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I wanna k!ll your all.
登場人物一覧
●アーマデルと金持ち男
殺せと言われた。
だから殺そう。
死ななければいけない命の芽を摘むだけなのだから。
アーマデルが握った曲刀は血を啜ってより一層輝いたように思われた。
邪魔をするものはすべて殺した。
護衛も、メイドも、騎士も、子供も。
復讐されてしまうかもしれないが、その時はその時だ。
暗殺を依頼されるほうが悪いのだから。
鍵はかかっていなかった。
ノックもせずに扉を開けた。
「ご、護衛のものは?! 貴様は誰だッ!!」
「俺がなんだっていいだろう? どうせもう助からないよ、アンタ」
「く、来るなッ!!」
足音を殺す必要はなかった。
質のいい赤の絨毯は、足音も血の色も消してくれそうだな、と思うだけだった。
寝台にいる男は慌てふためくが、その身にまとったバスローブが邪魔をして動けないようだ。
笑ってしまった。
悠長に飲んでいたであろうワインはシーツに赤黒いシミを作る。
どうせならばじっくり追い詰めて、そのあとで殺してみよう。
微かにゆがんだ口元。男は怯え――、
「あ゛っ!?」
ドスン。
鈍い音。
ベットから落ちた。
自分で。
(ええ……)
若干の楽しみを奪われたような心地。
男の音はしない。呼吸の音も、消えたように思われた。
「おーい……? あっ」
ぱくぱくと魚のように口を動かす男。
やがて、それも消え。
男の命の灯はあっけなく消えてしまった。
「……首の骨が折れたのだろうか。
超えてるしまあ、仕方ないことなんだろうな……」
帰ろう。仕方ないけれど依頼は終わったのだ。
そう思い扉の取っ手に声をかけたその時。
「私は死んだのか」
男の声。あまりにも冷静な。
「おいお前、もし聞こえているのならこっちを向いて少し話でもしていかんか。
どうせ死んだんだ、もう呪うことすら叶わんだろうさ」
生きているときは未練がましく吠えていたのに、死ねばこんなにも簡単に声をかけてくる。
人間とはよくわからない生き物である。
思ったよりも早く終わってしまったし、どうしたものだろうか。
成仏してもらわないと帰れないが、素直に従ってやるのは少々気に障る。
「おい、聞こえとらんのか。この間抜け」
「は? もっぺん死にてえのか、このくそジジイ。
俺はお前のすべてを根絶やしにすることもできるが?」
「死ぬときはだいぶ痛い、というか衝撃なんだぞこの小童め。
まぁでも、そうだな。これ以上は勘弁だ」
思ったよりも、見た目のわりに物分かりはいいのかもしれない。
男の血もワインも染みていない、シーツの白い部分に腰掛ける。
ふかふかのベッドはいとも容易くアーマデルの体重すべてを包み込む。
「まぁ。満足するまで、はなせば?」
深くうなずいた男。
その瞳の輝きに気付いたころには、もう遅かったのだが。
●意気揚々
「女の味はしっておるか? 知らんのなら早く味わったほうがいい。
なんなら私の金をもってかえって使うとよいわ。それで女を買え。そしてここでやれ。
いやあ、女は最高だ。嫌がる顔がまた興奮を煽ってくるのだが……なんだその顔は」
「嫌がってる時点でやめてあげるべき……」
「わかっとらんな。そもそも女というのは――、」
(理解するつもりもないんだけどな……)
だの。
「至高のボン・ボン・ボン体型のくびれがあってな?
あふれんばかりの胸、柔い腹、くびれと豊満さを併せ持った尻が――、」
(どこがくびれてるんだろう……)
だの。
「やはり胸は大きいほうがいい。乳房が大きければ揉みごたえもある」
「……」
「ああでも平原でないとだめだ。己の手で育てる楽しみもある」
「……」
「いや、違うな。胸はサイズじゃない、フィット感だとは思わないかね」
(さっき、でかいほうがいいって言ってたしその前は平原じゃないと駄目だと言ってた。浮気は、よくない……)
「お主はどう思う」
「別に、どうも……」
ふと。
扉の向こうに人の殺気を感じ、アーマデルは武器を構えた。
「アーマデル!!!」
扉を蹴飛ばし入ってきた男は仲間であり先輩。
「お前、帰りが遅くて心配してたんだからな……悠長に霊と話なんかしやがって。
とっとと成仏させて帰るぞ。ほら、準備しろ」
「おいお主、私はこいつと話しているんだ。
まだ成仏なんてするつもりは――、」
「死者の意志など聞いていないし尊重もしない。
お前の都合は関係ない。だからお前は死んだのだ」
無慈悲な現実。
死者である男は黙るしかなかった。
先輩はてきぱきと『作業』を終えると、アーマデルに微笑んだ。
「まったく、厄介なヤツだったな。
帰ろう。皆が待ってる」
差し出された手のひら。優しい声。
しかし帰ればこれよりももっと長く絶え間ない説教が続くことだろう。
(それは、嫌だな……)
複雑な気持ちになりながらも、アーマデルはその部屋から一歩外へと踏み出した。