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ギルドマスターのイジワル個人授業(プライヴェート・レッスン)
登場人物一覧
●タイトル書いてて頭痛がした
「ふーん」
少しわざとらしい声を上げて執務机に向かっている。
「成る程――成る程ね」
何が、と思わず聞きたくなる位に居心地の悪い反応と共に何やらを考える彼は薄い縁の眼鏡を軽く掛け直し、相変わらず興味深そうに視線を書類へと落としていた。
……混沌世界に神託が降りたのはもうずっと昔の話である。
正確に何時の事かさえ不明。長らく神託の証明――旅人達と混じり合ってきたこの世界はその始まりの時を記録していなかった。唯、確かなのはこの二十年ばかり使命を帯びた特異運命座標達を導き、空中神殿と連携して大いなる破滅に立ち向かう旗振り役になっているのは世界最大とも称される冒険者ギルド――ローレットであり、書類から顔を上げ、私の顔をじっと興味深そうに見つめるギルドマスター……
……レオン・ドナーツ・バルトロメイ……さんだという事だけだ。
「さて、どうするか――」
「――あの!?」
余りにも長い何とも言えない時間の方に我慢し切れなくなってしまった。
レオンさんと私は正真正銘に今日が初対面で――ここへは空中神殿から『直送』でやって来たばかりなのだ。それも他にも特異運命座標は居たのに、私だけ残されて今がある!
「ええと、私の書類、何かおかしかったでしょうか――!」
大声を上げた私にきょとんとしたレオンさん。顔が真っ赤になっている自覚はある。
『蒼剣』レオンといえばこの冒険者界隈で知らぬ者は居ない位の
……ああ、もう! 睫毛長ぇよ!
「ああ、いや――(貴方の好きな名前を入れてね★ ちな以後モブ子って呼ぶよ)ちゃんね。
おかしい事は何も無いよ。神殿の――ざんげの召喚ってヤツは結構迷惑なモンでね。
仮にどんな立場の奴であろうと十把一絡げだ。書類で分かるような話に例外も何も無いさ」
「……じゃあ、一体何を」
「そんなの決まってるだろ」
雲行きがおかしくなり、訝しんだ私にレオンさんは楽しそうに言う。
「さっき、皆と話した時、人一倍緊張していたみたいだからね。
俺に何か用でもあるか――それとも特別な思い入れでもあるかと思ってさ」
「は?」
「ガチガチの女の子って大抵二種類なんだよねぇ。
俺の事スゲー警戒してるか、軽く風邪引いちゃってるか――」
「……………は?」
何だ、という事は何だ。このイケメンは初対面の乙女の気持ちでたっぷり粘土遊びしてたってか?
心底から――出てしまった素の反応にレオンさんはいよいよおかしそうに笑っていた。
「そうそう、そんな感じ。気さくな所を見せようと思ってさ。
たっぷり溜めて心配させたらそんな顔してくれるかと思って――
いや、冗談だよ? だからオマエ気にしないでいいよ。大丈夫、普通に特異運命座標。
これからローレットでやっていく仲間だから、宜しくね」
「引っ叩いてあげましょうか」。
そう言ったらレオン……さんは「面白ぇ女」とか笑ってくる。
私のローレット一日目は……そう、波乱含みで始まった。
大丈夫だろうか、このギルド――あと
●本文書いてても頭痛が痛い
――じゃ、決まりね。明日、デートだから――
「……何時、誰が決まったっていうのよ」
思わずひとりごちてしまった私に通行人が視線を向けてくる。
口に出てしまった事を自覚し、大慌てで首をぶんぶんと振りながら――私はつい昨日の出来事を思い出していた。
……といっても別に複雑な事情がある訳でもない。特異運命座標に選ばれ、空中神殿に召喚され――全ては突然だったけれど何とかかんとか面倒くさい……意地悪い……とにかく色々性質が悪いレオンさんにも、ローレットにも慣れた今日この頃。あんな台詞を聞かされたのは突然の事だった。
(……いや、そういう人だってもうとっくに分かってはいたけどさ……)
物語の中のヒーローは現実にはかなり『どうしようもないひと』だった。
如何せん、目につく女の子に片っ端から声を掛ける。本人曰く「十分選んでいる」とは言うが眉唾だ。レオンさんは見てくれだけはいいから身の回りの世話をしたがる天使みたいな女の子や、後をついてまわる――弟子だという――女の子や、お酒が好きな色っぽい女の人や、自分で何を言っているかわからないけどドーベルマンみたいな第六天魔王とか色々な子達が彼の周りに居たけれど、
(……信じられないよ。私を誘うんだもん)
……『十分選んでいる』癖にそんな風にするから、もう訳が分からなくなる。
ローレットのギルドマスターとして多忙で、女の子にもいっぱいモテて、それなのに私なんかを構いたがる――初日からそれは変わらない――彼の事が全く分からない。
(別に、嫌じゃないけどさ)
何とも居心地が悪いのは確かで、本音が見えない意地悪な彼には閉口してしまうのだ。
「……よ、待った?」
「待ちましたよ」
背後から掛けられた声に振り向けばそこには眼鏡を外したレオンさんが居る。
何時もの格好よりカジュアルな軽装で小ざっぱりとしている。如何にもこなれたデートの服装に意識した私だけが赤くなり、それが悔しくて。私はやっぱり憎まれ口を叩くしか無い。
「紳士って、年下の女の子を待たせないものだと思うんですけど」
「モブ子の場合はこの位の方が調子いいの」
「何ですか、それ」
「デートってのは待ってる時間も楽しいでしょ。それに『焦らす』のは最初ぶりだし」
「――――」
この野郎、と喉から出かけて飲み込んだ。
柔良く剛を制するみたいな顔をした男の事だ。熱くなれば負けしか見えない。
スーハーと深呼吸を繰り返し、何とか平静に立ち返る。強いてこの男に感謝するとするならば、明らかにこう――彼に比べて『しょうもない格好』をしてきてしまった自分の有様を忘れられた位のものである。
「よしよし、今日は可愛くしてきたな」
「……申し訳ないんですけど、それは嫌味でしょうか」
……とか何とか思ったら秒で思い出させてくるレオンさんに私はジト目をするしかない。
正直、本気の彼を正視するのは心臓に悪いし、言っちゃ何だが全く私は釣り合っていない。
そこを色々すっ飛ばして「可愛い」等と仰られても、そんなもん素直に信じられるかと――
「いや、普通に可愛いでしょ。『不慣れな子がちょっと背伸びして頑張るの』とか」
「あのですねえ! そちらこそ今日は眼鏡じゃないんですね!」
顔がカッカするから思わず照れ隠しに語気は強くなった。
半ば噛み付くように怒鳴ってやればレオンさんは涼しい顔で言ってのける。
「ああ、アレ半分伊達なの。たまにかけてると『頭良さそう』ってモテるから――」
絶句する私に彼は腕を差し出した。
「……はい?」
「デートでしょ。腕位は組むもんなの」
……苦笑いを浮かべた私は大人の余裕を見せるレオンさんの意地悪い顔を見上げて溜息を吐き、この続きを読むには更なる課金が必要です。わっふるわっふる。
―――――マグダレーナ・ティーメ著『ギルドマスターのイジワル個人授業』より
- ギルドマスターのイジワル個人授業(プライヴェート・レッスン)完了
- GM名YAMIDEITEI
- 種別SS
- 納品日2020年07月07日
- ・レオン・ドナーツ・バルトロメイ(p3n000002)
・マグダレーナ・ティーメ(p3p007397)