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モブから見たポテト・アークライト
登場人物一覧
●はじめに
こんにちは。世界を救う『イレギュラーズ』に密着するこの企画。
今回は天義の英雄を傍で支える奥様として名高い、ポテト=アークライトさんについて密着取材です。
──と言っても、ご本人の取材だけでは得られない情報やモノがあるのも事実。
そこで、今回はポテトさんに詳しいという三人の方にお話を伺いました。
それでは、ご覧下さい。
●街の少女・ジーナの話
ジーナさんは聖都に住む四歳の少女である。
茶色の髪をおさげにしていて、ちょっぴり引っ込み思案なところもあるが、元気で優しい女の子だとか。
しっかり事前にアポイントを取っているので、おっかなびっくりされる事も無い……筈である。
──こんにちは。今日はありがとうございます。
「うん。いいよ。ジーナはおはなしすきなの」
──じゃあ、質問させてください。ポテトさんの事なんですが。
「ポテトおねえさん! ジーナね、ポテトおねえさん大好き!」
──どうしてですか?
「ポテトおねえさんのだんなさまとね、サウレにいちゃんがね、一緒にけいこしてるの。サウレにいちゃんはね、きしになりたい! っていってね、だんなさまはきしだからね、でしにしてください! って」
──ふんふん。
サウレという名前は、彼女の実の兄のものであるようだ。
「それでね、けいこの日はね、ポテトおねえさんもいっしょにくるの。おねえさんはやさしい目でね、きれいな顔でわらってるの。とってもすてきなふたりなんだよ」
──そうなんですね。ポテトさんとの出会いとかっていうのを聞いても良いですか?
「ええとね。サウレにいちゃんのけいこについてったとき、あったの。終わったら、ピクニックだよって、おいしいサンドイッチとね、クッキーを持って来たの」
──ポテトさんは料理が得意なんですね。
「すごいんだよ! おいしそうなりょうりを、さーってつくっちゃうの。まほうつかいみたい!」
──ポテトさんのお料理でどんなのが好きっていうのはありますか?
「ええとね、パンケーキがおいしかったよ。シチューもおいしいし……あっ、おいものキッシュも!」
──たくさん料理を作ってくれるのですね。
「うん! ね、ジーナもポテトおねえさんみたいになれるかな」
──え。なれますよ、きっと。
「ほんとう?」
──はい。
「おねえさんみたいになるにはどうしたらいいだろう?」
──えっ。ええと、直接聞いてみるのはどうでしょう?
「やだ! だんなさんもおねえさんも、にいちゃんもびっくりさせたいもん。はやく大人になりたいな」
微笑ましいインタビュー内容に、ほっこりする記者たち。
そこに、少年の声が届いた。
「ジーナ、こんなところに居たのかーっ」
「にいちゃん!」
彼が兄のサウレさんだろうか。駆け寄る二人。
「あ、すみません。妹になにか……?」
──ああ、ジーナさんにポテトさんについてのお話を伺っておりまして。私達、こういう者でして。
インタビュアーはサウレさんに名刺を渡し、改めてジーナさんへの取材の許可をサウレさんに取る。
「今日はジーナを連れて牛乳配達に行く予定だったんですが……そういう事でしたら、時間までで良ければ」
──ありがとうございます。サウレさんにも、よろしければお話を伺っても?
「ええ、僕が知ってることで良ければ」
●街の少年・サウレの話
サウレ・カーニア氏はまだ十歳であるが、早くに親を亡くし、妹のジーナ氏を養う為にパンや牛乳を運ぶ仕事をしているのだとか。その傍らで騎士を目指して剣を振るうという、まっすぐな心の少年だ。
以前にも同社のインタビュアーの取材を受けた事があるとか。
──では、宜しくお願いします。サウレさんから見て、ポテトさんはどういう方でしょうか?
「優しくて、暖かい人ですね。こんなことを言うのは失礼かもしれませんが……まるで母のような、包み込むような雰囲気を持つ人です」
「おかーさん?」
──成程、母性溢れる方と。
「旦那さんと一緒に、ローレットでお仕事をされていると聞いて本当に驚きました。普段のポテトさんを知っていると、戦う姿を想像できないくらいで……でも稽古の途中ちょっと深い傷を作った時も、すぐに傷をふさいでくれて……」
「あのときのにいちゃん、うでからいっぱい血がでて、いたそうだった……」
「ええ、あの時かけてくれたポテトさんの治癒魔法は、まるで奇跡を見ているかのようでした」
──確かに、あの細い身体を見ると第一級を張るイレギュラーズとは思えませんが……それは凄いですね。
「そう……命をかけた戦いをくぐりぬけて、辛くて大変な傍らにも、ポテトさんは笑顔を忘れない人です。僕らみたいな子どもの面倒を見てくれたり、美味しい料理を作ってくれたり……感謝してもしきれないですね」
──エピソードを聞けば聞くほど、まさに聖人みたいな人ですね……。
「旦那さんは、『可愛い所もあるんだよ』、なんて言ってましたけど……僕たちにとっては優しくて気高い、理想の女性みたいな人です」
「にいちゃん、ポテトおねえさんすきなの?」
「ば、ばっか、おまえ……」
顔を赤くするサウレ氏。
「ああ、もう。すみません、もうパン配達の時間なので、僕らはこの辺で!」
──ああ。お引き留めしてしまい、すみません。今日はどうもありがとうございました。
「またね~!」
仲の良さそうな兄妹は、手を繋いで去っていった。
●精霊・デルフィニウムの話
デルフィニウム氏は
我々取材班も、精霊種の方と会うのは初めてであり、非常に強い緊張感の下伺った。
うら若き少女のように見えるが、その年齢はゆうに成人女性のそれを超えているという。
「人間さん、こんな場所までようこそ。お疲れではないかしら?」
──人里離れた場所まで来るのはさすがに骨が折れましたが。
「くすくす。まあ、ゆっくりなさって。用意できるのは、花の絨毯くらいだけれど」
デルフィニウム氏がその白い手を空に伸ばすと、インタビュアーの足元から色とりどりの花が急速に育ち始めた。
──わっ! 驚きました。
「私は花の精霊だもの。こういうのは得意なの」
──成程……では早速、ポテトさんとの出会いなどを教えていただいてもよろしいでしょうか。
「ああ、何がきっかけだったかしら。そうそう。あの子、大地や植物との結びつきが強い精霊なのね。仲間だと思って顔を見せてしまったのがきっかけだったわ」
──お互い、驚かれたのではないですか?
「最初はね。でも、同じ精霊同士だもの。すぐに仲良くなれたわ。『ギフト』も似たようなものだったし」
──そういえば、ポテトさんも精霊だというのは……?
「あら。知らない人間さんもいるのね。あの子は別世界の精霊なの。この世界で生まれた私達とは似て非なるもの。でも生まれた目的はきっと同じ。望まれて生まれたもの」
──と、言いますと。
「自然の力によるもの……かしら。あの子は『女神』という存在が生み出したらしいけれど。私達は世界がそうであれと肯定して生まれた存在。厳密には違うかもしれないけれど……少なくとも、ヒトに害悪を与えるために生まれた存在ではない、という事かしら」
──成程……?
「あの子、『芽吹い』てから随分と変わったみたいよ? まあ、多分人間さんとの交流の結果もあるでしょうけれど……やっぱり大切な存在が出来てから、かしらね」
──芽吹く……?
……彼女の言葉は抽象的……というか、要領を得ないようにインタビュアーは感じたようで、しきりに首をひねっていた。
「あらあら。人間さんには難しいかしら」
どうも妖精特有の言い回しというか、方言というか、そんなものらしいようだ。
「そんな事より、ヒトを愛した精霊はどうなっていくのか……ねえ、興味ないかしら?」
──確かに、人間と精霊の夫婦というのは、ほとんど聞かないですね。
「私達はヒトのかたちをしているけれど、ヒトとは全く違うの。ヒトと精霊の愛。その過程は、私達にとって興味の的であり──同時に羨望の的よ」
──しかし精霊種の方々も、今は積極的に他の種族と交流を図っているように見えますよ。
「それでも、愛し合う関係になるには時間が掛かるわ。壁も多いはずよ。私達精霊種はとても閉鎖的だったから文化にも疎いし──何より、私達は人間より長く生きてしまうから」
──……。
「私達はあの子にとても期待しているの。色々な困難を乗り越えてきたのだもの。きっと私たちの疑問にも答えてくれる筈」
──その疑問とは?
「決まってるじゃない。子どもが出来るかどうかよ」
──ああ、成程……。
「種族を超えた愛なんて素敵よね。若い
──デルフィニウムさんも、素敵な女性だと思います。
「あら。でも私、人間として同じ時間を過ごしていたらもうおばあさんよ。すっかりそんな心を忘れてしまったわ」
──デルフィニウムさんの幸福も願っております。そろそろお暇しましょう。今回はありがとうございました。
「ありがとう。またいらしてね、人間さん。今度はお花の蜜で作った紅茶を御馳走してあげるわ」
●おわりに
いかがでしたか?
ポテト・アークライトさんについての詳しい情報は知ることができたでしょうか?
今後もポテトさんの活躍に目が離せませんね。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。