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ぜんのうかん
登場人物一覧
ああ。円筒形の器が在ったならば、今直ぐにもタンパクを摘出して終いたい。仕舞い込んだ大波を越えて、何が何やらと問い掛けても絶望は鎮まっている。沈むかと思った何者かも浮上して、不浄たる在り様も現状では解放的だ。腐れて崩れそうに見えた『もの』の塊も、峠を越えれば完璧な肉々しさだ。掻っ攫われた思いで躓いても、活きて、生きて『在る』ならば間違えて混ぜても構わないのだ。愈々めまいが悦ばしく感じられ、このザマは死に近付いた証明なのか。つまり僕は視界すらも真面に維持出来ず、ぐってりと思考の回転に囚われているのだ。傷んだ果実も痛ましい過日も、咽喉を粘つけば窒息も楽しい戯れだ。相変わらず。蒼い貌でも※※ちゃんは此方を向かない。窶れそうな輪郭でも※※ちゃんは此方を知らんぷり――それでも。伸びた。一緒に在るだけの時間が増えたのだ。たとえ『絆』と吐き散らされても。腐れ縁だと塗れても。単純に嬉しくてたまらない。そうだ。一緒に入った水槽の話でも為そう。一緒に嘔吐した思考を絡ませよう。解けない幸せの言葉を投げよう。一度でも二度でも何度でも、自分を晒したら留める事など出来ないのだ。もしかしたら。万が一。その硝子玉が純粋に溢れるならば。慈悲深い繋がりをカミサマは与えるのだろうか。心は通じなくてもいい。精神が歪でも仕方がない。無いと失いの重なり合いだが、元居た世界の『甘えたい』が圧し掛かり――罹る盲目性の愛情が、ぬるま湯の所業に餓えている。手を掴んでよ。踵を返さないで。出鱈目な言葉でも満足出来るから。嘘。大嘘。全部全部全部全部……赤色のアンテナが振り回されて、最早自分自身でも治まらない。僕はきっと不治の病に蝕まれて、只管に濃密を求めているのか。羊羹の味も色もわからなくて、助けを呼ぼうにも緑が過ぎて潰れそうだ。惰性――それを覚えているのは僕だけではない。ぐうたらと身をとかして在れば、溜息を吐いた※※ちゃん。まともに食べたのは何時だったっけ? そういえば昨日の朝ご飯は空気だけだったな。支離滅裂な脳味噌が、心臓の鼓動を狂わせていく。放置される気分はひどく苦しいものだが、でも、※※ちゃんのお顔が霞んでみえてありがたい。有難い有難いと手を合わせ、指先を確かめながら啜ってしまう。嫌だ。まだ味わっていたい。まだおぼえていたい。まだ感じていたい……曇っているのは気の所為だと、心の底から妄想している。
次の日も。また次の日も。その次の日も。嗚呼。いっそ僕は餓死するほどに、安寧へと堕ちて躍れば好い。皮と骨だけの己を見つけた何者も、擁する思いに気付く筈だ。段々を降りるのも登るのも面倒で、不明的な溶解を『受け入れて』違いたいのだ。ずきん。頭痛だろうか。胸痛だろうか。僕はそんなにも、弱った心身を『知らない』のか。言葉が聞こえない。意味がわからない。頬をそめる真っ赤は、恥ずかしさと喜びの混在に決まっている――じん、じん――正気に戻ってほしいと。そんなのは僕の幻聴だ。幻覚だ。断末魔を放った海にだって、転ぶ『反』が蔓延ったと謂うのに、曰くを信じないなんて在り得ない。半ば朦朧とする意識の中で、ぬるい水で湿らせた……おかしい。可笑しいな。僕はどうして笑っている。※※ちゃん。明日も――外道だと謳うならば、如何か独占してくれないか。囲むように枕におちて、眠れぬ現実が天使のわっかを望んでいる。静まった混沌の片隅で、僕は※※ちゃんの喜怒哀楽が欲しいのだ――塩味砂糖味※※ちゃん味――確かに。ずるいのは『僕』だった。
地と天が手を放している。
だから僕は解放されない。だから僕は開放しない。だから僕は介抱されている。ぐるぐると啼いている『昼夜』の所業に、鳴り始めた胃腸は※※ちゃんが訪れる合図なのだ。また。会ったね。逢ったね。遭ったね。在ったのだ――今日は昨日と同じように、素敵な素敵な紅葉狩りに出かけよう。明日も今日と同じように、歓喜な歓喜な食事ごっこを愉しもう。面倒を見てくれてありがとう――突然に現れた『貌』は何を『視る』色ですか。整った。可愛らしい。かっこいい※※ちゃんが台無しだ。それでも僕を視てくれる。感じてくれる。覚えてくれる。なんだかわらいがとまらない。お医者さんを紹介したって意味は無いのだ。何故かって。僕はいつだって※※ちゃんの『僕』ですから――消えた。音も無く、消えた。もう『こんな』時間だ。もう『とっくに』帰っている。何処までが現実で幻覚か、可能な限り『理解』せねば成らない。こねた駄々を返す術は知れない。痴れたならば指輪の大きさは無茶苦茶だろう。ねえ。穢れているのはもしかして――頷く貌も首振る貌も、横も縦も居なかった。大丈夫。※※ちゃんは必ず【戻ってくる】のだ。僕の遠い遠い、絶望や希望に導かれても。最後にはふれあう事が出来るのだ。
――いちばんだ。僕が。いちばんだ。※※ちゃん。
心地いい人間音――。