PandoraPartyProject

SS詳細

茶色くて羽毛がふわふわしていそうな とり

登場人物一覧

アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
アーリア・スピリッツの関係者
→ イラスト

 その日、アーリアは安価に葡萄酒を数本譲り受け、道を歩いていた。帰路を辿り、今日の晩酌は葡萄酒と一緒に何を頂こうかなと日々の暮らしを豊かにするコツの様に一品だけの贅沢を追加する事を考えていた。――考えていたのだ。
 道の隅に茶色い何かが落ちている。アーリアは「あらぁ?」と首を傾いだ。何かしら、なんて言う前に茶色い何かはごそごそと動き出し――勢いよく飛び上がった。
「ギ、ギエエエエエエ。噛まないでエエエエエ」
 叫び声を上げて跳ね上がる茶色くて羽毛がふわふわしていそうなその生き物にアーリアはぱちりと瞬く。
 まるで陸地に打ち上げられたばかりのアザラシのような動きを繰り返すそれは苦しげであり、そして自身に寄生虫が付いたマンボウが跳ね上がってその身から寄生虫を振り払おうとしているようであり、つまり――『やばそう』に見えたのだ。
「も、もしもし……?」
 声掛けた刹那、ぴたり、とその生き物は止まった。そろそろと転がるようにしてアーリアの方を向く。

 ………鳥だ。

「とり……?」
 思わず唇から溢れだしたその言葉に勢いよく茶色くてもふもふした生き物が起き上がる。今まで何かに齧られて居るような仕草を見せていた茶色くてもふもふした生き物は慌てたように自身に噛み付いていた犬を引き剥がす。
「鳥ですと!? 断ッじて、鳥などではございません! 確かに私は美味しいですが、鳥などではないのです!
 私には『勘解由小路・ミケランジェロ』という素晴らしい名前があるのですよ! ハッ、そちらの二足歩行の貴女……お名前を伺っても?」
「わ、私……? ア、アーリアよぉ……」
「アアーリアさんですか! 宜しくお願いします!」
「あ、ううん、ごめんなさいねぇ。私はアーリアよ」
「アーリアさんですね! 私のことはお気軽にミケとでもお呼び下さい!」
 突然小さな翼をぱたぱたとさせる自称勘解由小路・ミケランジェロは身長にして1m20cm程度であった。しっかりと隣に立たれるとそれなりにでかい。とてもでかい。異質な混沌世界の生物と云うよりも会話が成り立っている時点で特異運命座標で有るかのようにも思える。例えばパカダクラやカピブタではなく――もっとこう……仲間のたい焼きみたいなあの人なんかが脳裏に過った。
 この際、会話が成立するのならば聞いてしまった方が良い。思い切ってアーリアは勘解由小路・ミケランジェロこと通称ミケへと問い掛けた。
「その、ミケくん? ちゃん?」
「あ、性別はオスとなります」
「ならミケくん? ミケくんね。ミケくんって……そのぉ……獣種とか飛行種とか……種族的にはどうなるの?」
 その姿は獣種や飛行種の所謂動物形態を思わせる。身長も大きめである時点でもしかすればかろうじてペンギンの雛ですと言われる可能性もあるのではないかとさえ考えたのだ。
「いいえ、旅人です」
 旅人だった。そこから彼(?)は語り出す。

 ――――勘解由小路・ミケランジェロの思い出話である。

 勘解由小路・ミケランジェロはその世界では健鶏王国の王位継承権3位に該当する王子であったらしい。
 と、云っても生みの母であるマリアは側室であり正妻の子である第一、第二王子が優遇されるばかりの毎日だ。
 自身が王になる道がないことは健鶏王家の遠縁の親戚筋である勘解由小路家へと養子に出されたことで気付いていた。そして、自分の姉が悪役令嬢で何処かの世界から来た転生者と言うことを知ってしまったミケランジェロは此の儘では姉と一緒に破滅してしまうと一念発起し王子たちと仲良くした。勿論、転生者の姉からすれば『悪役令嬢に転生したけど破滅を回避するために義弟が頑張ってます!』状態なのである。
 それを知りながらもミケランジェロは日々頑張った。頑張って、頑張って、頑張って……ある日、第二王子の策略で油湖に落ちかけた時に目を開いたら空中庭園だったと言う。

「そう……」
 アーリアは遠い目をした。ミケランジェロの言が何処まで本当であるのかは分からない。
 茶色くて羽毛がふわふわしてそうなとりなのだ。只、その見た目が美味しそうなチキンにしか見えない。『健鶏王国』とかいう国の名前も気になるし、転生者の姉のことだって気になってくる。彼の世界のことも気になってきた頃合いで、ふと思い出したようにミケランジェロはごそごそと荷物を取り出した。
「あ、お近づきの印にどうぞ」
 其処にあったのはミケランジェロを掌サイズにした様なチキンであった。アーリアは「ええ……」と小さく声を漏らす。どう見たってミケランジェロだ。とても美味しそうなスパイスが香ったチキンを五度見したあとアーリアはごくりと喉を鳴らす。ああ、このチキンをお供にするならばビールだろうか。あの黄金色の液体をくいっと喉まで流し込んで油のギトギトとした感覚もすっきり爽快なのだ。ああ、それにワインだって良い。そんなことを考えてからミケランジェロを見る。彼も、ああ、美味しそうだ。美味しそうな……チキンに見える。
「このチキンって普段から持ち歩いているの?」
「ああ、私の体の一部ですよ。とっても美味しいので……」
「え……?」
「私もスパイスがきいてぴりりと美味しいですから」
「ミ、ミケくんって……食べれるの……?」
 恐る恐るとそう言ったアーリアはそろそろと近づいて――ミケランジェロを掴む。匂いがする。美味しそうなスパイスの匂いだ。ごくりと喉が鳴った。手を伸ばして――

「えっ!?」
 がばり、とアーリアは起き上がる。その視界に入ったのは何時もと寸分違わぬ『日常』の光景だ。先程までの『健鶏王国』からやってきたという勘解由小路・ミケランジェロというチキンは夢であったのだろうか。
 そういえば――とキッチンへと足を進めればかぐわしい香りがする。食事の用意をして眠った覚えはないけれど。そう思いながらテーブルを見れば底に存在したのはチキンだった。

PAGETOPPAGEBOTTOM