PandoraPartyProject

SS詳細

今年のブリッジ歩きは十年に一度の出来栄え

登場人物一覧

コスモ・フォルトゥナ(p3p008396)
また、いつか
フォークロワ=バロン(p3p008405)
嘘に誠に

『とある豊穣の村の祭りを盛り上げてほしい。特記事項として、鼻がある美形の者に限る』

 ただの依頼にしては妙な指定だ。
指定された村へと足を運ぶ道すがら、詳細の書かれた紙に目を通した『嘘に誠に』フォークロワ=バロン(p3p008405)は、そのようなことを考えた。
 傍らの彼女も自分も、たしかに目鼻立ちは整っているから依頼の条件には合致しているだろう。祭りとやらに関係するのだろうか。バロンが祭りの簡単な内容を読み進めていくと、どうやら怒れる霊を鎮める鎮魂祭の類であるらしかった。
 
「(隣の方の名前を忘れてしまいました……バーロー様でしたっけ?)」

 一方、仲間の名前を忘れた『廻煌の星』コスモ・フォルトゥナ(p3p008396)は、目を閉じたままうんうんと唸っていた。かつて全てを知っていた彼女にとって、“覚える”という行為は大変労力を使うのだ。

 日も沈みかけて来た頃、二人は目的地の村へとたどり着いた。

「おお! イレギュラーズの方ではありませんか!? しかも二人とも顔が良い!」
「酒だ! 酒を持ってこい! 今夜は宴だ!」
「うお、ねーちゃん三つ目じゃん! 俺たちと同じ獄人かい?」

 着いて早々村人たから熱烈な歓迎を受けたバロンたちだったが、同じギルドのあの人を連れてこなくてよかったとバロンは思った。村人の額を見れば角、角、角。おそらくは全員が鬼人種だろうか。これだと鎮魂祭の前に鎮魂するべき悪鬼がいるなどと言い出して村を廃墟にしそうな者に心当たりがあったが、依頼を受ける時にショップに並べる新鮮な角を狩りに行くとかいう理由で不在だったので本当によかった。

 歓迎もそこそこにまずは宴会だと豪勢な食事を出されたバロンたちは、ありがたくそれらをつまみながら“祭り”の詳細を彼らから聞くことにした。

「……具体的には、何を鎮めるのでしょうか?」
「へえ。その昔、一人の少女がいたんです。とても顔が醜い少女でして、性格も最悪でした。んで、ある日乱心して村の美形の者の顔を片っ端から斧で叩き斬って回ったんですよ。すぐに周りの者に捕らえられて殺されましたが、それ以来幽霊になって化けて出てくるようになった……という伝承がうちの村に伝わっていているんですよ」

 その、物騒な話ですね? と質問をしたフォルトゥナが首を傾げる。そもそも美しいとか醜いとかが未だによくわからない彼女には難しい話であった。
 噂に聞く“反転”とやらだろうか。呼び声は嫉妬か、はたまた色欲か。幽霊などというからには魔種と無関係かもしれないが……霊の形をとった八百万……精霊種ならばありえない話でもないだろうとバロンは冷静に思考した。

「つまり、その醜い少女の霊を鎮める、と」
「そういうことです。まあ昔の伝承なので霊なんているかもわかりませんけどね。
例年、村の中で顔がいい者を選んで行う鎮魂祭ですが、あまりやりたがらない者が多いんですよ。そこで、せっかくだからなんでも依頼を受けてくれるっていう神使の皆様にお願いしようと」

 誰もやりたがらないとはどういうことだろうか。
 多少引っかかる点を覚えたが、依頼である以上淡々と遂行するだけだ。
 バロンがその旨を改めて伝えると、村人たちは安堵したような笑みを浮かべてこう言った。

「では、お二人には今からお着替えをしていただきましょうか」



「これは……一体……」

 鎮魂用の衣装とやらに着替えさせられたバロンたちは姿見で自らの恰好を正しく認識した。
 手ぬぐいを頭を覆うように被らされ、顎の下で結ばれている。
 鼻には紐を通した銭が宛がわれ、衣服の類はややサイズが大きめの農民服といったいでたちである。
 見る者が見れば「どじょうとかすくいそう」などと言いそうな恰好を目鼻立ちの整った二人がしているものだから、余計に違和感が大きかった。

「この姿に意味はあるんですか?」
「鼻の銭は顔を見ようとする少女の目を眩ませるため。頭の手ぬぐいは顔を叩き斬られても脳漿が飛び散らないようにするためといわれています」

 殺される前提では? とバロンは訝しんだが、昔から伝わる祭りだしそんなものなのかもしれない。無理矢理自分を納得させフォルトゥナと共に広場に出ると、待ち構えていた村人が総出で二人を出迎えた。

「――さあ、今年の“怒嬢救い”はあなた方が主役です! いいですか、やることは単純です……」

 ――ブリッジの体勢で村を練り歩いてください。




「……なんだか面白い試みですね」
「面白いのは村人と少女の霊だけでは?」

 胸をそらして四つ足で村を這い回る美男美女を、村人たちが指さして笑う鎮魂祭――“怒嬢救い”。見目麗しい男女が奇怪な恰好で気の触れた仕草をすることで怒れる醜女の溜飲を下げさせる儀式。
かつてこれほど悪趣味な祭りがあっただろうか。いやない。
 ちなみにブリッジ歩きなのは、長年の試行錯誤の結果これが一番“怒嬢”のウケがいいという結論に至ったからだとか。

「おお、出たぞ! “怒嬢”だ!」
「今年の怒嬢もいつも通りだな!」

 村人たち背後から、すぐにそれはやってきた。

『美女が逆さ歩きでいい気味だ! 美男が逆さ歩きでいい気味だ!』

 “怒嬢”が――“怒嬢”役として醜い化粧を施し、手斧を持った女が二人を嗤いに来る……はずだった。
 少なくとも二人はそう聞かされていた。
 だが目の前に立つ女は明らかに体が透けている。それとも、元々体が透けている精霊種が怒嬢役になっているのか。いや、この村には獄人……鬼人種しかいなかった。
 それにこの圧力、嫌悪感。醜くする化粧などなくとも一目で醜悪と評するに値する腫れた顔。
 ということは、目の前にいるのは……。

『今年の美人は殊更美しいな! おお妬ましい……でもそのおかげでいっそうブリッジ歩きにシュールみを感じるので良し! “ここ十年で最高の出来”!』

 ワインのキャッチコピーみたいなことを言ってスッと空気に溶けるように消える“怒嬢”。
 次の瞬間、村人たちからどっと歓声が沸いた。

「やるじゃねえかお前さんたち! 去年は最大の不作とか言われて村の人口が半分になったのによぉ!」
「俺たちもいいもの見させてもらったぜ! 来年もまた来ちゃくれねえか?」
「今年も無事にやりきりました! お二人とも中々の胸の反りでした! 私の“怒嬢”役もつい気合が入っちゃいましたよ!」

 バロンとフォルトゥナは労いの言葉を適当に受け流して足早に村を後にした。
 村の人口が半分になったとか聞いてないし、如何にも怒嬢役をやりきりました感を出して話しかけてきた女はさっき他の村人と一緒にバロンたちののを二人は見ている。
 何か、大きな力がこの村に働いているのだろうか。
 だとしたらきっと……あの“怒嬢”は……。

「不気味な、依頼でしたね……ババロアさん」

 感情の起伏があるのかも怪しいフォルトゥナをもってしても不気味と評さざるを得なかった此度の依頼。バロンも頷きを返して最後にこう締めた。

「バロンです、フォルトゥナさん」

  • 今年のブリッジ歩きは十年に一度の出来栄え完了
  • NM名甘海與美
  • 種別SS
  • 納品日2020年07月28日
  • ・コスモ・フォルトゥナ(p3p008396
    ・フォークロワ=バロン(p3p008405

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