眺めながら、カウンター越しにいるハルカも笑顔だ。
「リリー、よく来たね? 今日はゆっくりしていって。積もる話でもしようか?」
 ハルカも数日前にも会っているので、積もる話とは世間話の事である。

●世間話
「で、最近どうなのリリー? 昔の事は段々と思い出せているかな?」
 ハルカは「発明者」という意味でリリー達『リトル』の生みの親である。
 親(=博士)という立場からまずはリリーの体調面を気に掛けてあげた。
「うん、日に日に思い出してきてるかな……? もちろん、ここにいる仲間の皆のことは、ちゃんとわかるよ」
 何気ないハルカとリリーのやり取りだがライは泣きそうな顔で頷く。
「うんうん、良かったです。最初の頃はリリーの記憶がなくて……わたし、辛くて仕方がありませんでした」
 アーサーも曇った表情で会話に加わりライの背中をそっと撫でる。
「まあ、あの頃はライも泣いちゃったもんな。でも思い出してくれてマジで良かった」
 リリーが混沌に飛ばされて間もなかった頃は特に記憶面で痛ましいものがあった。
 今だからこそ「記憶ロック一部解除」が出来て色々な事を思い出せている。
 元の世界の事も、元の世界で一緒にいた仲間達の事も、そして彼女自身の事も……。

「もっとも、その発端となる前日談はリリーの暴走劇だったよね……」
 ハルカが哀愁を込めてコメントするとライとアーサーが愉快に笑い出した。
「うん、アレ、すごかったですよね。『失敗作』のわたしたちが餌になる寸前で実験動物を暴走させて研究所に歯向かったリリーは、素直に尊敬してしまうのです……」
「あの頃からリリーは私達のヒロインだった。しかし、アレが原因で記憶が封じられてしまったのは私達としても面目なかったが……」
 ライとアーサーがしみじみと語るのは混沌世界へ飛ぶ前のリリーの武勇伝である。
 リリーは『リトル』の皆を助ける為に奮闘した結果、記憶回路に処罰を受けたのだった。
 あの頃の話をされて、リリーは頬を朱色に染めてしまった。
「ふぅ、私もあの時は一生分の冷や汗かいたよ……」
 ハルカもコーヒーを啜りながら当時を振り返り溜息が出た。
 思えば、ハルカにしても当時のリリー達を他の研究者から守る事で精一杯だった。

「だけれど……。今なら分かる。私達は正しかった。あの研究所から皆で逃れて混沌世界に飛んだのは意味があったはずよ」
 なぜならね、とハルカは眼鏡を掛け直しながら微笑して答える。
「皆、感情があるから……。『リトル』達だって、人間そのものではなくても感情があって生きている訳だから……」
 ハルカの思いを繋ぐようにライがにこやかに続ける。
「ですね。わたしたち『リトル』は『失敗作』と罵られようとも、感情を持って生きています。もちろん、わたしだって、アーサーだって、リリーだって、他の『リトル』たちだって……。感情があるからこそ、毎日、楽しいことも悲しいこともあるわけです」
 ライが馳せる思いに今度はアーサーが答えを紡ぐ。
「そうだな。ハルカさんは『私達の感情』を大事にしたいとずっと主張してくれていた事で研究所とは対立していた。そしてその結果、私達は混沌世界へ逃げる事になった。それでも私達、傭兵集団"Little"はこうしてお互いを思いやり大切にし合っている……」

 皆で積もる思い出話をしていると最後にリリーが締め括った。
「うん。ハルカさんは間違ってなんかいない。そして『リトル』の皆も正しいよ。だって、今、こうして皆でお互いの気持ちを確認しながら昔のお話ができているから。それに『美味しい』って感情があるからこそ、こうして朝ご飯が皆で『楽しく』味わえるんだよね?」
 リリーはとても良い事を言っているようだが、後半の話がややこんがらがっている。
 そんな『まとめ』を聞くと、もうこれは笑う以外になくて、皆で大笑いした。
「リリー? 分かってないんじゃないかな、結構のほほんとしてるし……」
 ハルカがツッコミを入れて、リリーがボケたポーズをすると、また皆で爆笑した。
 そんなリリー達と共に笑うハルカは、彼女達が心のある複製体であると断言出来る。

 プロジェクト『小型複製体リトル』……。
 天才的な暗殺者の魂を小型複製体に封印して従順な殺人兵を量産する計画……。
 無論、小型複製体は暗殺道具に徹する為に感情を持つ事は許されなかった。
『感情』が芽生えた小型複製体は『失敗作』として皆、処分される末路だったのだ。
 ハルカは昔も今もそんな研究計画を許せなかったからこそリリー達の側にいる。
 そんなリリーという存在は、自己犠牲になってまでも仲間達を救った正義なのである。

●カムイグラへ
「そうだねぇ……。最近のローレットのホットな話題と言えば、カムイグラかな?」
 世間話が最近のローレットに変わった所でリリーが話題を提供する。
 傭兵集団の面子はそれぞれ思いを巡らせて考え込んだ。
「最近話題のあの有名な話か……。先日も『海洋』の仕事伝いで聞いたよな……」
 アーサーが真っ先に反応してくれたが噂話にはうろ覚えらしい。
「そうですね……? ローレットだったかが発見した何処かの島だと思いますが……。ううん、ごめんなさい、詳しく知りません。ハルカ博士、解説をお願いします!」
 著名な話題ではあるがライも詳細を押さえていないのでハルカに詳解を求めた。
 ハルカが、こほんと咳払いすると滑らかな口調で皆に説明する。
「カムイグラ……。通称、『豊穣郷』とも呼ばれているね。かつての『絶望の青』と称されていた海域先に存在していた新天地。『豊穣郷』の名の通り、豊かな恵みを得られ、黄金の穂(米)が美しい場所であると言われている。陸地の名前は現地民の間だと『黄泉津(よもつ)』とも呼ばれているらしい」
 流石に頭脳明晰なハルカは既にカムイグラの情報を押さえている上に解説が出来る。
 だが、彼女と雖もローレットではないので全て伝聞による情報を元にした解説である。
「ハルカさん、その通りだよ。リリー達、ローレットが発見した新大陸だね」
 胸を張るリリーをハルカが良い子だと言わんばかりに彼女の頭を撫でる。
「うん、よく頑張った。何しろ、『絶望の青の向こうに国があった』『黄泉津と呼ばれる場所がある』『カムイグラ』等の文言は『絶望の青』踏破前は誰も知らなかったものね」
「なるほどですね、勉強になりました。ハルカさん、リリー、解説をありがとうなのです」
 一つ賢くなったライが目を輝かせて礼を言う。
「たしかに、そういう話だったよな……。改めて解説をありがとう」
 アーサーも噂話の詳細を思い出すと笑顔で感謝する。

「ところで、そのカムイグラだけれどね……。実はうちの傭兵集団からも調査隊を派遣しようかと考えているんだよ。そこで、『リトル』達にカムイグラまで出張して貰いたいのだけれど……」
 ハルカは何気なく提案しているようだが、実は調査隊派遣を以前から計画していた。
 新大陸の先には傭兵集団にとって何か重要な情報があるかもしれないからだ。
 例えば、さり気なくカムイグラに『リトル』がいたり等という展開もあり得る。

「あ、だったら『ワープポイント』を使えばいいね。そうしたら皆でカムイグラの『此岸ノ辺』へ一瞬で行けるよ?」
 リリーが明るい表情で提案してくれたがハルカは残念そうに首を横に振る。
「もし、私達が『ローレット』だったらね。その手段は使えたけれど……」
 ライの頭上に疑問符が浮かびハルカに尋ねる。
「えっと? どういうことなのですか? ローレット限定ですか、そのワープ?」
 事情を知るハルカが続けて解説してくれる。
「うん、実は、その『ワープポイント』というのはね……。先の戦いでリヴァイアサンを封印する等して大きな武功を挙げたイレギュラーズにだけ与えられた特権だね。彼らがカムイグラに到達して新大陸との『縁』が結べたからワープなんていう芸当が出来るんだよ」
 その解説にアーサーが思い出したかのように声を上げる。
「ああ、そうだった。私達は『ワープ』が使えないんだよな……。それにローレットがあのリヴァイアサンを封印したって話で『海洋』の宴会騒ぎがあった事は記憶に新しい」

 しかし、ワープが利用出来なくても船で旅をする事ならば出来るだろう。
「話を戻すけれどね、私達の傭兵集団がカムイグラへ向かう場合、『海洋』から船を借りて行く事にしよう。幸いにも船の手配であれば『海洋』に知り合いがいるから何とかなるよ。問題は、『誰』を派遣するか、だけれど……」
 ハルカが各『リトル』達を一瞥して問い掛けると……。
 アーサーが即座に挙手して反応した。
「私が行く。傭兵集団"Little"の為でもあるが、私個人としても、あの海を越えた先に現れた新大陸に興味がある。そして皆、その新世界に不安があるのもまたしかり。そうであれば、『リトル』の隊長格である私が先陣を切って開拓するべきだろう」
 相変わらずの「王子様」の勇敢さに感心してハルカが大きく頷く。
「よし、アーサーは決定だね。役職もカムイグラ調査隊の隊長。ライはどうする?」
 ライはしばらく腕を組んで思案していたが……。
「わたしは……ここに残ります。傭兵集団の普段の業務もありますが……。何よりも大勢で調査へ出向くのもアレですし……」
 アーサー隊長による調査隊が近日中に編成される流れになるが、ハルカ自身も残る。
 なぜなら、傭兵集団"Little"の指揮官としてこの場を守らなければならないからだ。

「へぇ~、アーサー達もいよいよカムイグラへ行くんだね? ねぇ、リリーにも何かできることがあるかな?」
 リリーの温かな申し出にハルカが冷静に傭兵集団"Little"の指揮官として告げる。
「リリーはそのままローレットと行動を共にしてカムイグラの調査をしてみてくれる? もしかしたらアーサー達と現地で再会するかもしれないからね……」
 どうした訳か、ハルカの提言は『ローレットと行動を共に』との事だ。
「あれ? ハルカさん? リリーとの仕事をローレットにあげちゃってもいいのかな?」
 アーサーが冷やかし半分に質問する。
『リリーを奪った』ローレットに対して良い感情がない立場からすると意外かもしれない。
「まあ、ですが、リリーはローレットでも上手くやっていますから……」
 ライがハルカをフォローするが、ライ自身も内心は複雑であるようだ。
 それでも、ローレットと共に生き生きと仕事をしているリリーの一面も知っている。
 あるいは、ローレットに対して反逆の牙を剥くのが危険な事も分かる。
 だから今は、ひとまず『ローレットとは友好関係』という事にしておく。
「でもね、リリー? もし、ローレットが倒産したとか、何かの事情で頼れなくなったら、真っ先に私達を頼るのよ? それだけは約束ね?」
 ハルカの親身な助言を受けるとリリーも無下には出来ない。
「うん、それは約束する。リリーにとっては、傭兵集団"Little"もローレットも、どっちも大事な仲間だよ」

 さて、新大陸ではリリーや傭兵集団"Little"に如何なる運命が待ち受けているのだろう。
 そして、傭兵集団"Little"とローレットの緊張関係が氷解する日は訪れるのだろうか。
 新大陸の開拓を目指す皆の瞳には期待と希望の色が映っていた。

 了

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