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美味しいフロランタンを作ろう!~ランドウェラの場合~
登場人物一覧
●甘い幸せへの挑戦
ふと、お世話になっている人たちにお菓子を贈ろうと思った。
まず思いついたのはランドウェラの愛用品であり、常備品であるこんぺいとう。優しい甘さで小さくて、左腕だけで摘まめるのもランドウェラ的にはポイントが高い。
「よし、こんぺいとう作ってみるかー」
緩い気持ちで作り方をし食べてみたが、こんぺいとう作りは想像を超えた苦行だった。
「熟練の職人が二週間もかけて作っていたなんて……!」
そう、手作りこんぺいとうは熟練の職人が、核となる小さなザラメに専用の柄杓で糖蜜をかけてはかき混ぜを繰り返して作っている。しかも大きくなるのは一日約1㎜。ランドウェラが愛用しているサイズになるには二週間かかる。
「これはちょっと無理だ……」
がっくりと項垂れたランドウェラだったが、ふとあることを思いだした。
「そういえば、フロランタンなら貰ったレシピが……あったあった」
以前魔女集会の準備を手伝った魔女から貰ったレシピ。あれなら作るところをすぐ傍で見ていたし、難しい工程もなかった。きっとランドウェラも作れるはずだ。
「そうと決まれば早速…… ……キッチン貸してくれそうな人探さなきゃ……」
そう、フロランタンはランドウェラが暮らすこの屋敷に集まる仲間に渡すための物。しかもサプライズ。そのため屋敷のキッチンは使えない。
その後ランドウェラはよくお菓子を販売している知り合いのキッチンを貸してもらうのだった。
●いざフロランタン作り!!
貰ったレシピを頼りに集めた材料を手に、ランドウェラは一人奮闘していた。
それというのもランドウェラは右腕を動かすと動かすと痛みを伴うため、基本的に左腕だけで生活しているからだ。
だけどお菓子作りは基本両手作業。慣れない作業の上に、普段片腕で生活しているランドウェラには両手を使った作業が辛かった。
痛い。
力を入れるたびに、ぴしぴしと痛みが奔る。
痛い。
痛みを耐えている間にオーブンでローストしていたアーモンドが焦げてしまった。
「さっきまで全然焼き目つかなかったのに……!」
痛みでお菓子作りに集中出来ないせいか、思うように作業が進まない。念のためにと多めに用意した材料が減っていく。
大きく息を吐いて、こんぺいとうを放り込む。口の中に広がる優しい甘さにイライラがゆっくりと収まっていく。
「……良し、みんなのために頑張ろう!」
前向きになって左手で拳を握ると、ランドウェラは再びフロランタンを作り始めた。
ローストしたアーモンドを冷ましている間にクッキー生地作り。
卓上ミキサーでふんわりと泡立てたバターと砂糖に溶き卵を加え、綺麗に混ざったら小麦粉をゴムベラで混ぜて行く。
ちなみに卓上ミキサーは自動で混ぜてくれるタイプのミキサーだ。そのためランドウェラのような片手しか使えない人でも問題なく混ぜたりできるので、貸してもらった瞬間ランドウェラは卓上ミキサーを崇めた。それから自分も買おうと思った。何せこれがあれば、家でも簡単にお菓子が作れる。
「ふんわり甘いホイップも使い放題……」
想像するだけで幸せだ。
そんな想像をしながらに休ませておいたクッキー生地を5㎜ほどに薄く延ばして焼いていく。その間にキャラメルアーモンド作り。
生クリーム、バター、砂糖、はちみつを鍋に入れて焦がさないように煮詰めていく。
ふんわり甘いキャラメルの香りがしたらアーモンドを入れて優しく混ぜ混ぜ。
「いた、あつ……!」
流石に片手で取り出すのは危険なので、痛みと熱さに耐えながら焼けたクッキー生地を取り出すと、その上にキャラメルアーモンドを乗せて均等の厚さになるように広げていく。
「後はもう一回焼けば……!」
痛みに耐えながらオーブンに入れると、きつね色になるまで20分ほど。
「初めて作ったけど、お菓子作って大変だ……!」
横で見ている分には簡単そうに見えたフロランタンも、実際作ってみると難しいし大変だ。
だけどその分、美味しく出来て欲しいと思うのは当然の事だ。
「ちょっと焦げたかな」
焼きあがったフロランタンは焦げた部分もあって、ランドウェラは焦げた部分を避けて切っていく。
「焦げた部分は苦いんだね」
試しにと焦げた部分を食べれば、苦みと僅かな甘みが口の中に広がる。だけど奇麗な部分は甘くて美味しい。
「みんな喜んでくれるかな」
●甘い幸せ
キャラメルアーモンドのコクとサクサクしたクッキーの甘味が口の中に広がる。
「美味、しい……」
「これランドウェラ君が作ったの!? すごーい!」
「もう……一個食べても良い……?」
「――おいしい」
美味しそうにフロランタンを食べる大切な仲間を見てランドウェラは嬉しくなる。
「誰かのためにって言うか、料理初めてだったけど、みんな喜んでくれて良かった」
痛いし大変だったけど、みんなの笑顔を見ると胸が温かくなる。
充実感を胸に、ランドウェラは部屋へ帰っていった。