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ワイルチェッカー・ミステリーハウス
登場人物一覧
「『ワイルチェッカー・ミステリーハウス』の噂を知ってるよな?」
授業終了のベルが鳴り、慌ただしい昼前の教室。
学習机に向かい側から手を突き、身を乗り出してくる大柄な少年がいた。名はジェイビー。クラスでも有名なジョックだ。
「知ってるけど、それがどうかしたの」
教科書をバンドでとめながら返すリュカシスに、ジェイビーは顔を近づけた。
「そこで肝試しをするんだよ。お前も来い」
『ワイルチェッカー・ミステリーハウス』は鉄帝にある観光スポットだ。
銃器メーカーで財を成したワイルチェッカー家に起きた悪魔めいた狂気と惨劇は町でも有名で――。
「悪霊に取り憑かれたというアンナ・ワイルチェッカーは父をハサミで惨殺した。
これが悪霊のしわざだと言われた母サルサは家を不気味に改築していった。
悪霊たちの目を誤魔化すために、開いても壁しかないドアやどこにも通じていない階段。落とし穴のように開いた床や逆さ部屋を作らせた。
けどアンナは『ぬいぐるみにおやすみを言わなかったから』という理由で母親を絞殺し、そのあとすぐに自殺した。
最後にこのミステリーハウスだけが残ったが……悪霊に魅入られたアンナの魂は今でもこの家をうろついてるって話だ」
「そんなの嘘だ」
強がるように言うリュカシスに、ジェイビーはにやにやと笑った。
「どうかな。今から順番に家に入って、アンナが自殺したっていう三階の部屋からここにいる俺たちに手を振る。それが出来た奴が勝ちだ」
「いいよ。最初に入ってから5分に一人ずつ入っていこう。後の人に見つかったらリタイア。いい?」
「いいとも。それじゃあ――」
じゃんけんで、リュカシスは最後のひとりになった。
最初はジェイビー。そのあと2人挟んでリュカシスの番だ。
しかし……。
「誰も手を振らないね」
リュカシスと一緒に見届け人としてやってきたトムが三階の窓を見上げていた。
「次はリュカシスの番。僕はここで見てるから、行きなよ」
「うん……」
リュカシスはおそるおそる玄関の扉を開いた。
家の中は薄暗く、持ち込んだランタンの明かりが無ければ足下だって見えなかった。
三階に到達していないということは、ジェイビーたちは家のどこかで怖じ気づいて立ち止まってしまっているんだろう。
そう思って進んでいく……が。
「変だな。誰もいない」
試しに名前を呼んでみるが、返事はなかった。
その代わりに、背後の廊下を小走りに通り抜ける音がした。
咄嗟に振り返るが、誰もいない。
「ねえ、誰かいないの?」
リュカシスはおそるおそる進み、角を曲がったところで――。
「うわああああああああああ!!」
「ひゃああああああああああ!!」
鉢合わせになったジェイビーと顔を見合わせ、同時に絶叫した。
「なんだ、ジェイビーも止まってたんじゃないか」
「ちげえよ。家の中がごちゃごちゃしすぎて迷ったんだ。ケリーとホランドは裏口からリタイアしたけどな」
「なあんだ」
裏口があったんじゃ無いか。
リュカシスはほっと胸をなで下ろし、壁をこんこんと拳で叩いてみた。
「ねえジェイビー、この壁すこし変だ」
試しに強く押してみると、壁がごとんと音をたてて開いた。隠し扉だ。その先にあったのは、薄暗い階段だった。
ジェイビーと顔を見合わせ、慎重に登っていく。
すると……。
「あ、見て。この部屋」
「アンナが自殺したっていう部屋じゃねえか」
「ってことは。ボクの勝ちだね」
リュカシスは窓際に立ち、眼下のトムに手を振った。
慌てて手を振り返すトムを見て、リュカシスはジェイビーと苦笑しあった。
そして……。
「案外たいしたことなかったね。勝負もボクの勝ちだったし」
ミステリーハウスから出てそんな風に言うと、トムは首を傾げた。
「ちがうよ。リュカシスの前に手を振った人がいたんだ。顔は見えなかったけど、その人の勝ちじゃない?」
「…………」
「…………」
リュカシスとジェイビーはもう一度顔を見合わせ、裏口からリタイアしたというケリーとホランドとも顔を見合わせた。
「「うわあああああああああああああ!!!!」」