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武器商人とリリコとユリックの話

登場人物一覧

リリコ(p3n000096)
魔法使いの弟子
武器商人(p3p001107)
闇之雲

 武器商人が孤児院へ着くと、皆で3on3をしているところだった。
 ロロフォイと最年少のチナナはシスターといっしょに審判役。といっても、チナナは見ているだけだから、応援役のほうが正しいか。
 そう思いながら武器商人が門をくぐった時、ちょうどベネラーとユリックが睨みあっているところだった。一進一退、いい勝負だ。だが一瞬のスキをついて、ベネラーからボールを奪ったユリックは、そのままシュートを決めた。古いボロボロのボールが、今にも落っこちそうなゴールへ吸い込まれる。
 ぱちぱちと拍手をしてやると皆が武器商人を向いた。動きやすい服に着替えていたリリコが駆け寄ってくる。
「……こんにちは、私の銀の月。来てくれてうれしいわ」
 激しい運動の後のせいだろう。いつもは血の気の薄いリリコの頬が薔薇色に染まっていた。一房だけ編み込んだ髪でハニーグリーンのリボンが風に揺れている。
「やァこんにちは。元気そうで我(アタシ)もうれしいよ、おまえ」
 頭を撫でてやると、リリコはおとなしくされるがままになっている。
「武器商人さーん、久しぶりっ!」
 ロロフォイが飛んできて抱き着いた。そのまま犬のように頭をぐりぐり押し付けてくる。
「あのねー。あのねー。聞いて欲しいこといっぱいあるの。僕の焼いたジャムパンがね……」
「あら武器商人、そんなとこにぼーっと突っ立ってないでくれる? 座るならこっちよ」
 ロロフォイを遮り、ミョールが庭の隅を指さした。そこにはあつらえたようにテーブルと椅子。赤いチェックのテーブルクロスの上には茶器が用意してあった。
「ふふん、そろそろアンタが来ると思って用意したのよ。感謝しなさいよね」
「そういうことならもちろん感謝しよう。ただ今日の用事はもう決まってしまってね」
 武器商人はボールを持ったままのユリックへ顔を向けた。
「ん、もしかして俺?」
「そうとも」
 武器商人がうなずくと、ユリックはボールを放り上げて全身で喜びを表した。
「やりぃ! 俺、おごられるの大好き! よろしくな武器商人のにーちゃん!」
「……ユリック、私の銀の月は……」
「ヒヒ、どっちだっていいよ。ユリックには我(アタシ)がそう視えるだけの話だ」
 半眼になったリリコの頭をポンポンと叩き、武器商人は二人へ着替えてくるよう言った。

 ユリックは制服に着替えると、我先に武器商人の馬車へ乗り込んだ。元気のいいことだと武器商人は微笑む。リリコと武器商人が着席すると、ユリックは期待を隠さず前のめりになった。
「今日はなんかおごってくれるんだよな?」
「そうだね、俗な言い方をするとそうなるし、もう少し歯に衣着せるとプレゼントだね」
「やった! にーちゃん金持ちなんだろ? なんでもいいか?」
「王侯貴族ほどではないとだけ言っておこうか。何が欲しい?」
 ユリックは瞳を輝かせた。
「アクセが欲しい!」
「服じゃなく?」
「服はかさばるし場所取るし、いざって時持っていけないだろ。やっぱり火事だの夜襲だの泥棒だのに強いのは服より断然アクセ!」
 って、かーちゃんが言ってた。そうユリックは付け加えた。
「……今日はおしゃれしに来たと思っていたのだけど」
「アクセだっておしゃれだろ? 違うか?」
「違わないよ、ヒヒッ、ヒヒヒッ」
 わかりやすくて面白い子だ。ベネラーとは正反対。わがままなくらい自分をしっかり持っていて、自信もあって、あと欲深い。それがラサで流れのジプシーに生まれついたからなのか、それとも、元からの性格なのかはわからねど。武器商人はユリックの俗っぽく、それを隠さないところが気に入った。
「それじゃアクセサリーショップに行こうか。どんなのが好みだい?」
「金ぴかのやつ」
 かくんと武器商人はうなだれた。漠然としすぎだ。もしかしてこの子は、親から吹き込まれた価値観をそのまましゃべっているだけではなかろうか。アクセを欲しがる理由も、身を飾るためではなく財産としての価値であるし。
(そういえばかーちゃんがどうとか言っていたね)
 ユリックは孤児院の子だ。ということは、つまり、父も母もいないか、なんらかの理由で……捨てられたかだ。ジプシーは仲間意識が強いから後者はありえまい。ならば親を失ったととるのが普通だ。亡くした母の生前の言葉をかたくなに守っているのか。そう思うと、愛おしさがこみあげてきて、武器商人はユリックの頭をやさしく撫でていた。
「いいよお、金ぴかのやつだね、ヒヒッ」
 馬車はまずハイブランドジュエリーショップの前で止まった。いらっしゃいませ武器商人様と、お仕着せを着こなした店員たちが礼をする。ケースの中には目を見張るような美しい細工の数々。だがユリックはつまらなさそうにしている。
「なんか違う」
「そういうと思ったよ」
「きれーだけど、なんか違う」
「……だけど、物は一級品よ?」
「そーだけど、なんか違う」
 なんか違うんだよなあとうんうん唸っているユリックを、店員が呆れと微笑ましさを絶妙にブレンドした顔で見ていた。
「よそ行こう、よそ」
 ユリックがその結論をくだすまで時間はかからなかった。
「……本当にいいの? 長く使えるいいものを買うなら、このお店のほうが」
「だってなんか違うし」
「いいんだよおまえ。ユリック、ここには縁がなかったようだ。次へ行こうね」
 馬車に戻ったユリックは口を尖らせたままぶつぶつ言った。
「だってあんな華奢なのばっかりじゃ、火事にあったらアウトじゃん? 石だって小さかったし、もっとごっついのじゃないと」
「……原石から一番良い部分を選り抜いて加工するとそうなるわ。……あのお店、信用おけそうないいところだったのに」
「珍しく饒舌だね、おまえ」
「……だって、私だったら、あのお店で買うわ」
「おまえも欲しかったのかい?」
「…………少しだけ」
 イレギュラーズにはお守り代わりにアクセサリーに凝る者も多い。それを見慣れているリリコには、あの店の品格がすぐにわかったのだろう。だけど、大事なのはそこではないのだ。そう武器商人は思った。
(いいんだよ、ユリックはね、思い出探しをしているんだから)
(……思い出?)
(そうだよ。口ではいろいろ言っているけれど、亡くなった家族との思い出をね、探しているのさ。だけどまあ一度は一流のものを見せてやりたいのが親心ってものだろう?)
 リリコへそうささやくと、武器商人は軽く笑った。
 その間も馬車はごとごと。路地をめぐり、だんだんとごみごみした小汚い街並みへ。ラサの出が集まった小さな一角、通称ラサタウンへ馬車は入っていった。真四角の奇妙な建物が連なり、洗濯物が青空にひるがえっている。ユリックは窓に張り付き、ぽかんと街並みを眺めている。
「こんなとこあったんだ」
「ちょっと遠いがね。ユリックのためならこのくらいどうということはないさ」
 ユリックはなつかしげに窓を向いていたが、やがて背を向けたまま「ありがとう」と言った。
 そのうち馬車が止まった。
 小さな店だった。インゴットやビーズに加工した金を連ねただけの、無骨なアクセサリーが天井からすだれのように垂れ下がっており、店主が退屈そうにカウンターへ座っている。
「うん、あんな感じ! あそこ行こうぜ、にーちゃん!」
 ユリックが振り向いた。
「もちろんここへ連れてきたかったのさ。好きなのをお選び」
 毬のように走っていったユリックを、リリコがゆっくりと追いかける。店内はぎっしりとイエローゴールドの輝きで埋め尽くされ、全体的に下品でちゃちく見えた。が、ユリックはなんのその。飛び回るように品定めをしている。
 カウンターの店主が武器商人の姿を認めて立ち上がった。
「おや武器商人様。ご無沙汰しておりやす。今日は何の御用で?」
「K18の計り売りを」
「へえ、かしこまりやした。純金もございやすがいかがいたします?」
「18でいいよ。24は扱いきれないだろうから」
「ちなみに何にお使いで? 錬金に? 魔術に?」
「いいや、そこの坊やにプレゼントするのさ」
「はっ、こいつはまたどういった風の吹き回しで」
「あの子はラサの出なんだよ」
「ほう」
 店主は愉快そうに笑い、白い手袋をはめると壁にかけてあったネックレスを手に取った。
「おい坊主、こっちへ来な。武器商人様がお恵みをくださるそうだ。ありがたく受け取れよ」
「おう、もらえるもんはもらうぜ!」
 寄ってきたユリックへ、店主は小さなインゴットを連ねたネックレスを首へかけた。そのままでは長いので二重にしてやる。
「けっこう重いな」
「なんの序の口よ。この程度で音を上げるのか?」
「なわけねーだろ!」
「ヒヒヒ、気に入ったかい?」
 鏡の中の自分を確かめたユリックはリリコを振り向いた。
「似合ってるか?」
「……ごてごてしていて、少し、浮いているかも」
「やっぱそうか。普段は服の下に隠しとこうかな。誰かに取られたらやだし」
「……そうしたほうがいいと思う。制服には、似合わないし」
「だよなー」
 などと言い合っているので、武器商人は店主へ目くばせした。
「ラサの服も着てみるかい?」
「うん!」
 店主が好意で持ってきてくれたカンドゥーラは、ユリックの浅黒い肌と金髪によく似合っていた。
「いい感じだけど、やっぱ孤児院だと浮くよなー。こっちはやめとくわ」
「おや、案外見た目を気にするんだね」
「群れで動くときは一人だけ目立っちゃダメだろ。それをしていいのはボスだけ。んで俺らのボスはシスターだから」
 ほわんと武器商人の頭にゆるーく笑うシスターが浮かんだ。なるほど、あれが基準なのか。たしかに派手な格好はできまい。
「じゃあ決まりだ。そのネックレスにしよう。それと……」
 武器商人は袖から丸いものを取り出した。真新しい新品のボール。
「これをキミにあげよう」
 ユリックが年相応の顔になった。にやけつつ照れくさげにボールへ手を伸ばす。
「へへっ、今日のプレゼントで一番うれしいかも」

  • 武器商人とリリコとユリックの話完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別SS
  • 納品日2020年07月13日
  • ・武器商人(p3p001107
    ・リリコ(p3n000096

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